2019年07月12日 (金)人人人...球場でいったい何が?


※2019年2月27日にNHK News Up に掲載されました。

今月25日。広島のスタジアムの周りに突如現れた人、人、そして人…。5万人にもおよんだ長蛇の列は道路にまであふれ出して異様な光景に。
プロ野球・広島のチケット販売をめぐって起きた大騒動。一体何があったのでしょうか。

広島放送局記者 松山翔平
ネットワーク報道部記者 管野彰彦・目見田健・田隈佑紀

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<スタジアム周辺は“驚愕”の光景>
2月25日、広島の今シーズンの公式戦ホームゲームのチケットを購入するのに必要な抽選券の配付が広島市のマツダスタジアムで行われました。

hito190227.2.jpg抽選券は高校生以上を対象に1人につき1枚が配られ、それぞれ「組番号」が書いてありました。30人を1組として抽選が行われ、当選した組の人たちが3月1日と2日にスタジアムの窓口でチケットを購入できることになっていました。

この窓口での販売のあと、チケットはインターネットでも販売されますが、希望の席をより確実に確保するには、この抽選券を入手することが欠かせませんでした。

配付の当日、抽選券を求める人が朝早くから続々と集まり始めました。瞬く間に人の列は伸びて敷地内に収まりきらなくなります。その数なんと、スタジアムの収容人数3万3000人を上回る約5万人。球団の予想を大きく超えました。

これに対して、当日の球団側の態勢は職員と警備員を合わせて35人だけ。行列は1キロ余り離れた広島駅近くにまでおよび、車の通行にも支障が出ました。事態を受けて警察が出動し、対応するよう球団に求めました。

球団は当初、午前11時から配付を始める予定でしたが、急きょ1時間余り前倒ししました。それでも事態は収まらず、JR西日本から「鉄道の運行に支障が出かねない」と対応を要請されました。そして、ついには配付を打ち切る結果になりました。
抽選券を受け取れなかった人は1万人に上ったと見られ、球団職員に大声で詰め寄ったり諦めきれず居座ったりする人も出るなど、スタジアム周辺は大混乱になりました。
「けが人がいなかったからよかった」では済まされない事態。上空からの映像は異様なまでの驚愕の光景でした。

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<なぜ、この方法が必要だったのか?>
広島はこれまで、チケット購入の希望者には先着順で整理券を配付して対応していました。

hito190227.4.jpgところが、リーグ3連覇を果たした強さに加え、バーベキューのできるフロアや寝そべりながら観戦できるソファー席を設けるなど魅力的な取り組みを進め、「カープ女子」と呼ばれるような新たなファン層も獲得したことで、購入希望者が急増し、十分な対応ができなくなりました。

去年は整理券の配付約1か月前から窓口周辺にテントを張って場所取りをする人たちが相次ぎ、近隣住民から次々と苦情が寄せられました。

hito190227.5.jpg去年の様子
こうした事態を防ぎ、チケット購入の機会を多くのファンに持ってほしいと、球団は今回初めて抽選券の配付を行ったとしています。


<過去に“大混乱”ケースも>
主催者の予想を大きく上回る人が集まり混乱したケースは、これまでもたびたび起きています。

hito190227.6.jpg5年前。JR東日本が東京駅開業100年を記念したICカード乗車券「Suica」を売り出したとき、ルール違反の徹夜をする人も出て、少なくとも1万人が駅に殺到する事態に。

hito190227.7.jpgJRは販売開始を1時間繰り上げたものの混乱は収まらず、安全を確保できないとして、予定していた1万5000枚の半数近くを残した状態で販売を打ち切りました。そして後日、販売方法を見直してインターネットや郵送での申し込みに変更することを余儀なくされました。

こうした問題について、専門家は、一歩間違えると大事故につながりかねないと警鐘を鳴らします。

hito190227.8.jpg東京大学 西成活裕教授
群衆の行動について研究している東京大学の西成活裕教授は「群衆では誰かが転倒すると大きな事故につながりかねない。警備の態勢については状況にもよるが5万人が集まったとしたら、最低でも警備員は100人は必要だと思う」と指摘しています。そのうえで、「インターネットを導入するとか、場所や時間を分けて人を分散させることが大事だ」と話していました。


<一部の転売目的をどう防ぐ>
今回並んだ人の大半は純粋なファンでしたが、一部にはチケットの転売を目的としていた人がいたと見られています。

ここ最近、入手困難となった広島のチケットは、インターネット上で高い値がつき不正に売買されています。球団は抽選にすることで転売を防ぎ、より多くのファンに公平に観戦してもらおうと考えました。

hito190227.9.jpgネット上には、「人気チームなのに転売防ぐために!って心意気は凄いと思う」などと評価する声が寄せられる一方、「結局、抽選券が転売されるだけ」といった意見や、当選したあとの購入枚数に制限がなかったことから「チケットの転売防止にはならないのではないか」など批判的な意見の投稿も相次いでいました。

広島以外の球団で積極的な転売防止策に乗り出しているところもあります。

DeNAは2月、不正な転売への対策を強化すると発表しました。球場に入る際の本人確認を徹底し、法外な値段で転売されるのを防ぐため、球団がファンどうしでチケットを譲りあえる場を公式に提供するとしています。

また、昨シーズン、リーグ優勝した西武では、シーズン終盤にチケットの転売行為が相次ぎ、球団は営利目的で不正に転売したとして、ファンクラブの会員60人を退会処分にしました。今後もチケットの転売には厳しい姿勢で臨むことを検討しています。

プロ野球ではありませんが、チケットの転売により実効性のある対策をとっているのが音楽業界です。

中でも先進的だと注目を集めたのが、去年11月から始まった宇多田ヒカルさんのコンサートツアーで採用されているシステムです。

開発した会社によりますと、このツアーでは、チケットの購入時に購入者と同行者の顔写真を登録し、AIによる顔認証技術を搭載したカメラで来場者と写真の顔を照合して一致しなければ入場できません。

hito190227.10.jpg不正転売をめぐってはことし6月に法律が施行されます。

「チケット不正転売禁止法」では、繰り返し定価を上回る価格で転売したり、買ったりする行為が禁止され、違反した場合は「1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金」の罰則があります。ただし、この法律で対象になるのは販売時に入場者の名前や連絡先など本人確認をしたチケットに限られています。


<ファンの熱い思いがかなえられますように!>

hito190227.11.jpg今回の広島での混乱で改めて見えた、人気ゆえの熾烈な“チケット争奪戦”。愛するチームや選手を「生」で見たいと願うファンが公平に見られるようなシステムづくりが求められています。

投稿者:管野彰彦 | 投稿時間:17時57分

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