2019年02月27日 (水)選挙の年 日本で"フェイクニュース"は...


※2018年12月25日にNHK News Up に掲載されました。

「フェイクニュース」
トランプ大統領が誕生した2年前のアメリカ大統領選挙をきっかけに、すっかりおなじみになりました。
特に選挙中、ネット上を中心に流れるさまざまなフェイクニュース。日本でも来年の2019年、春には統一地方選挙、夏には参議院選挙と大きな選挙が予定されています。
フェイクニュースにどう備えたらいいのか…。ちょっと先取りして考えてみませんか?

ネットワーク報道部記者 鮎合真介

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<痛ましい少女の写真、実は…>

181225kyo.2.jpgフェイスブックに投稿された、1枚の写真。無残に横たわる少女。そのかたわらで涙を流し、悲しむ女性が写されています。

「“麻薬犯罪”に巻き込まれて殺害された9歳の少女」。

2年前の夏、フィリピンで、この写真がネットで拡散しました。
写真を見ると、「こんな少女を巻き込むなんて麻薬犯罪は許せない」と怒りが込み上げてくると思います。

ところが…。この写真、フィリピンとは全く関係なかったのです。写真が撮影されたのは、フィリピンではなく、地球の反対側の「ブラジル」。撮影されたのは、その2年前、少女もブラジル人だったことが、後でわかりました。

なぜ、全く関係ない少女の写真が麻薬犯罪とリンクされたのか…。権力をもつ大統領の選挙公約との関係を、現地メディアは指摘しました。


<麻薬犯罪撲滅は公約>

181225kyo.3.jpgフィリピンのドゥテルテ大統領。
歯に衣着せぬ物言いから「フィリピンのトランプ」とも呼ばれる強烈なキャラクターで知られています。フィリピンでは長年、麻薬などが絡んだ犯罪が多発し、深刻な社会問題になっています。“違法薬物の撲滅”を掲げ、ドゥテルテ氏は大統領選挙で勝利しました。

就任後、違法薬物の撲滅のため、ドゥテルテ大統領がとったのは“超強硬路線”。

「捜査対象者の殺害も辞さない」
これまでに5000人を超える人が当局に殺害されました。
“超強硬路線”は、国内外から「人権無視だ」などとして非難されています。一方で、治安改善を期待する国民からは高い支持を集めているのも事実です。


<フェイクニュースと大統領>
「ドゥテルテにとって都合のよい内容を、事実ではないのに拡散させている」

181225kyo.4.jpg壇上から訴えていたのは、チャイ・ホフィレニャさん。
フィリピンのオンラインメディア「ラップラー」の調査報道デスクです。

アメリカの雑誌「タイム」が、今月(12月)、世界で最も影響を与えた「ことしの人」の1人に、ラップラーの編集長を選び、話題となりました。

ホフィレニャさんが訴えたのは、ことし秋、韓国のソウルで開かれた各国のジャーナリストが集まる国際会議の場でした。

181225kyo.5.jpg「フェイクニュースとプロパガンダ」の危険性を実例を挙げて語るホフィレニャさんの発表は、多くの参加者でほぼ満席。私も話に耳を傾けました。冒頭の少女の写真も側近とされる広報担当者が発信し、多くのフォロワーを持ちドゥテルテ大統領を支持する女性歌手のSNSでもシェアされて広まっていたそうです。

少女の写真が拡散されたのは大統領選挙のおよそ3か月後。
選挙公約の「違法薬物の撲滅」の強硬な手法に、国内外から批判の声がある中、正当性を強調しようとのねらいで写真が拡散されたとホフィレニャさんは見ています。


<事実を変えては許されるのか…>

181225kyo.6.jpgドゥテルテ大統領が目指す「違法薬物犯罪の撲滅」は、誰もが願うこと。でも…。“事実を変えてまで、情報を操作してよいのか”憂慮したラップラーは、情報の真偽を検証する「ファクトチェック」を実施して多くの記事を発信し続けたそうです。

しかし、代償もありました。
・大統領府での取材を禁止される
・記者がネット上でひぼう中傷を受けたり、公に罵倒される
・「フェイクニュースを発信している」との批判が起きる

