2019年08月27日 (火)私に子どもができたら...


※2019年5月31日にNHK News Up に掲載されました。

公園のベンチに座った彼女は、時折はにかみながらも、ゆっくりことばを選んで話をしてくれました。「だいぶよくなったんですか」と私は尋ねてみました。「100%には程遠いですけど、一時期よりはだいぶ」そう話す彼女の表情には、どこか寂しさを感じました。前を向いて歩み始めたように見える彼女。でも、その心に刻まれた傷痕は、消えることはないのかもしれません。

ネットワーク報道部記者   木下隆児

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<小学校で始まったいじめ>

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彼女は小学1年生の時、青森県の小学校に転校してきました。まもなくするといじめが始まりました。

「変なの」。最初はこんな冷やかしのことばでしたが、徐々にエスカレートしていきました。

いちばんつらかった時期は、小学5年生から中学1年生まで続きました。「汚い」「菌が移る」とあざけることばに加えて、下校途中、男子生徒4、5人に待ち伏せされ、おなかを殴られたり足を蹴られたりする毎日。足にはいつもアザが残っていました。

彼女のことを守ってくれた友達がいましたが、その子も「あいつにも菌がついているから近づくな」と言われ、いつしかその子もひとりぼっちになっていました。

先生は、彼女が暴力をふるわれた時は指導してくれました。でも、陰口や悪口を言われた時は「あなたも目立つからどっちもどっちでしょ」と言って、彼女にも謝るように促しました。

<そんなことでめそめそするな>

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中学校には行きたいと思ったことはありませんでした。校内を歩けば男子生徒に蹴飛ばされていたことだけが原因ではありません。

所属していたソフトテニス部に行きたくなかったからです。顧問は、中学1年生から3年生まで担任を務めていた先生でした。

校庭で部活をしていると、ほかの部活をしている男子生徒が「気持ち悪いから部活辞めろ」「声が気持ち悪いぞ」と言ってくるので、いつも泣いていました。

そんなとき顧問の先生は、仲裁に入ってくれても、最後は決まって「そんなことでめそめそしているあなたが悪い」「あなたが目立つからだ」と言ってきました。

<日本語通じてんのか>
「アメリカが原爆を落とした責任をどうとってくれるんだ」
男性コーチが突然言ってきたこともあります。全く意味がわかりませんでした。

テニスの指導中、「日本語通じてんのか。あ、日本の人じゃないもんな」と言われたこともありました。

ある時、先生たちの間で自分が「問題児」とされていることを知りました。彼女は、学校にも行きたがらず、部活も休みがち、男子とは「もめ事」を起こすし、いつもめそめそしている。

そのとき彼女は、考えることを諦めました。
<生きていてもしかたがない>

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そのころ彼女は1人になるとこんなことばが口から自然とこぼれていました。

「私なんて生きていてもしかたがない」
「死にたい」

中学1年生の時に、彼女は初めて自殺を試みました。自分で編んだマフラーで首をしめて。中学2年生の時には、楽に死ねると思って睡眠薬を飲みました。でも、目が覚めると、まだ生きていました。

幼いころは明るくて、はきはき話す、毎日笑顔だった彼女は、いつも何かにびくびくするようになっていました。

<逃げなきゃ>

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高校ではいじめられることはありませんでしたが、大学に入ると、あることがきっかけでいじめられたときのことがフラッシュバックするようになりました。

それは彼女のルーツに関わるようなことば。

「お前は英語ができるからいいかもしれないけど、日本人は英語を話せないんだから出しゃばるな」

意見を言うと「日本を否定するな」と言われたこともあります。そんなとき、彼女の体は震えだし、冷や汗が止まらず、呼吸が荒くなるのでした。突然泣きだしたり、トイレに駆け込んで吐いたりしたこともありました。

彼女の頭の中には、いじめられていた時の場面が、いじめていたやつの声が、混じり合ってぐちゃぐちゃになって流れました。

「ここから逃げなきゃ」

何度もそう思いました。メンタルクリニックに行くと、診断はうつ、それといじめによるPTSDでした。

<「ガイジン」扱い>

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それでもいま、彼女はカウンセリングの効果もあって、徐々に自分のいじめられた過去を、客観的に考えられるようになりました。大学のサークル活動では、いじめられた経験をみんなに話すこともできました。

でも、これまでにつきあってきた何人かの男性は、彼女に言いました。

「『ハーフ』とつきあってみたかった」

彼女として何か意見を言うと「日本ではこうなんだよ」と、「ガイジン」扱いしてきました。

男性の友達からはルーツに関わる性的な陰口を言われたり、女性の友達は「『ハーフ』だから生理早かったんじゃない?」と聞かれたりしたこともあります。

ルーツが違うだけで、女性としての尊厳も踏みにじられたと感じています。

<自分に子どもができたら>
「私に子どもができたら…」

そう思うと、その子も私と同じような目に遭うかもしれない。海外で子育てしたほうが幸せなんじゃないかって思うこともあります。

彼女の名前は、ミシェル・ハーヴェル(22)。アメリカ人の父親と日本人の母親の間に生まれました。生まれたイギリスから7歳の時に日本へ。

これまでのいじめや差別的な発言は、彼女のルーツが「日本人」でないということで、彼女に向けられた出来事です。

ミシェルさんは、最後に私にこう言いました。

watashini190531.7.jpgミシェル・ハーヴェルさん

「マジョリティーの都合のいいように私たちが生きるというのは違うと思う。人は誰しも偏見はあると思う。それはしかたない。でも人は十人十色、いろんな生き方、人の在り方があるから、日本以外にルーツがあるというだけで、マジョリティーの固定観念を押しつけないでほしい」

私たちは、外国にルーツを持つ子どもたちをめぐる「いじめ」を継続的に取材をしています。実際の体験談やご意見を以下の特設サイトで募集しています。
「外国人“依存”ニッポン」
https://www.nhk.or.jp/d-navi/izon/form.html

投稿者:木下隆児 | 投稿時間:11時16分

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