2019年08月02日 (金)わたしのマルキュー


※2019年3月26日にNHK News Up に掲載されました。

渋谷 スクランブル交差点の先にそびえる「SHIBUYA109」、通称“マルキュー”。その外壁を彩る赤いネオンの「109」のロゴ(看板)が40年の歴史に幕を下ろしました。昭和から平成にわたり、若者のファッションや流行・文化の中心ともなった“マルキュー”をめぐる、さまざまな人たちの思いを取材しました。

ネットワーク報道部記者 木下隆児・ 飯田耕太・ 田隈佑紀

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<“憧れ”の場所>
シンボルのないビルの姿にネット上では惜しみ、懐かしむ声が広がっています。
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「修学旅行で109の前で写真撮ったな~懐かし~(笑)東京きたー!って感じだったもんなー」

「日サロでこんがりコギャルメイクで109遊びに行ったりクラブ行ったりしてたよ。逆に田舎育ちなんだと思う」

「109といえばギャルの聖地で憧れの場所だったけど、今の時代の流れに沿って色々変わってるんだな」
友人との待ち合わせや買い物にとどまらず、アムラー、コギャル、ガングロなど90年代から2000年代の若者文化を象徴してきた「109」。平成の終わりを前に一新されようとする様子に、みずからの青春時代を重ね合わせ、時代の変化も感じとる声が聞かれました。

<40年の歴史に幕>
ロゴの撤去作業が始まったのは今月13日。この日、「109」のツイッターには、「マルキューのロゴ卒業します」「慣れ親しんだこのロゴが見れなくなるのは寂しいですが、新しいロゴと共にまた渋谷を見守っていきたいです」とのメッセージが。
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これには、1万2000件を超える「いいね!」とともに、なじみのロゴがなくなるのを惜しむ声が相次ぎました。
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高さおよそ4.5メートル、幅7メートル余りにわたって設置された「S」「H」「I」「B」「U」「Y」「A」の文字と、「109」の数字が次々に取り外され、翌日までの2日間ですべて姿を消しました。若者のまち、渋谷のシンボルが40年の歴史に幕を下ろした瞬間でした。

<『GALS!』に集う声>

「渋谷に行ったら、マルキューのロゴ看板の撤去が始まってた。なんだか寂しい気持ち。新しい元号とともに生まれ変わるのかな お疲れ様!ありがとう旧109!!」
今月20日に開設された、あるツイッターのアカウントに投稿されたツイートです。ツイートしたのは、漫画家の藤井みほなさん。少女向けの漫画雑誌『りぼん』(集英社)に平成10年から平成14年まで連載された漫画『GALS!』の作者です。

渋谷を舞台に、主人公の寿蘭をはじめとする3人の女子高校生が友情を育み、成長する物語で、漫画で描かれたルーズソックスや厚底の靴など、いわゆる「コギャルファッション」をまねしていたという当時の読者を中心に、藤井さんのアカウントが大きな反響を呼んでいます。
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「『GALS!』でギャルに憧れて蘭の真似してアクセじゃらじゃらつけてたし。『GALS!』を見て渋谷知った地方民からしたら、109といえば『GALS!』だし。いまだにコギャル文化に微かな憧れと懐かしさを感じるくらいには小学校のときのバイブルだったな」

「あぁぁぁ!!!?GALSなつかしぃぃぃ!!!小学生のとき蘭ちゃん憧れたわー。ハイビスカスにバンダナに厚底サンダルに腕アクセジャラジャラ!大きくなったら渋谷のギャルになるとおもってた。みほな先生が109の看板が変わる話しすると平成の終わりが切なくなる」
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<藤井みほなさんに聞いてみた>
20年前の作品への大きな反響。作者はどう受け止めているのか、連絡をとってみると、快く取材に応じてくれました。

