2018年12月04日 (火)eスポーツはスポーツになるか?


※2018年10月24日にNHK News Up に掲載されました。

最近、よく耳にする「eスポーツ」。「エレクトロニック・スポーツ」という意味で、「格闘」や「球技」などのコンピューターゲームで、スポーツのように勝敗を競うものです。最近、急激な盛り上がりを見せています。「ただのゲームでしょ」と思いきや…。最前線の現場を見てきました。

ネットワーク報道部記者 松井晋太郎・田辺幹夫

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<白熱する試合>

esp181024.2.jpg激しく動くコントローラー。スクリーンに映し出された格闘キャラクターが、連続技を決める。

「はい!はい!はい!」

その技の動きに合わせるように歓声が上がる。勝者はガッツポーズ、敗者は涙。握手。
今月21日に東京で開かれた「eスポーツ」の大会は、スポーツ観戦さながらの熱気に包まれていました。

esp181024.3.jpg参加者は全国から集まった190人のアマチュア選手。上位の選手にはeスポーツのプロのライセンスが発行されます。終盤のきわどい局面で技がきまり勝負がつくと、大勢の観客が歓声を上げていました。

都内から出場した32歳の男性選手は「海外に比べて日本では認知度は低いがeスポーツが世間に認められるのには夢があるし、職業になるのではと思う」と目を輝かせて話しました。


<将来はオリンピック競技に!?>
このeスポーツ、将来はスポーツの祭典、オリンピックの競技になるのではないかと、期待する声も上がっています。

esp181024.4.jpgIOC バッハ会長(中)
ことし7月、IOC=国際オリンピック委員会のバッハ会長は「オリンピックの価値は多様であり、政治や紛争などで問題のある国や地域に対して、スポーツを通した交流を橋渡しをすることだ。eスポーツと何が一緒にできるか考えていきたい」と述べ、オリンピックとの関わりを模索していく考えを示したのです。

esp181024.5.jpgアジア大会の公開競技で行われたeスポーツ
すでに、ことし8月にジャカルタで行われたアジア大会では、eスポーツは、初めて公開競技として行われ、4年後に中国で行われるアジア大会では、正式競技として採用されることが決まっています。

また、国内でも、来年秋に茨城県で行われる国体=国民体育大会で、文化プログラムとして採用され、都道府県の予選を勝ち抜いた代表選手がサッカーゲームで競います。


<Jリーグが プロ野球が>
国内では、実際のプロのスポーツ団体がeスポーツの人気にあやかるような動きも出ています。

サッカーのJリーグは、ことし3月からサッカーゲームの大会をネット上で開催、優勝した選手などがFIFA=国際サッカー連盟が主催するeスポーツの世界大会に出場しました。

esp181024.6.jpgNPBは「eベースボール」の開催を発表
またNPB=日本野球機構も、11月からeスポーツの選手が、ゲームで実際のプロ野球チームを使って、ペナントレースを戦う企画を始めます。順位や成績に応じて得られる報酬は、総額1000万円を超えるということです。


<日本にプロは120人>
国内では、このeスポーツの「プロライセンス」は2月に設立された「日本eスポーツ連合」が発行していて、これまでに8つのチームと選手120人が取得しています。

海外の大会では、賞金総額が20億円を超えるものもあり「プロライセンス」を取ると、そうした高額賞金の大会に出場できるメリットがあります。

団体によりますと、多くのプロは大会の賞金をはじめ、所属チームからの報酬やインストラクターとしての指導料などで生計を立てているということです。


<プロに密着>

esp181024.7.jpg中山大地選手
プロ選手は、どんな生活をしているのか。「格闘」のジャンルの「プロライセンス」を持ち、世界的な大会で3回の優勝経験がある中山大地選手(27)に密着しました。

私が中山選手に取材で初めて会うことができたのは羽田空港の国際線ターミナル。シンガポールでの大会に出発する直前でした。

月に平均2回、海外の試合に出場しているという中山選手、ことしもすでにアメリカ、オーストラリア、マレーシアなど世界を飛び回っています。

30分前に待ち合わせ場所に姿を現した中山選手、出発までの時間がない中、とても丁寧に取材に応じてくれました。

帰国後、ゲームの練習やトレーニングの様子を取材させてもらい、まず驚かされたのは「体力づくり」です。プロの大会では、試合が10時間以上続くこともあります。

esp181024.8.jpg中山選手は週に2回、ジムに通い、専属のトレーナーのもとで1時間ほどトレーニングを行っています。気をつけているのは、長時間にわたるプレーで凝り固まった筋肉をほぐしたり、悪くなった姿勢を矯正したりすることです。また、集中力を長時間保つために気持ちをリフレッシュするねらいもあります。

