2017年02月24日 (金)"働く留学生" ニッポンを支える現実


※2017年2月14日にNHK WEB特集に掲載されました。

「イラッシャイマセ…」深夜のコンビニ、そして飲食店。たどたどしい日本語で接客する外国人の姿を見かける機会が増えています。外国人労働者は、去年初めて100万人を突破し、108万人に。平成20年のおよそ48万人から倍以上に増えているのです。そして最近、特に増加が目立つのが留学生で、働く外国人の5人に1人。コンビニなどで働く外国人も多くが留学生なのです。”学びに来た留学生が労働現場に立つ現実”。それを追ってみました。

0214_6eyecatch.jpg

<人手不足の現場に留学生>
取材したのは羽田空港に近い大手運送会社の国内最大規模の物流センター。
ネット通販の拡大などで業務量が増え続けている物流業界はいま人手不足が深刻です。多くの荷物を扱う夕方以降のセンターをのぞいてみると、仕分け作業にあたるアルバイトやパートのほとんどが留学生でした。

0214_015_line.jpgここ数年で急増したのはベトナムとネパールからの学生。多くが日本語学校で学んでいます。会社の作業マニュアルもさまざまな国の言葉で書かれたものが用意されていました。


<なぜ留学生?>
なぜ、留学生の働き手が増えているのか。それは留学生が働く上でのある特徴にあります。一般的に、外国人が海外から日本に来る場合、働くことができる職種は限られています。しかし、留学生は1週間に28時間以内という制限はあるものの、日本人の学生と同じように原則、職種に関係なく自由に働くことができるのです。

このため、日本人の働き手が集まりにくい人手不足の現場で引く手あまたなのです。物流センターでは、荷物を自動で仕分けする最新の設備を導入して人手不足を補おうとしていますが、日本人だけではとても対応できません。運送会社の担当者は、「留学生はまじめで非常に大きな戦力として働いてもらっている。ただ週28時間という制限があるので、厳守するよう管理を徹底している」と話していました。

0214_021_interview.jpg私たちの便利な生活を支える物流網を留学生が支えている現実がありました。


<受け皿の日本語学校も急増>
その留学生の日本への入り口は多くの場合、日本語学校です。国が積極的に留学生を受け入れる方針を掲げていることもあり、日本語学校は5年間で100校以上増え、去年は全国で568校となりました。増えているのはやはりベトナムやネパールからの留学生。
留学生事情に詳しい専門家によると、東日本大震災のあと中国や韓国からの学生が減り、日本語学校がベトナムやネパールからの留学生の獲得に力を入れていることも背景にあるそうです。

0214_033_school.jpg取材した東京・新宿区の日本語学校は、留学生の急増に対応するため、過去5年間で定員を160人増やしていました。そして学校の掲示板を見てみると、「飲食店」「スーパー」、「清掃業者」などなど。人手不足の企業からのアルバイトの求人が一面に貼られていました。企業からの求人は増えていて採用の担当者が空いた教室を借りて留学生の面接を行うこともあるそうです。
人手不足の職場で留学生の需要が高まるなか、学校では、入学時に配布するパンフレットで、週28時間を超えて働くことのないよう周知を徹底するなどの対応に追われています。

0214_042_panf.jpgこの日本語学校の校長は「いま通っている学生は週28時間という制限を守っていると自信を持って言える。ただ数年前は、見極めが甘い時期があって、勉強よりも仕事をメインにする学生もいた」と話していました。


<“出稼ぎ”留学生>
人手不足に悩む企業が、働き手として留学生を求める中、新たな課題も出てきています。去年、福岡県や群馬県で、留学生にアルバイト先を紹介するなどして週28時間を超えて働かせていた疑いで、日本語学校の経営者などが逮捕される事件が相次いだのです。
学ぶためではなく働くために日本に来る留学生、”出稼ぎ留学生”は少なくなく、それを知りながら受け入れる日本語学校もあって問題となっているのです。


<複数の銀行口座で…>
そのひとり、6年前に来日し、日本語学校に通いながらアルバイトをしていたという、ネパール人が取材に応じてくれました。どのくらいの時間働いていたのかと尋ねると「多い時には複数のアルバイトをかけ持ちし、週に60時間ほど働いていた。20万円を超える給料を受け取っていた」と言います。ネパールなどから来る多くの留学生は、日本語学校の学費や仲介料として、現地の仲介業者に100万円以上を払い、大きな借金を背負って来日します。「日本に留学すれば月30万円程度は稼げる」などという仲介業者の言葉を信じて、働くために来日する留学生もいるそうです。

そして「留学がいちばん日本に来るのに簡単だ。少なくても私の仲間は多くが勉強よりも仕事を期待して日本に来ている」と話し「28時間だけ働いても生活できない。次の学費の準備もできない。借金して日本に来ているので、28時間以上働くのは仕方ないと思ってやっていた」などと仲間の状況についても説明していました。また銀行口座を3つ持って、アルバイト先ごとに給与の受け取り先を使い分け、週28時間以上働いていることがわからないようにしていたということです。


<外国人労働者108万人のいま>
今この留学生の問題をどう考えればいいのでしょうか。国士舘大学の鈴木江理子教授は週28時間を超えるアルバイトは不法就労にあたるため、望ましくはないとしたうえで、「留学生が働きに来ているから間違っているという議論があるがそうではないと思う。働きたいという人がいて、働いてもらいたいという企業のニーズが現実としてある。無条件で誰でも働いて良いということにはならないが、両者のニーズをマッチングできる制度を検討する時期に来ているのではないか」と話しています。

0214_06_interview72.jpg日本の企業が働き手として求め、途上国の若者が働くために来たいと希望していても、その手段が、事実上「留学」などに限られていることが、出稼ぎ留学生の問題の背景にあるという意見です。

外国人労働者の受け入れをめぐっては、“治安”や“日本人の雇用”に悪い影響を与えるのではないかと懸念する声があることも確かで、そうした視点からの議論も必要です。受け入れる環境を整えないまま、人手不足の穴を埋める安い労働力として、安易に受け入れるべきではないという意見もあります。
一方で、すでに国内で働く外国人は108万人。例えれば富山県の人口を上回る規模の外国人が日本で働く時代です。人手不足が深刻化するなか、「働き手」としての外国人の受け入れをどうすればいいのか、検討する必要に迫られていると思います。

投稿者:岡崎 靖典 | 投稿時間:15時46分

ページの一番上へ▲