2019年09月13日 (金)"ビニール傘" ポイ捨てしてない?


※2019年6月18日にNHK News Up に掲載されました。

雨上がりに街なかを歩いていました。ふと、目に止まったのはビニール傘。あっちにもこっちにも捨てられています。なぜか見慣れた光景に見えるのは私だけでしょうか。急な雨の時はすぐに買えて確かに便利。1年間の消費量が推計6500万本というデータも。でも、雨が止んだら「はい、さようなら」それで良いのでしょうか。

ネットワーク報道部記者 和田麻子・ 牧本真由美

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”ビニール傘”って多いね!

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関東が梅雨入りした今月7日。東京 渋谷のスクランブル交差点でも透明な傘だらけ。ポリエチレンやポリ塩化ビニルなどで作られている、いわゆる、ビニール傘です。

交差点を通る人にビニール傘をさしている人が本当に多いのでびっくり。ビニール傘を持っている人になぜ使うのか、どのように使っているのか聞いてみました。

「出先で急に雨が降ってきたら買ってます。ビニール傘を8本持ってます」
「ついつい置き忘れちゃったり、なくしちゃったり」
「安いから使い捨てという感じです」
「いつなくなってもまた買えばいい」。
しかし、雨上がりの街を歩いてみると…。

こんなにある!?”放置ビニ傘”

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渋谷駅前ではビニ-ル傘がスロープの手すりやガードレールにかかっていたり、壁に立てかけられていたり。塀の上に置かれたままのものもありました。まだまだ使えそうなものばかり。こんなにたくさん放置されているなんて気がつきませんでした。

そもそもビニール傘ってどういうものなのか。知っているようで知らないので調べてみました。

日本洋傘振興協議会の推計によると国内で消費される傘は年間およそ1億2000万から3000万本。外資系のリサイクル会社の推計では「ビニール傘」は年間およそ6500万本が消費されるといいます。安く手軽なことからコンビニなどでも売られて消費者の間に広まりました。

当初はビニールで作られた傘だったため「ビニール傘」と名付けられました。現在はポリエチレンなどのプラスチックが多く使われています。

自治体も困惑

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路上などに捨てられたビニール傘はごみとして回収されます。5月下旬のある日。東京 新宿区の清掃活動に同行させてもらいました。

委託を受けた清掃業者の作業員が繁華街を歩きながら回収していきます。梅雨入り前。しかも雨が降った2日後だったので正直、数は少ないと思っていました。

bini190618.5.jpgしかし、わずか数百メートル歩いて見つかったのは50本。多い日には500本も回収した日もあったそうです。街中がきれいになっているのは、こうした清掃のおかげ。その裏で、こんなにたくさんのビニール傘が放置されている現実は、取材をするまで知りませんでした。

業者の男性は、ビニール傘などをまとめながら渋い表情で話しました。

「使えるものが多くて、もったいない。最近は、いわゆる“ゲリラ豪雨”など突然の雨が増えている。あわてて買って、捨ててしまう人が多い印象です」
新宿区のごみ減量リサイクル課の小野川哲史課長は、ビニール傘を否定しないものの、大量にごみとして出ることを嘆いていました。

bini190618.6.jpg新宿区 ごみ減量リサイクル課 小野川哲史課長
「簡単に手に入るビニール傘で対応したいというお気持ちは非常に理解できるところです。しかし、大量に捨てられ続けるビニール傘にどう対応していけばいいのか。対応に苦慮しているところです」

”買ったことさえ忘れる”
ビニール傘は忘れ物としても大量に出ています。東京 文京区にある警視庁遺失物センターに鉄道会社や警察署から届く忘れ物の傘は、年間およそ30万本。

bini190618.7.jpg今月5日に訪れた時もおよそ6万本もの傘が
ビニール傘も束にされたものが数多くあり、目立ちます。ところが持ち主の元に返る傘はごくわずか。去年はたったの0.9%、およそ3000本にとどまっていました。

傘を取りに来る人の多くは高価な傘や、大切な人からプレゼントされたものなど思い入れのある傘の持ち主。ビニール傘を取りに来る人はほとんどいないそうです。

bini190618.8.jpg警視庁遺失物センター 安間勇峰 遺失物第二係長
「自分の経験でいうとビニール傘を取りに来た探しに来たという人は1人もいないんですね。今はいろいろなものが安く手に入る、大量消費の時代ですからしかたないのかもしれません。急な雨をしのぐために買うだけでなので雨がやんだら買ったことさえも忘れてしまう人も多いかもしれません。しかし、できるだけなくさないようにしてほしいです」

リサイクルの“やっかいもの”
取材を進めるとビニール傘は捨てられたあとにも問題が起きていることがわかりました。

捨てられたビニール傘はリサイクルに回されています。言葉からは役に立ってるという印象を受けるかもしれませんが、実はリサイクルには適していないそうなんです。

どういうことなのか。

bini190618.9.jpg千葉県富津市にある廃棄物の処理工場を訪ねました。ここには各地で回収されたビニール傘が、1か月に20トンから30トンも運ばれてくるといいます。

処理工場にはトラックの荷台から、束ねられたビニール傘がどさっと音を立てながら大量に落とされていました。積み上がったごみの山の中からはいたるところで傘の骨組みが突き出ていました。

工場の福田隆社長はビニール傘がたくさん運ばれてきても嬉しくないといいます。

bini190618.10.jpg東港金属 福田隆社長
「処理が大変で、手間もコストもかかって、リサイクルをしてももうかるものではありません。営業がビニール傘の契約を取ってきても、もういらないよ、という品です」
ここに運ばれてきたごみは、機械で小さく砕いて金属やプラスチックなど材質ごとに分けられます。しかし、ビニール傘の多くは材質が一定でなかったり強力な接着剤が使われていて分別が難しいそうです。

