2018年05月23日 (水)追跡"平成"企業 1270社


※2018年5月1日にNHK News Up に掲載されました。

平成○○会社、平成△△など、名前に“平成”が入った会社を見かけたことはありませんか? “平成”も残り1年。平成ネームの企業を深掘りしてみました。

ネットワーク報道部記者 佐藤滋・高橋大地・田辺幹夫

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平成も残り1年、思い入れがある人たちに話を聞いてみようと考えた取材チーム。名前に“平成”が入った企業はどれほどあるのか調べてみました。

全国に1270社。

民間の信用調査会社、東京商工リサーチがデータベースから調べたところ、社名に「平成」が含まれていた企業数はこれだけあったそうです。

産業別で見てみますと、「サービス業他」が372社(29.2%)、「建設業」が334社(26.3%)、「不動産業」が192社(15.1%)、製造業が99社(7.8%)でした。

この結果を見て、やはり、サービス業では目立つことも大事なのかなと、ネットで検索してみた取材チーム。

目に付いたのが、福井県にある料理旅館「平成」。そのもの、ずばりのネーミングに早速、話を聞いてみることにしました。

tui180501.2.jpg現地に向かったのは先月下旬。越前海岸沿いに旅館はありました。
温泉が湧く大浴場からは、日本海が望めるロケーションです。

tui180501.3.jpg迎えてくれたのは旅館のおかみの山野昭子さんです。山野さん夫妻が親族から経営を引き継ぎ、オープンしたのが平成元年4月。改元のタイミングと重なったため「平成」に名前を変えたといいます。

tui180501.4.jpg当時の旅館業許可証
命名の理由をおかみさんに尋ねると、「『平ら』に『成る』という字そのものが旅館業に向いているという家族からのアイデアでした。『お客様の心が穏やかになる旅館』という意味ですね」と当時を振り返りながら話してくれました。

tui180501.5.jpg名物の「越前ガニ」とともに、平成の名前でアピールを続けてきたこの旅館。効果はどうですか? と尋ねてみると、「覚えやすいことでファンが増え、一度泊まったら忘れないということでリピーターが増えました」とおかみさんは笑顔で答えました。

旅館のオープンから30年。苦しい時期もありました。

その歴史は、事故や災害と向き合う日々でもあったそうです。旅館に近い国道で起きた岩盤の崩落事故、旅館のお客さんが多く住む関西地方を襲った阪神・淡路大震災、同じ福井県の高速増殖炉「もんじゅ」の事故…。

tui180501.6.jpgナホトカ号原油流出事故 平成9年1月
中でも、おかみさんが特に印象に残っているのが平成9年に起きたロシア船籍のタンカー、「ナホトカ号」の重油流出事故です。

tui180501.7.jpg重油は、日本海側の広い範囲に被害をもたらし、海に面した旅館の前の海も真っ黒に。目の前に広がる眺めが「売り」の1つだったこともあり客足が大きく落ち込んだそうです。

「旅館からすぐ見える岩にも真っ黒な油がこびりつき、なかなか取れない状況でした。キャンセルが相次ぎ大ショックでした」

厳しい経営が続く一方で、手を差し伸べてくれる人たちの温かさも身にしみました。

海の清掃にあたってくれたボランティアの人たち。

tui180501.8.jpg特に、その2年前の阪神・淡路大震災で被害に遭った人の存在でした。震災の時、旅館がある福井県から多くのボランティアが来てくれたことの「お返しに」と旅館の前の海の清掃に来てくれたそうです。

「助け合い、生きていく」

おかみさんは、感謝の気持ちを忘れずに過ごしてきました。

「私たちよりももっともっと大変な思いをした人たちに助けられた。この上ない感激でした」

tui180501.9.jpg息子の聡仁さんと
平成が終わるまであと1年となる今、旅館の経営は息子の聡仁さんに引き継がれています。

聡仁さんは旅館のオープン当時、中学2年生でした。「当時のあだ名は『平成』でした。当時は嫌でしたが、今となってはいい思い出です」と苦笑いしながら語ってくれました。

元号が新しくなる…。旅館の名称についてなじみのお客さんからは「次は、どうなるの?」「このまま続けるの?」と心配する声が寄せられるといいます。

「日頃の生活でいろいろとぎくしゃくしていても旅館に来ると平成の名のように『穏やかに平らな気持ち』になれる。おいしい料理とロケーションに『今までの苦労が吹っ飛んだ』と言ってくれるお客さんのひと言がうれしいんです。だから、この名前は続けてほしい」

こう語る、おかみさん。隣に座っていた息子の聡仁さんは。

「平成に対する母親のおかみの熱い思いをきょう、初めて聞きました。私もそれをつないでいきたい、そして、またそれを私の息子にもつなげたい」

そう語った息子の姿を頼もしそうに見る母のおかみさん、その温かなまなざしが印象的でした。

「追跡“平成”企業 1270社」の2回目は「町工場“激動の平成”」です。

投稿者:佐藤滋 | 投稿時間:15時36分

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