2018年07月11日 (水)"黒歴史"って何ごみ?


※2018年6月19日にNHK News Up に掲載されました。

「これって何ごみ?」
そう思ったときに便利な自治体のサービスが生まれ始めています。ごみの名前を入力するだけで答えてくれるのです。時に遊び心を持つ人も。たとえば「黒歴史」と入力すると返ってきたメッセージは…
「どうかそっとご自分の中で消してください。でも、消したい黒歴史も立派なあなたの人生の一部ですよ!」
そんなサービス、探ってみました。

ネットワーク報道部記者 佐藤滋

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<ありがとう>
このやり取りは通信アプリ・LINEでのもの。今月上旬、ツイッターで話題になりました。投稿した人は、ある自治体に感謝していました。

「福岡市のLINEで捨てたいものの名前を入力すると分別品目や捨て方を返信してくれる。とりあえずいちばん捨てたいものを入力したらご丁寧に返信くれた。ありがとう福岡市」

どうやら、福岡市のLINEの公式アカウントでのやり取りとわかったので、早速、自分で「友だち登録」して確かめてみました。すると、「家庭ごみ」の分別を簡単に検索できる仕組みだったことがわかりました。


<試してみた>
kur180619.2.jpg「DVD」→「燃えるごみです」
「タンス」→「粗大ごみです」
即座に返信が来ます。あわせて「詳しくはこちら」と家庭ごみの出し方のルールのリンクも送られてきました。

kur180619.3.jpgちょっと悪ふざけもしてみました。
「思い出」→「大切な思い出は、捨てずにあなたの心にしまっておいて!」
「彼氏」→「捨てるかどうかもう一度考えてみてください」
「彼女」→「お答えできません」
通常はごみとして収集されない「もの」にも反応してくれました。
(さらにいくつも入力しましたが、ご自身でお試しください)


<反応は上々>
どんな仕組みなのか、なぜこんなことをしているのか、福岡市に聞きました。

まずは、市民への情報発信を行う広報担当の部署です。「ツイッターで話題になっていますが」と切り出すと「そうみたいですね!」とうれしそうな反応でした。

今月5日に始めたこのサービス。去年4月に開設した公式アカウントでの新たな仕組みだということです。登録されているごみの品目はおよそ600あり処分したい物の名前やキーワードを入力するとごみの種類を教えてくれます。

企業や団体などに向けたLINEのアカウントにある「キーワード応答メッセージ」という機能を使っています。あるキーワードを入れると、決められたメッセージが自動的に返信される仕組みだということです。サービスの開始から10日間で公式アカウントの「友だち登録」は、1万5000余り増えたということです。
「登録数は1日ふた桁ずつくらいしか増えませんでしたが、ごみ分別の検索を始めてから急に増えました」(福岡市の広報担当者)


<知ってほしいから>
続いて話を聞いたのは、担当部署「資源循環推進課」。

キーワードと返信は、職員が1つ1つ、手入力で登録し2か月で実用化までこぎつけたということでした。

では、なぜ『黒歴史』のような遊びの要素も入れたのか。担当者は「興味をもって使ってもらう、そのきっかけにしてもらいたかったからです」と答えてくれました。

「分別についての問い合わせを多くいただきますが、身近に毎日出てくるごみをどう分別すればいいか、多くの人が利用するアプリを通して知ってもらいたいんです」(担当者)

収集ができるごみ以外でユニークな返信を設定したキーワードにどんなものがあるか。詳細は「お楽しみに」ということで教えてもらえませんでしたが「30くらいはありますよ」とのこと。

「ほかに何かおもしろいワード、1つ教えて」と聞くと「『ほこり』とひらがなで入れてみてください」とアドバイス。

kur180619.4.jpgその場で入れてみると…
「ほこり」→「埃なら燃えるごみ」「誇りなら捨てないで」


<分別は面倒くさい!?>
この福岡市が「参考にした」という自治体があります。横浜市です。

横浜市はAI=人工知能をいかして、ごみの分別について知らせています。「チャットボット(AIを使って会話をするように文字でやり取りができる)」の活用です。

NTTドコモと去年4月から試行的に始め、ことし4月から本格的に進めています。ホームページの右下にあるマスコットキャラクターのアイコンをクリックし、メッセージの入力欄にごみの名前を入力すると福岡市と同じように分別方法が示されます。

kur180619.5.jpgそして「遊び心」も同様にありました。
再び「黒歴史」と入力すると…「寝るときに思い出すとベッドでジタバタしちゃうよね!」

ここは、福岡市と違った答えでした。

「ごみの分別って難しい、おもしろくない、面倒くさい。そう思われてしまいますが、時間がかからずわかるツールがあればと思い始めました。若い人にとってはスマホですぐに調べられます」(横浜市の担当者)
「遊び心」の回答は、職員がミーティングを重ねてアイデアを出し合い決めました。寄せられた質問の数は昨年度1年間だけでおよそ216万に。「想定をはるかに超えた」ということです。


<哲学的であれば>
ちなみに、福岡市と同じく「彼氏」と入力してみると答えは…「『恋をすることは苦しむこと。苦しみたくないなら、恋をしてはいけない。しかし、そうすると、恋をしていないことでまた苦しむことになる』って映画監督のウディ・アレンは言ってるね」

なにやら哲学的です。
利用者がごみ以外で寄せたユニークな質問は、夢、希望、ダンナ(夫)、妻、オカネ、結婚、上司…。

kur180619.6.jpg哲学的な回答を用意していることについては「不快に思う人が少ないのでは」というのが理由だそうです。
横浜市の場合、1つの質問に対して複数の回答を用意しているということで、同じ質問をしても違う回答が返ってくるケースがあるということです。


<行政側にもメリット>
ユニークな仕掛けでごみ分別への理解を深めてもらおうという、こうしたいわば「行政っぽくない」取り組み。行政にとって、ごみの分別が進むこと以外のメリットもあります。

2つの市ともに、分別については電話での問い合わせが依然として多いといいます。こうした中、市民がわかりやすく親しみやすい新たなツールを用いることで、職員がほかの業務に割ける時間が増えるというのです。

横浜市の場合、1年間で216万あった質問の数を分析すると、その7割が業務時間内にあったということです。横浜市の担当者は「貴重な時間を別の業務にあてられるのでありがたい」と話していました。
2つの市を取材して感じとれたのは、担当の職員たちが「ユーモアを交えつつ、いかに市民との距離を縮め、政策をわかってもらえるか」、ひざをつき合わせながら知恵を絞っている姿。そして、最新技術や民間のノウハウを積極的に活用する姿勢です。こうしたサービス、ごみの分別にとどまらずに広がってほしいと思います。

投稿者:佐藤滋 | 投稿時間:16時52分

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