2018年06月14日 (木)民泊新法前夜 直前キャンセルの衝撃


※2018年6月8日にNHK News Up に掲載されました。

「出発まで1週間もないのに日本で予約した民泊がキャンセルされた!」「ガチで韓国行きに変えようと思っている」(アメリカ在住の女性)
民泊仲介の世界最大手「エアビーアンドビー」が突然、発表した予約のキャンセルに衝撃が広がっています。いったい何が起きているのでしょうか。

経済部記者 野口恭平
ネットワーク報道部記者 玉木香代子・飯田耕太・佐伯敏

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<怒り 落胆の声>
6月15日にスタートするいわゆる民泊新法。住宅やマンションの空き部屋を有料で貸し出す民泊について、一定の条件を満たせば全国各地で届け出をして営業できるようにするもので、急増する外国人観光客の受け皿としてだけではなく、各地で問題となっている空き家対策にもなると期待されています。

その民泊をインターネット上で仲介する世界最大手の企業エアビーアンドビーが7日、日本国内の民泊で6月15日から19日にチェックインする分の予約をキャンセルしたと突然、発表したのです。

min180608.2.jpg(画像 エアビーアンドビーのホームページを加工)
会社は、キャンセルされた人に対して、サイトで利用できるクーポンを発行して代金を返金するとしています。しかし、ツイッター上には民泊を予約し来日を直前に控えていた人たちの、怒りと落胆の声が見られます。

「出発まで1週間もないのにエアビーアンドビーがキャンセルされ、ほかの宿泊施設だと 3倍はお金がかかる。追加で何千ドルも払う余裕なんてない。地獄だ。ガチで韓国行きの航空券に変えようと思ってる」(女性アメリカ在住)

「うわ。エアビーアンドビーの予約がキャンセルされてしまった。東京に数週間滞在したいのだが、いいアイデアありませんか?」(日本に出張予定のエンジニア)

「日本の民泊関係の新しい法律が理由で、出発まであと1週間もない大阪への旅行のエアビーアンドビ-がキャンセルされてしまった。要するに、異国の地でまるまる1週間も泊まる場所がないということ」(女性)


<年末までの予約は15万件>
観光庁によりますと、エアビーアンドビーのサイトに掲載されている物件の予約件数は、ことしの年末までにあわせて15万件にのぼり、この多くは届け出のない物件への予約と見られるということです。エアビーアンドビーでは届け出などが行われていない物件については今月19日以降の予約についてもチェックインの10日前に自動的にキャンセルするとしています。


<本当に合法?同業者にも問い合わせ>
キャンセルの衝撃は同業者にも広まっています。
「長期で日本に滞在するが、本当にその部屋は合法な民泊なのか」「合法であることを証明する書類を提示してほしい」

min180608.3.jpg合法かどうかを問い合わせる海外からのメッセージ
台湾や中国などからの問い合わせのメールが通常の7倍も寄せられ、対応に追われたのが、東京千代田区に本社がある別の民泊仲介サイトを運営する会社。

min180608.4.jpgこの会社は、民泊新法とは別に特区や旅館業法の許認可を受けた民泊、およそ2000室を紹介しています。問い合わせに対しては、仲介サイトに自治体から付与された許認可の番号を掲載していることを強調し、合法的な民泊であることを説明しています。
顧客対応にあたっている「百戦錬磨」の岩沢隆太さんは、「海外旅行は誰にとっても一大イベントであるし、本当に泊まれるのかどうか不安だと思うので、安心してもらえるよう対応していきたい」と話していました。


<苦渋の判断>
それにしても観光立国を目指す日本の評判を落としかねないこの事態がなぜ起きたのか、エアビーアンドビーは「苦渋の判断」としています。

そもそも新法の大きな狙いは、違法民泊をなくして、一定のルールのもとで安心して利用できる民泊を全国に広めることにあります。新法施行後は、届け出を済ませていない物件の仲介サイトへの掲載は禁止されます。

ことし3月の時点でエアビーアンドビーがサイトに掲載していた物件は6万件。ところが6月7日現在、全国の自治体に届け出られた民泊は2000件にとどまっています。

こうした中、観光庁は「法律が施行される15日以降、届け出をしていない物件をあっせんすることは明確な法律違反」として予約をキャンセルするよう指導したのです。


<届け出低調 なぜ>
では、なぜ届け出が低調なのでしょうか。

新宿区内のマンションの一室で民泊を営業してきた40代の女性は「新法は制限ばかりで、新たなビジネスの芽を摘むような法律になっている」と言います。

min180608.5.jpg新法で民泊を営業できるのは、年間で180日が上限とされています。さらに、自治体が条例を制定すれば営業日数や区域を制限することができます。住居専用地域の場合、京都市で営業できるのは原則として1月から3月のおよそ2か月間だけ、東京・新宿区では週末に限定されています。またマンションの場合、条例とは別に、管理規約を改正して民泊を禁止するケースが相次いでいます。


<根強い住民の不安>

min180608.6.jpg背景にあるのは住民の不安の声。法律の整備が追いつく前に違法民泊が広まったため、「ゴミ出しのマナーが悪い」「騒音がうるさい」「地域やマンションに見知らぬ人がうろついている」といった苦情が相次いだ上、犯罪に悪用されるケースも相次ぎ、民泊に反対する空気が広まったのです。


<民泊から撤退>
女性が経営する民泊はこれまで、エアビーアンドビーに掲載されていました。1泊およそ4000円という値段に加え駅から近いこともあって、1か月の稼働率は8割を超えていましたが、管理規約で禁止され撤退を決めました。これから3か月の間にまだ10件の予約が入っていましたが、今回のキャンセルの措置で予約してくれた人と連絡をするサイト自体が見ることができなくなりました。

「今回の措置は、住民感情に配慮してはいるが、旅行者のことを考えていないと感じる。外国人の日本に対する不信感を募らせるだけで乱暴すぎると思う」と話しています。


<民泊新法が問いかけるもの>
観光立国を目指す日本で起きた今回の混乱。どう考えればよいのでしょうか。

民泊に詳しい立教大学観光学部の東徹教授は、「新法の施行では時間的な余裕があまりなく、規制をする自治体側も受け入れる家主側も、運営サイト側も準備が追いついていなかった」ことにその要因があると指摘します。そのうえで、「世の中ではネガティブな印象をもたれることもある民泊だが、観光の新しい資源としては不可欠なもので、2~3年後も視野に、これをビジネスとしてどう成長させていくかという視点をもつことが重要だ」と話しています。
min180608.7.jpg東徹教授
これからますます増えると予想される外国人旅行者をどう受け入れていくのか、民泊新法のスタートはそのことを改めて問いかけています。

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投稿者:玉木香代子 | 投稿時間:17時15分

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