藤井みほなさんとの一問一答です。

ーなぜツイッターのアカウントを開設したのでしょうか?
きっかけは、文京区にある美術館で4月から始まる、大正から平成に至るまでの学生服のデザインや着こなしを漫画家の作品と合わせて展示する企画展にお誘いいただいたことです。『GALS!』で描かれた平成のコギャルたちの制服の着こなしなどを展示したいとのことでしたが、ちょうどよいカラー原稿がなかなか見つからず、ついには17年間ほど一度も開けなかった押し入れを全部ひっくり返すことになりました。

もうカラー原稿もだいぶ退色しているだろうと思ったのですが、奇跡的にとてもきれいな状態で保管されていて驚きました。原稿を眺めるうちに、当時の時代感などが鮮やかによみがえり、まるでタイムスリップしたような気持ちになって。
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ちょうど平成も終わりに近づき、時代を振り返るような風潮になっているので、もしかしたら、この原稿をツイッターに流すことで、当時を懐かしんでくれる方もいらっしゃるかもしれない、それなら私も皆さんと一緒に平成を振り返って楽しみたいな、と思うようになりました。

ー109のロゴが取り替えられるのを見て、どんなことを感じましたか?
一抹の寂しさを感じましたね。109の看板は、目をつぶって描けるほど、何度も漫画に登場しましたし、主人公たちがいつもあの看板の下を跳ね回っていましたから。でも、新しい時代の幕開けにロゴを新調する109は、やっぱり109らしくてかっこいい!と思います。
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ー自身のツイッターアカウントが話題になっているのを知っていかがですか?
実は、誰にも相談せずに、たわむれに何気なーく始めたので、初日は5人くらいのフォロワーさんでした。「そりゃそうだ、誰も私のこと覚えてないよね(笑)まあいいや」くらいの気持ちで自由につぶやいていたので、まさかこれほど話題になるとは夢にも思いませんでした。当時はSNSがなく、手書きファンレターの時代だったので、今になって、こんなに大勢の方々が『GALS!』を読んでくださっていたことがわかって、うれしさと共に驚きました。皆さんが、私の原稿を眺めながら、当時こうだった、ああだったと懐かしんでいるのを見て、本当にうれしいですし、私も一緒に楽しませていただいています。

ーそもそもですが、なぜ渋谷を舞台にした漫画を書こうと思ったのですか?
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当時は、「キレる17歳」という造語ができるほど少年犯罪が深刻に取り上げられた時代でした。その時のコギャルたちもちょうど17歳前後ですから、大人社会からはひとくくりに「問題児」扱いされていました。渋谷はコギャルが集まる場所で、その少し前にはチーマーのおやじ狩りなどが問題になっていましたから、あまりいいイメージを持たれていませんでした。

しかし、実際に109に吸い込まれるように入って行ってショッピングを楽しむコギャルたちをつぶさに観察したり、渋谷を歩いたりすると、彼女たちのとても楽しそうなこと。大人からひとくくりにされてしまっているコギャルたちには、そりゃあ良い子も悪い子もいるだろうけど、みんなほかの子と同じように普通に悩んで、恋をして、おしゃれを楽しみ、不条理な大人たちと戦い、自分の人生を探しているのだろうと思いましたし、むしろ、世間に指をさされても意に介さないコギャルたちが非常に魅力的に見えました。みんなが109で購入するコギャルファッションは、一種の戦闘服のようなものなのかもしれないと思いました。そんなコギャルを主人公にするなら、舞台は絶対に渋谷だし、コギャルと渋谷の象徴アイコンは109しかないと思ったのです。

ー平成もまもなく終わります。109のロゴも変わります。自身が漫画の舞台にした渋谷が、これからどんな街になってほしいですか?
時の流れとともにコギャルも肯定されるようになっていき、109のショップ店員のファッションが時代の最先端になりました。小・中学生も109でショッピングするようになり、渋谷へのイメージは大幅に変わったと思います。コギャルブームは終わりましたが、渋谷は常に時代の最先端であることは変わらないと思います。大人も子どもも、諸外国の方々も、渋谷に来れば時代の最先端に会える、そんな街であり続けてほしいなと思います!

