2019年08月08日 (木)ノートルダムに寄り添いたい


※2019年4月16日にNHK News Up に掲載されました。

ノートルダム大聖堂の火災。フランスから遠く離れた日本でも悲しみや喪失感が広がっています。なぜ私たちはノートルダム大聖堂に特別な思いを持つのでしょうか。つながりを探してみました。

ネットワーク報道部記者 目見田健・ 玉木香代子・ 吉永なつみ

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<ネットに広がる悲しみ> 

no-toru190416.2.jpgフランスを代表する世界文化遺産。日本でもゆかりがある人は多くネットでも投稿が相次ぎました。

「衝撃的で悲しい。重厚で歴史の重みがあり、かっこよくてすばらしい建物で胸が痛いです」(旅行で訪れた人)

「ナポレオンの戴冠式(たいかんしき)が行われるなど歴史的建造物がいま目の前で焼けている。外国人なのに、涙が止まらなくなった」(パリ在住の日本人)

またディズニー映画の中で『ノートルダムの鐘』がいちばん好きだという人は「いつかは本物をこの目で見たいと思っていたのに」と落胆する声を投稿していました。

<高村光太郎も愛した>

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「日本人は昔から芸術の都といわれたパリに憧れを持っていてその象徴の1つとしてノートルダム大聖堂にひかれるのではないでしょうか」

no-toru190416.4.jpg成城大学文芸学部でフランス文学専門の有田英也教授は、こう話してくれました。

その根拠の1つとして「智恵子抄」などの詩集で知られ、明治から昭和にかけて活躍した詩人で彫刻家の高村光太郎の詩をあげました。

no-toru190416.5.jpg高村光太郎

大正10年発表の「雨にうたるるカテドラル」の一節です。
「ノオトルダム ド パリのカテドラル、あなたを見上げたいばかりにぬれて来ました、あなたにさはりたいばかりに、あなたの石のはだに人しれず接吻したいばかりに」(カテドラル=大聖堂)
有田教授は、ノートルダム大聖堂を通した高村のパリへの強い憧れが表現されていると分析しています。

実際にノートルダム大聖堂を訪れたことがある有田教授。「実物をみると歴史的な重さを感じて圧倒され感動しました。時代とともにパリの景観は変わるとしても大聖堂だけは永遠に変わらないと思いました」と話していました。
「今回の火災を金閣寺と重ねる人もいるのではないかと思います。日本人は歴史的に貴重な文化財が焼失することの悲しさを知っていて、さらにその様子を映像でリアルタイムに見たことで多くの人が反応したのではないでしょうか」

<大聖堂が原点になった人も>
子どものころに訪れたノートルダム大聖堂が今の自分の原点になったという人もいます。

no-toru190416.6.jpg都内に住む石原けいこさん(33)。小学生のときに見たディズニー映画『ノートルダムの鐘』で描かれた世界観に魅せられ、買ってもらった映画の音楽CDを聞き込み、6年生の夏休みに家族で念願の大聖堂を訪れました。

no-toru190416.7.jpg見たこともなかった高い天井にステンドグラス、それに空に向かって伸びる塔…。
「独特の世界観をまとったあのゴシック建築を初めて目にしたときは、言葉にできないぐらい圧倒され感動したのを覚えています」
ここで石原さんはパイプオルガンに惹かれ、帰国後は何度もCDでその音色を聞くようになりました。

その後、本格的に音楽の道に進み、ハープやフルートに打ち込むとともに今ではヒーリング音楽の作曲家として活動するようになりました。

いずれ近いうちに再び大聖堂を訪れたいと考えていた石原さん。火災のニュースを知りあまりのショックにこうツイートしました。
「人生で初めてみたゴシック建築の教会。修復されながら当たり前のようにずっとあると思っていたけど、『当たり前のようにずっと』なんてこの世に存在しないんだな」
火災についてあらためて聞くと石原さんは「パリで育ってきた人たちは大切なものが奪われた感覚に陥っていると思います。もとのままではないにしても修復を願っていますし、そのためのチャリティなど私としてもできることはやっていきたいです」と話しました。

<広がる支援の声>
東京・港区のフランス大使館には、SNSを通じて悲しみを共有したり連帯を伝えたりするメッセージが多く寄せられています。

「胸が引き裂かれるような感覚でした。大聖堂のためにできることをさせてください」

「家族で訪れた思い出の場所です。1日も早く再建されますことを祈っています」

これを受けて大使館は新たにツイッターやフェイスブックで大聖堂の写真とともに、ローラン・ピック駐日大使の名前で感謝の気持ちとともに再建に向けたメッセージを発信しています。

no-toru190416.8.jpg「火に包まれたパリのノートルダム大聖堂の映像を見て、フランス人はみな心が打ち砕かれる思いです。この教会はわれわれ自身の一部です。もちろん世界中で、とりわけ日本で称賛された記念建築物でもあります。このあまりにも悲しい日に、われわれに寄せられた連帯のしるしに深い感銘を受けています。日本の友人の皆さん、われわれがこの悲しみを乗り越えられるよう支えてください。大統領が明らかにしたように、われわれの大聖堂は再建されます!ローラン・ピック駐日フランス大使」

<ノートルダム大聖堂とは>

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フランス大使館やフランス観光開発機構によると、パリの中心部にそびえる大聖堂は数多くある歴史遺産の中でも特に貴重なものとして、日本人観光客も多く訪れ、世界中から年間1300万人、1日平均3万人以上もの人が訪れています。

大聖堂の工事は1163年に着工し、およそ200年後の1345年に完成しました。高くそびえる2つの塔に、空に突き刺すようにのびるせん塔、バラ窓などに象徴される見事なステンドグラスは初期ゴシック建築の傑作だといわれています。

ここを舞台にした小説を文豪ヴィクトル・ユゴーが発表。大聖堂の重要性が見直され、その後の大修復につながっていきました。

投稿者:目見田健 | 投稿時間:10時47分

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