工場を案内してもらうと、リサイクル処理をしたあとの集積場で傘の柄だったとみられる細い金属の棒に透明な生地が絡まっていました。

bini190618.11.jpg現場に来てみてリサイクルに適していないという理由がよくわかりました。

中国のプラゴミ禁止の影響
さらに今、追い打ちをかける事態が起きています。大量のプラスチックごみが国内で滞留しているのです。ビニール傘も含まれています。

bini190618.12.jpg日本はこれまで、中国にプラスチックごみの処理の一部を頼っていました。しかし、去年1月、中国が環境汚染を理由に、突如受け入れを停止したのです。福田社長の工場でも、受け入れたごみの山が高く高くなっているといいます。
「中国への輸出を前提としたリサイクルの仕組みだったんです。その仕組みが突然なくなってしまったことで、各地の工場にプラスチックごみが大量に滞留しています。ビニール傘やその他のプラスチックが、日本国内で処理が仕切れなくて余っているのです」(福田社長)
ビニール傘の使えそうなものが次々と捨てられ、それが行き場にも困っているという現状。「どうにかしないと」という思いにさせられました。

傘をシェアする
ここまで当たり前になってしまったビニール傘に対する意識を変えるのは容易ではないと思います。しかし、その便利さを変えないまま、傘への意識を変えようという動きも出てきているんです。

bini190618.13.jpg東京の都市部や福岡市で始まったのは、傘を共有するシェアリングサービス「アイカサ」です。
東京 渋谷の大手IT企業に勤める、前田塁さん(36)。去年12月から渋谷を中心に始まった、このサービスを利用しています。実際にどのように利用しているのか。見せてもらいました。

bini190618.14.jpg取材した今月7日は午前中に、雨が降り始めました。仕事で出先に向かうという前田さんが立ち寄ったのは、渋谷駅前の売店です。そこには、シェアリングの傘が置かれています。
傘を借りるのには、スマートフォンの無料通信アプリ「LINE」を使います。事前に「アイカサ」のアカウントを追加し、クレジットカードなどの情報を登録。専用のボタンを押して、傘の柄の部分についているQRコードを読み取ると、3ケタの暗証番号が送られ、ロックを解除でき、傘が開きます。

bini190618.15.jpg1日の利用料は70円。月額最大420円で好きなだけ利用できます。傘を借りることができるスポットは、都内と福岡で合わせて、およそ200か所にのぼります。

返却は、どのスポットでも可能で、出先でそのまま傘を手放すこともできます。実際使ってみて、どうですか?使い勝手を聞いてみると。
「雨がすぐに上がって、最短1時間で返却したこともあります。すぐ手ぶらになれるので、とにかく便利です」

傘への意識が変わった
前田さんはシェアリングのサービスを使い始めてから、ビニール傘を買わなくなりました。以前は、自宅の玄関に5本程のビニール傘が常にありましたが、今は1本もありません。いざという時のために会社にビニール傘を1本備えているだけです。

シェアをすることで傘を大事に使うようになり、どこかに置き忘れてしまうこともなくなりました。傘だけでなく、物に対する考え方そのものが変わったといいます。

bini190618.16.jpg前田塁さん
「どうしても自分が買った傘だと、忘れちゃってもいいかなとどこかで思ってしまいますが、シェアリングのサービスは、誰かと一緒に使っているので、物への責任感が出てきます。誰かと一緒に生活を共有しているような気持ちにもなって、物への意識が変わりました」
傘のシェアリングサービスを運営する会社によると、傘の返却率は100%。登録者数は半年で2万人にまで増え丸川照司社長(24)も手応えを感じています。(6月12日時点)

bini190618.17.jpgNature Innovation Group 丸川照司社長
「安くても利用料を支払う仕組みだからこそ、ユーザーが裏切らずに使ってくれる。今まではそうした発想や仕組みがありませんでした。今の現状が変わればだいぶ、面白い社会になると思いますし、これをきっかけに、時代に合ったサービスになっていくと思います。使い捨てが当たり前の社会は、もう限界を迎えてはいないでしょうか。傘は将来、いつかはシェアされるものだと、本当に思っています」

愛着を持って“大切にする物”に
そして、このままのビニール傘の使われ方ではいけない、と訴えるビニール傘の製造会社があります。山本健社長は、ビニール傘の歴史を残念がります。

bini190618.18.jpgビニール傘製造会社サエラ 山本健社長
「安価であるほど売れる、安価に作るから壊れやすい、壊れやすいからすぐ捨てる、この悪循環にはまってしまった」
ビニール傘は生活に欠かせないほど浸透していて、透明で見通しが良いため、災害時などに重宝される便利なものです。だからこそ、“ビニール傘=大切にする物”と思ってもらいたいと考えています。

子ども向けのワークショップを開いて、自分で骨組みから組み立ててもらって、透明な部分に絵を描いたりシールを貼ったりして、世界に1つだけの傘を仕立ててもらっています。

bini190618.19.jpg夢中になって作る中で、愛着を持ってもらいビニール傘を“使い捨てではなく大切に使うもの”という意識を養ってもらおうという狙いです。

便利なものだからこそどう使うのか
取材を通してたくさんのビニール傘が当たり前のように捨てられたり置き忘れられたりしていることを知りました。自分のことを思い返してもあまり考えていなかったし知らないことばかりで反省しました。

ただ、強く感じたことは知らず知らずのうちに置き忘れてしまったり街中に捨てたりしてしまった人たちにもその先のことを知ってほしいということでした。

ビニール傘が大量に使い捨てられている現状。このままで良いとは思えません。便利なものだからこそそれをどう使うのか。みなさんも一緒に考えてみませんか。

投稿者:和田麻子 | 投稿時間:15時05分

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