2019年04月04日 (木)空を見上げる謎のネズミ 描いたのは誰?


※2019年1月23日にNHK News Up に掲載されました。

世界各地に出没し、人気を博す謎のアーティストの作品が、ついに日本でも発見か。街に描かれたある絵が大きな話題になっています。本物なのか、単なる誰かの落書きか。そもそもなぜこんなに注目されるのでしょうか。

ネットワーク報道部記者 飯田耕太

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<謎に包まれた覆面アーティスト>
190123sor.2.jpgその名前はバンクシー。1990年代から活動を始めたとされていますが、国籍や性別、年齢など詳しいことはわかっていません。ストリートアーティストとして、世界各地の壁や建物などに社会風刺画を描くことで知られています。作品は現代アートとして高く評価され、オークションでは1億円を超える値がつくことも。


<それっぽい絵が港湾部に>
190123sor.3.jpg日本でバンクシーの作品「らしき」絵が見つかったのは東京湾にほど近い都内の港区にある防潮扉です。
12月下旬、都が寄せられた情報をもとに調べてみると、縦横20センチ程度の大きさで傘を差すネズミとみられる絵が見つかりました。空を見上げているようにも見えます。
バンクシーが以前描いた絵に似ているということで、都は、本人の作品かどうかわからないものの放置するとトラブルが起きるおそれがあるとして、扉の一部を取り外し、倉庫で保管することにしました。
190123sor.4.jpgこれには、東京都の小池知事も「あのバンクシーの作品かもしれない絵が都内にありました!東京への贈り物かも?」と興奮した様子でツイートしていました。
<真偽は?なぜ人気?>
190123sor.5.jpg鈴木沓子さん
バンクシーはこれまで代理人を通じて作品集などを発表しています。翻訳を手がけたライターの鈴木沓子さんに話を聞きました。
「見た感じでは、本人の作品でほぼ間違いないと思います。というのも、彼の過去の映画や作品に、今回のネズミの絵とよく似たものが登場していてネット上では以前から『この絵はどこにあるのか』と話題になっていた作品なんです」
190123sor.6.jpg作品集を見ると、たしかに今回見つかったネズミの絵を反転させたような作品が収められていました。『Tokyo 2003』と記載され、色はかすれていますが、扉の周りのボルトや地面のひび割れも同じに見えます。
「ネズミは、都会で人々に追いやられるやっかい者。路上で表現活動を続けるバンクシー自身も投影したモチーフとされていて、よく描かれる象徴的な作品です」(鈴木沓子さん)
NHKでは、その真偽や目的を確かめようとバンクシーの公式WEBサイトを通じてメールを送りましたが、1月22日までに返信はありませんでした。
<「会ったことあるんです」>
実は鈴木さん、ロンドンで新聞社に勤務していたとき、バンクシー本人を直接取材した経験があるそうです。2003年のことで、翌年には、その時の様子を雑誌にも紹介していました。
190123sor.7.jpg「ロンドンでイラク戦争の大規模な反対デモがあったときに参加者の一部がバンクシーの絵のプラカードを掲げていたんです。デザイン性が高く、強いメッセージがストレートに込められていて、とても興味を持ちました。そして後日、何度も取材依頼のメールを送って、ようやくインタビューが実現したんです」
条件は写真撮影NGで、素性を明かさないこと。バンクシーはロンドン市内で2時間ほど、取材を受けてくれたということです。
「とにかく社会問題や国際情勢に詳しく、さまざまな疑問や憤りを持っている人でした。『21世紀になってテクノロジーがどれだけ進歩してもイギリスでは若者に仕事がないし、アフリカの貧困も解決されず、世界には1日1ドル以下で暮らす人がたくさんいる』ーーそうした問題に対して声高なスローガンを掲げるのではなく、アートを通じて本気で世界を変えたいという怒りに近い熱い思いを感じました」
190123sor.8.jpg平和をテーマにした作品が多いバンクシーですが、その名が世界に広まったきっかけがあります。2005年、パレスチナとイスラエルを隔てる分離壁に描かれた作品で、大きく空いた穴の向こうには青空が広がり、たたずむ人の姿が表現されました。
190123sor.9.jpgまた武器ではなく花束を投げ込もうとする若者の絵は、代表的な作品ともいわれています。
「反戦や平和などをテーマに作品が描かれる場所には、いまここで何が起きているのか目を向けてほしいというメッセージが込められています。作品を描くことで社会をどう変えていけるかを考え続けているアーティストだと思います」(鈴木沓子さん)
<人々を驚かせる“遊び心”が好き>
190123sor.10.jpg都内の出版社で働く坂口亮太さんも魅了された1人です。海外で出版されるものを中心にバンクシー関連の本の販売に携わっています。魅力は、絵だけにとどまらない、エンターテインメント性だと言います。
「10年ほど前から、価値観や既存の考え方をひっくり返すバンクシーのクリエーティブさにひかれ、会社としても出版物を扱うようになりました。自分の作品をこっそり美術館に置いて行ったり、街中にオブジェを飾ったりするなど、痛快さや愛嬌があり、とても面白いんです」
2015年には、バンクシーが商業主義などを風刺してイギリス南西部につくった期間限定のテーマパークに足を運びました。「憂うつの国」という意味の「ディズマランド」。“世界で一番、がっかりするテーマパーク”というコンセプトです。
その名のとおり、そこには、荒れ果てた魔法の城や笑顔のない係員など残念な光景が広がっていたそうです。
「あえて人を“喜ばせない”発想に衝撃を受けました。それでも会場の田舎町はとてもにぎわい、バンクシーの取り組みはすごく歓迎されていました」(坂口亮太さん)
190123sor.11.jpg去年は、オークションで自身の作品が1億5000万円で落札されると、額に隠していたシュレッダーで絵の半分を細かく裁断。大胆な仕掛けに世界中が驚きました。それ以来、バンクシーの知名度は日本でも急速に広がりました。
坂口さんはこれからも謎に包まれた今のスタイルで作品づくりを続けてほしいと話します。
「これからも見た人すべてを考えさせるたくさんの作品を作っていってほしいです。会ってみたいという思いもありますが作品への想像力が高まるためずっと謎のままでいてほしいという気持ちのほうが強いです」
<本物との確認は?>
国や地域を問わず、さまざまな人を魅了するバンクシー。気になるのは、今回都内で見つかった絵の真偽をどう確かめるかです。都の担当者は、落書きは違法行為でそこは忘れないでほしいとしたうえで、今回の絵については時間をかけてでも真偽を調べていきたいとしています。しかし、謎に満ちた相手だけに「具体的な確認方法はまだわからない」としています。日本でも注目を集めるようになった神出鬼没なアーティスト。人々の想像力はかき立てられます。
「バンクシー、あなたは誰?次は何をするの。」

投稿者:飯田耕太 | 投稿時間:17時11分

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