2019年08月27日 (火)途切れない献花とその思い


※2019年5月31日にNHK News Up に掲載されました。


スクールバスを待っていた小学生が次々と刃物で切りつけられて、6年生の女の子と保護者の2人が死亡し、17人が重軽傷を負った事件から3日。悲しみが癒えることはありません。現場に花を手向けに来る人は途切れることがなく、むしろ増えているように見えます。その思いとは。

現場取材班   野原直路 ・飯田耕太・ 伊賀亮人

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<献花は今も>
大人が見守る、安全なはずの通学の途中で起きた凄惨(せいさん)で残忍な事件。

現場となったカリタス学園のスクールバス乗り場の近くには亡くなった2人を悼む人たちが連日途切れることなく訪れています。歩道に供えられた花や飲み物などは一時、車道まであふれ出しそうなほどでした。

togirenai190531.2.jpg亡くなった小学6年生の栗林華子さん(11)の両親は29日に出したコメントの中で、「事件現場に手向けられた数多くの献花、お菓子等を拝見し、娘がどれだけ多くの皆様に愛され、どれほど皆様の思いやりに温かく包まれて、大切な時間を過ごしてきたのかという事実に、改めて思いを致している次第です」とつづりました。

現場で手をあわせる人たちに取材すると、その数の多さだけでなく、そこに込められた一人ひとりの強い思いが伝わってきます。

<“ひと事じゃない”>
まず現場を訪れる人を見ていて気付いたのが、幼い子どもを連れた人や学校の制服を着た若者が多いことです。それぞれの思いを聞いてみると。
「4歳になる娘が『花をあげたい』と言うので一緒に来ました。事件のことはとにかくショックで、周りの保護者もみんなひと事ではないと捉えているようです」(世田谷区の40代主婦)

「現場は毎日通る通学路にあり、子どもたちが毎朝整然と並んでスクールバスを待つ姿を見ていました。自分が被害者になっていたかもしれず、そう考えるといたたまれない気持ちになります」(近くに住む16歳女子高校生)

togirenai190531.3.jpg夕方近く、学校帰りと見られる制服姿の男子高校生2人が、花を手向けて静かに手をあわせる姿もありました。

<色紙に込めた思い>
亡くなった人への思いを込めてメッセージをしたためた色紙を手向ける人もいました。

犠牲者のひとりで娘がカリタス学園に通う外務省職員の小山智史さんは、日本とミャンマーとの外交の舞台でミャンマー語のエキスパートして活躍しました。プライベートでも日本に住むミャンマー人と親交が深かったといいます。

togirenai190531.4.jpg手向けられた色紙には「ミャンマーを大好きな小山智史さんへ」の文字。書いたのは、ミャンマー人で川崎市内で飲食店を経営するウィンチョさん(54)とマティダさん(45)夫婦です。小山さんとは7年前に都内のミャンマー料理店で知り合ったといいます。

「小山さんはプライベートでも料理店に来て、ミャンマー語の歌をよく歌い、積極的に私たちと親交を深めようとしてくれました。みんな親しみを感じていただけに、悲しい知らせを聞いて、これまでの感謝の気持ちを伝えたかったんです」(マティダさん)

日本語で「今までありがとうございます。悲しくて胸が痛いです」と書かれた色紙。次々と手向けられる花などで、やがて見えなくなりました。

<ネットも「心が張り裂けそう」>
ネット上でも、現場を訪れたという人や献花をしたいという人が数多く投稿しています。

togirenai190531.5.jpg一方で、供えられた花や食べ物がこのところの暑さですぐに傷んでしまうことを心配する呼びかけも。

togirenai190531.6.jpg現場では31日、カリタス学園の卒業生など20人ほどが、食べ物や傷んだ花を集めて運ぶ様子が見られました。

<悲しみの行列>
悲しみは地元の町に広がっています。事件翌日の午後8時半ごろ。最寄り駅の登戸駅前で目撃情報の取材をしていたときです。

区画整理事業が行われている駅前の仮設店舗の前で、長く伸びる人の列がありました。当時小雨が降ったりやんだりする天気で、何事かと思い列の先頭を探ってみました。

togirenai190531.7.jpgそこにあったのは生花店。列は途絶えることなく伸び続け、店員から花束を受け取った人は、足早に去って行くのです。

そのとき私は日中に男性から聞いた、あることばを思い出しました。

「駅前の花屋さんには手向ける花を買う人の長い列ができている。この町には温かい人が、たくさんいるということも伝えてほしい」

閉店を待ち、午後10時ごろに再び店を訪ねました。経営しているのは16年前に駅前で店をはじめた野口澄子さん夫婦。

togirenai190531.8.jpg野口澄子さん
「ここは本当は穏やかな町なのに、若い人が2人も亡くなる事件が起きてしまい、みんなショックで、悔しくて、いてもたってもいられないんだと思います」
多くの人が選ぶのは白やピンクのカーネーションやガーベラ、それにひまわりなどで、亡くなった栗林華子さんのためにと、かざぐるまなどの飾りをつける人も多いといいます。

中には涙ぐみながら花を受け取る客もいて、野口さんはそれぞれの厚い思いが込められていることを強く感じたといいます。
「こんなに花が売れるのに、こんなに悲しい気持ちになったことはありません」

<積み重なっているのは>
2人の尊い命が奪われ、17人が体にも心にも傷を負った現場。

花を手向けに来た、多くの人が口にしていた「ひと事ではない」ということばが強く印象に残りました。今回取材した私も、そう感じた1人だったからです。

togirenai190531.9.jpg朝起きて「おはよう」とあいさつを交わし、食事をしたあと、制服に着替えた子どもをスクールバスの乗り場まで送っていく。そして、「いってらっしゃい」と手を振って見送る。そうした日常が一瞬にして失われることの怖さとつらさ。

被害者は自分自身だったかもしれない。自分の子どもだったかもしれない。そう考えたときに込み上げる、戦慄と激しい怒り。そうした思いを持ちながら私たちは現場に立ち続けています。

そこで見たのは、仕事帰りの会社員、妊娠中の女性、友達と一緒の中学生、それに電車を乗り継いで来たという車いすの男性。中にはタクシーを使ってまで来たお年寄りもいました。

手向けられ積み重なった花には、そうした人たちの悲しみや他人を思う優しさが込められているんだと感じました。その光景は目に焼きついて忘れられません。

投稿者:飯田耕太 | 投稿時間:11時35分

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