アメリカのトランプ大統領とCNNテレビなどのメディアの対立の構図と同じようなことが起きたのです。


<信じたいことを信じる>
私たちも利用する検索サイトやSNSは、利用者にとって好ましいと思う情報が優先して表示されます。

こうした状態は、利用者が情報のフィルターで泡のように囲まれる様子から「フィルターバブル」と呼ばれ、偏った考えや意見がまん延するおそれがあると多くの専門家が警鐘を鳴らしています。
自分が見たい情報しか目に入らないと、フェイクニュースの見分けがつかなくなるからです。

「フェイクニュース」は海外のこと…いやいや、SNSでの情報収集が当たり前になった日本でも一気に増える可能性もあるのです。
さらに世界を見回すと深刻な現象が起き始めていました。


<新ビジネス?大量のフェイクニュースの裏に>

181225kyo.7.jpgソウルでの国際会議。参加者の注目を集める報告がありました。

「フェイクニュースの産業化」。
つまり、フェイクニュースをつくる事が、新たなビジネスとなりつつあるというのです。

指摘していたのは、クレイグ・シルバーマンさん。アメリカのオンラインメディア「バズフィードニュース」のメディア・エディターを務めています。

フェイクニュースの産業化の実例としてあげたのが、旧ユーゴスラビアの「マケドニア」での事例でした。人口200万人余りの「マケドニア」、失業率が25%以上にものぼります。

181225kyo.8.jpgトランプ大統領が当選した2016年のアメリカ大統領選挙。
シルバーマンさんが調査したところ、アメリカとは一見無関係な「マケドニア」の小さな街で、実に、100以上のフェイクニュースのウェブサイトが作られていたそうです。
フェイクニュースを作っていたのは、主に若者。仕事がない若者たちが、とにかく稼ぎたい…と関わっていったといいます。

マケドニアとフェイクニュースとの関係を調べてみると、CNNテレビでも特集していました。
現地では、フェイクニュース用のアカウントを取得するために、子どもたちから2ユーロで本物のフェイスブックのアカウントを買い取り、アメリカ人っぽい名前に変える手口があることを紹介しています。

また、次のアメリカ大統領選挙がある2020年を狙って、すでに若者たちがフェイクニュースの準備を進めているとも報じていました。


<魔法のような対策は“なし”>

181225kyo.9.jpg国境を容易に越えて拡散し続けるフェイクニュースにどう対抗したらいいのか。

私は、シルバーマンさんにその疑問をぶつけてみました。

「魔法のような対策はない」
返ってきたのは、厳しい答えでした。
一方で、フェイクニュースに対抗するには「専門的な技術や知識を持った者どうしが連携することが重要だ」との答えも返ってきました。


<対抗できるか“ファクトチェック連携”>
情報の真偽を検証する「ファクトチェック」。

海外では、ふだんはライバルどうしのメディア間が連携する形がすでに生まれています。
ただ、ファクトチェックの難点は、時間もお金も人手もかかること。分析力、取材力も高いレベルが求められます。

ファクトチェックを複数のメディアが組むメリットは…。
1つの社だけでは人材や資金力に限りがありますが、“選挙期間前後”に複数の会社が手を組むことでファクトチェックを実現。その結果も、参加した複数のメディアを通じて広く伝えることができるのです。

181225kyo.10.jpg2017年のフランスの大統領選挙では、大手通信社や有力紙など30以上の団体が「クロスチェック」と呼ばれるウェブサイトを立ち上げ、フェイクニュースを検証。中米のメキシコや東南アジアのインドネシアなどでも、共同でファクトチェックに取り組むメディアの連携が進んでいます。

来年は統一地方選挙、参議院選挙が予定されている日本。直近の国政選挙では大手新聞社がファクトチェックを個別に始めています。

さらにはジャーナリストや研究者らが去年、NPO「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」を立ち上げ、複数のメディア連携を目指しています。

181225kyo.11.jpg沖縄県知事選でファクトチェックを行ったメディア関係者の報告会
沖縄県知事選挙では地元紙の琉球新報がファクトチェックに参加するなど、少しずつとはいえ国内の他メディアにも広がりを見せつつあります。

ただ、海外に比べると動きは進んでいないのが実情。特に選挙中のファクトチェックは選挙の公平性との両立など、まだクリアすべき課題がいくつもあります。

しかし、フェイクニュースを野放しにすれば、いつの日にか投票行動に影響を及ぼすウソやデマが広がってしまうことも否定できません。

「魔法のような対策はない」というフェイクニュース。
どう対応するのか、もっと幅広い議論が必要だと感じています。

投稿者:鮎合真介 | 投稿時間:17時02分

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