2012年03月09日 (金)絵本「きぼうのかんづめ」 広がる支援


震災で大きな被害を受けた宮城県石巻市の水産加工会社が、遠く離れた東京の商店街の支援を受けながら立ち直るまでの姿を描いた絵本が完成しました。
絵本を作った東京のグループでは、売り上げを水産加工会社の復興に充てるとともに、震災の記憶を絵本で語り継ごうとしています。

完成した絵本は「きぼうのかんづめ」という作品です。
私は、絵本を手がけたグループの中心の須田泰成さんを以前から取材させていただいています。須田さんは、世田谷区の飲食店を経営していますが、コメディライターという別の顔も持っています。取材させていただいたきっかけは「缶詰」。須田さんが始めた「缶詰カフェ」というユニークな取り組みを、おととしの秋に取材しました。
須田さんが絵本を手がけたきっかけも、「缶詰」がつないだ縁でした。

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絵本の舞台は、石巻市で缶詰などを扱う小さな水産加工会社。絵本には、津波で被災したときの様子が描かれています。

knz3.jpg「ぼくたちの暮らしが、とつぜん変わった」
「町が海に飲まれてしまった」
「こんな泥だらけの缶詰、どうしようもない」

knz2.jpgknz4.jpg絵本の文章をつづった須田さんは、震災前から石巻の会社の缶詰を気に入り、缶詰を使ったイベントを開くなど、つながりがありました。この会社の工場が津波に流されてしまったことは、震災の直後に知ったそうです。

須田さんは
「震災前から仲よくしていたので距離が離れているのは関係ないと思い、支援に乗り出しました。おいしい缶詰を食べるためにも、会社がいち早く、いい形で復興してほしいという思いでした」と話しています。

knz5.jpg商店街では、がれきの中から拾い集めたという缶詰を送ってもらい、仲間が一つ一つ洗っていきました。絵本にはそのシーンが描かれています。
「さっそくみんなで 洗った!洗った!洗った!」
また、ラーメン店と協力して、サバの缶詰を使ったラーメンも開発して、販売したりした様子も描かれています。

knz6.jpgknz7.jpg石巻市から300キロ以上離れた東京での支援。水産加工会社の社長は須田さんの店を訪れ、「ことばでは言い表せないご恩を頂いた。ご縁を大事に頑張っていきたい」と感謝のことばを述べたといいます。

須田さんは
「震災後、すぐに支援を始めて、少しずつ希望が見えてきました。2か月ぐらいすると、人の輪が全国に広がり、とてもいい希望に満ちたストーリーになりまし た。絵本なので、子どもからお年寄りまで幅広い年代の方が読め、震災の被害と復興を知っていただくきっかけにしてほしいです。」と話していました。

表紙に希望の缶詰を掲げた子ども描いたこの絵本。須田さんたちが最も伝えたかったことばを、帯に記しました。
「あの日、津波に流されずに残ったものがあった。それは、希望だった。」

支援を受け、工場は再建するめどが立ったということです。絵本は5000部作られ、売り上げの多くは水産加工会社の復興に充てられることになっています。

knz8.jpg【取材を振り返って】
絵本「きぼうのかんづめ」は、須田さんをはじめ、イラストレーターの宗誠二郎さん、企画協力の後藤国弘さん、デザイナーの今井クミさん、出版社の杉田龍彦さんが手がけたものです。
皆さん快く取材に応じていただき、放送では紹介できませんでしたが、宗さんのアトリエまでお邪魔して、絵を描いたり色を塗ったりするところまで取材させていただきました。
宗さんに話をうかがうと、津波で被災して水が引いたあとの工場跡を描くのにいちばん苦労したそうです。子どもも読む絵本なので、あまり凄惨なシーンにもできないし、かといって、軽々しくも描けない、そういったジレンマがあったそうです。
完成したシーンは、抽象的な絵で表現は抑えられていますが、暗い色調で状況が伝わってくる場面だと、私は感じました。

この絵本の目的は、売り上げの多くを水産加工会社の再建に充てるということで、もちろん「復興支援」という側面もありますが、もう一つ大きな目的があります。
「震災の記憶を風化させないこと」です。
須田さんは、阪神・淡路大震災で実家が被災した経験から、「災害の記憶は風化が早い」と感じたといいます。記憶が風化するのをできるだけ防ぎたいという思いで、絵本にして、子どもから大人まで読んでもらおうと考えたそうです。
須田さんは、災害の記憶を語り継ぐために、石巻市だけでなく、東日本大震災の津波で大きな被害を受けた岩手県陸前高田市や、地震や豪雨で被災した新潟県十日町市の物語も絵本にして、シリーズ化を検討しているということです。完成したら、ぜひ手にとって読んでみたいと思っています。
缶詰をきっかけとした縁は、どんどん広がっていると感じています。

投稿者:宮本知幸 | 投稿時間:06時00分

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