<当初は呉服も…バブル崩壊で大転換>
「109」は、昭和54年の「シブヤの日」4月28日に「ファッションコミュニティー109」として渋谷のど真ん中、道玄坂に開業しました。

地下2階、地上8階建ての円柱形の建物には、当初、紳士服や呉服などを扱うテナントが入っていたこともあったそうです。
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写真提供:SHIBUYA109

そして、平成元年に「SHIBUYA109」に名前を変更したあとは、次第にターゲットを10代後半から20歳前後の女性に絞るようになります。

「平成3年にバブルが崩壊し、109全体でも売り上げが落ち込んだ時期があり、渋谷の街や店に来る人たちの動向を調査した結果、高校生など若い女性の客足は減っておらず、むしろ伸びていたことがわかったんです」

そう話すのは、「109」のPR会社の代表、喜多将造さんです。

喜多さんは平成7年から今の仕事に関わっていますが、ちょうどその頃はテナントを女子高校生向けなどにシフトした“大転換期”だったといいます。

「1990年代は歌手の安室奈美恵さんに似た格好をする『アムラー』や、『コギャル』に代表される若者ファッションが注目され、ティーン向けの雑誌も続々と創刊された時期でした。今のようにスマホやSNSのない時代ですから、若い女の子たちはむさぼるように雑誌を読んでは渋谷に来たんです。そうした女の子たち向けのフロアが毎年、1階ずつ増えていきました」

「マルキュー」の愛称で、若者のファッションや文化の発信拠点として、絶大な人気を誇るようになった「109」。雑誌に登場して、ショップのブランド服を華麗に着こなす店員は「カリスマ店員」と呼ばれ、流行語にもなりました。

<脱“ギャルの聖地”目指す動きも>

2000年以降も地方の客などを取り込んで「109」の人気は続き、今では大阪や鹿児島、香港などにも店舗を展開。外国人観光客も多く駆けつけるようになり、観光スポット化しているところもあります。

しかし、最近では価格が比較的安い海外のファッションブランドの進出やインターネット通販の台頭、若者の服の嗜好(しこう)の変化などで売り上げは平成20年度の280億円をピークに平成28年度には147億円まで落ち込みました。

そこで年齢や性別を問わず、より幅広い世代にアピールしようと去年は通信販売もできるスマートフォン用のアプリを導入したり、YouTuberに店頭で販売促進してもらったりしたそうです。

「40周年を機に新しくするロゴと一緒に新たなブランドイメージをつくりたい」と話すのは、運営会社で広報を担当する山森晶奈さん。新しいロゴは「109」の誕生日となる来月28日に披露される予定です。

<新ロゴは>
新しいロゴを決めるにあたっては去年春に公募を行い、9537点のデザイン案が寄せられました。小学生から70代まで幅広い世代や海外からも応募があったそうです。

それを、「109」のショップ店員や運営会社の社員による投票、それに渋谷区長やモデルでタレントの藤田ニコルさんらの選考で絞っていきました。最終候補に残ったのがこの4つです。
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「40年の節目を迎える新しいロゴはこれまでの109のイメージにとらわれず、時代や環境の変化に合わせたたくさんの人に受け入れられるものがいいという思いがあり、どれも魅力的な作品が集まりました」(広報担当 山森さん)
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最終的に、ウェブで一般投票を行い、決まったのがこちらです。
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数字どうしがくっつきあい、ピンクや紫の鮮やかなグラデーションカラーが印象的です。

山森さんは「『くっついてくること』は人とのつながりや共感を大事にする今の若者を表すものとして、『グラデーション』は多様な人が訪れるようになった今の渋谷を表すものとして個人的にもとても気に入っています。多くの人に慣れ親しんでほしい」と話していました。
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完成イメージ

<時代の映し鏡>
昭和から平成、平成から次の時代へ。その節目、節目で、時代の映し鏡のように姿を変えてきた“マルキュー”。

これからもスクランブル交差点を渡るたびに見上げ、時代の空気を感じ取っていきたいと思いました。

投稿者:木下隆児 | 投稿時間:14時08分

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