ゲームの練習は少なくとも毎日4時間、プロの仲間などと行います。

得意とする「鉄拳」と呼ばれる格闘ゲームの競技では、41種類のキャラクターが登場してパンチやキックなどの技を繰り出して闘います。

攻撃のパターンはキャラクターごとに100~200種類。さらに防御や反撃にも種類があるため、頭の中には数万パターンの動きが入っているといいます。

esp181024.9.jpg中山選手はそうした動きを60分の1秒の単位で見極め、キャラクターをコントロールします。

「eスポーツを始めたときから『いつか世界一になってやろう』と思っていた。この先、もしオリンピックの種目に採用されれば、eスポーツが単なる『ゲーム』ではないと認められたことになる。大好きなゲームだがプロとしてやっていくことは苦しいことは多々あるが、死ぬ気でやっている。結果がすべてとは言わないが強くなりたい」

中山選手の表情に「この世界でメシを食っていくんだ」という仕事人としての強い意志を感じました。


<プロ選手目指すための学校も>
eスポーツの人気の高まりを背景に、プロのeスポーツ選手を目指す人たちのための学校もオープンしています。

esp181024.10.jpg大阪市にある「OCA大阪デザイン&IT専門学校」は、プロのeスポーツ選手を目指す人たちが専門的な教育を受けられるコースをことしから開設しました。

現在およそ40人がeスポーツのスキルを身につける実習に加え、海外の選手とコミュニケーションするのに必要な英会話や、試合で集中するためのメンタルトレーニングなど、さまざまなカリキュラムで学んでいます。

このコースの学生は、体力づくりのためにエレベーターを使うことは禁止されていて、10階にある教室まで毎日、階段で行き来しています。

私たちが取材した日は、世界各地で行われる大会の動向やゲーム業界の最新事情などについて学ぶ講義が行われていました。生徒たちの表情も真剣です。

生徒の1人、是澤佳祐さん(19)は「eスポーツはこれから世界的な競技になると思うので、それを見越して幅広く勉強するのは、とても大事だと思います。世界のトップになるのが夢です」と話していました。

またベトナムからの留学生、トゥン・ジャ・フェさん(23)は「学校ではゲームのスキルだけでなく、コミュニケーションやチームワークも勉強しています。将来は、ネットで人気のゲームの配信者にもなりたいです」と夢を語ってくれました。

esp181024.11.jpg専門学校講師 馬場章さん
講師の馬場章さんは「プロを目指すにはスキルトレーニングがいちばん大事ですが、それだけでプロの選手にはなれません。競技やそれに関わるさまざまな深い知識が必要です。世間での盛り上がりに惑わされることなく、自分がeスポーツをする理由を自信を持って語れるようになってほしい」と話します。


<子どもたちの「依存」に注意>
eスポーツが盛り上がる一方で、気がかりな話もあります。

ことし6月、WHO=世界保健機関は、病気などの原因を分類する国際的なガイドライン「国際疾病分類」の改訂版を公開し、ゲームなどをしたいという欲求を抑えられず、家族関係など生活に支障がでている場合、その期間が1年に及べば「ゲーム障害」という病気だとしました。

esp181024.12.jpg子どもが「eスポーツのプロになりたい!」と言い出したとき、親はどうすればいいのか。

esp181024.13.jpg久里浜医療センター 樋口進院長
ゲーム依存の治療や研究に長年取り組んでいる久里浜医療センターの樋口進院長は、親や周囲の人が気をつけるべき点として、「ゲームをする時間や状況に関して、親子などで話しあい、決まりを守れなかった時には、どうするかといったことも含めたルールを決めて、それを紙に書くなどして、いつも見えるところにおいておくことなどが大切だ」と指摘しています。

また今後、ゲームがeスポーツとして広く普及していくために求められるものとして、次のように話し、リスクも含めた正確な情報を、社会が共有していくことが大切だと指摘しました。

「eスポーツとはどんなもので、どうしたら選手になれるのか、リスクはどんなところにあるのかなど、正確な情報をゲームの業界ではなく、できれば国が主導して、eスポーツに関する調査を行い、プロを目指す人のためのガイダンスのようなものをまとめて周知していく必要があるのではないか」


<スポーツになるには>

esp181024.14.jpg「日本eスポーツ連合」 平方彰専務理事
eスポーツの将来について、「日本eスポーツ連合」の平方彰専務理事は「日本でのeスポーツのイメージは娯楽だが、海外では楽しむとか競いあうという意味が含まれている。選手は動体視力や高い判断能力が求められることもありアスリートともいえる。6年後にパリで開かれるオリンピックで競技として採用されるよう祈っている」と話していました。

eスポーツは年齢や性別、障害のあるなしにかかわらず、同じ条件で競い合えることが大きな魅力です。世界中のだれもが参加できる、どんな人ともつながれる、そして、時にはライバルにもなり、仲間になることもできる。eスポーツが、そうした本来の意味でのスポーツ精神にかなうものであるかぎり、今後もどんどん普及し、広く受け入れられるのは、間違いないように思います。

投稿者:松井晋太郎 | 投稿時間:16時49分

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