2013年12月04日 (水)障害者の "光る感性" を ものづくりに


今、障害のある人の斬新なデザインが、ものづくりの現場やビジネスマンから注目を集めています。レインブーツや“名刺”に生かされたその感性とは。最新の動きを取材しました。

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カラフルでユニークなデザインの生活雑貨などの展示会が、先週、東京都内で開かれました。
art1.jpgart3.jpg訪れた人たちから「絵に力があります」とか、「一つ一つ個性があってかわいい」と評判になりました。
商品は、障害がある人とメーカーが協力して作ったものです。枠にとらわれない発想力をものづくりに生かし、時代に合った商品開発をしようという新たな取り組みです。
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奈良市内にある障害者の自立支援施設「たんぽぽの家」では、障害のある人たちの創作活動に力を入れています。アトリエでは毎日、色鮮やかでユニークな絵が次々と生み出されていて、独特の感性が光ります。
art10.jpg作者の1人、西ノ園有紀さんは、知的障害があり、周りとのコミュニケーションが苦手です。スタッフの勧めで、3年前から絵を描き始めました。
art37.jpg果物や野菜など身の回りにあるものを題材に、細かな部分まで観察し、塗り重ねていきます。
色鉛筆とは思えない力強く鮮やかな色合いが特徴で、展覧会などで次第に人気を集めるようになりました。1万5000円の月給に加え、絵が売れると3万円ほどの収入になります。
施設では、優れた作品をもっと広く世に出したいと考えました。

art12.jpgたんぽぽの家の藤井克英さんは、「これまではどちらかというと、この施設の中でものづくりを行っていた部分が多い。クオリティーの高いものづくりを目指すためにも、さまざまな地域の産業とつながっていくことを考えました」と話しています。
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これに対し、名乗りをあげたのが、地元の履物メーカー「森川ゴム工業所」です。
art17.jpg中国などの安い海外製品に押されていたこの会社は、付加価値の高い商品づくりを目指していました。そこで注目したのが、西ノ園さんの絵をもとにしたデザインでした。
art15.jpg企画開発責任者の森川良一さんは、「中国製品との差別化であったり、オリジナリティーのある柄というのを見つけていきたいというのもあった」と話しています。
art16.jpg会社が西ノ園さんのデザインを生かすために選んだのは、レインブーツです。
デザインが印刷された布を、靴下のようにして金型にかぶせ、その上を透明な塩化ビニールで覆います。
art19.jpgすると、鮮やかな色が、そのままブーツに映し出されるのです。art20.jpg販売価格は1足7000円余り。5%が著作権料として西ノ園さんに支払われます。
森川さんは、「アート性が高くて、面白い商品になったと思います。どちらもが商売として成り立って、作家さんにもきちんと自立支援ができるように、ビジネスパートナーとしての関係というのが好ましい」と話していました。 
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一方、障害者が書いた文字を自立支援につなげようという取り組みも始まっています。
art22.jpg大きさの違う文字。
art23.jpg定規で書いたように、まっすぐな文字。
art24.jpg名刺に刻まれた文字は、すべて障害のある若者によるもので、注文を受けた文字を心を込めて書いています。
art25.jpg宮地菜摘さんは、「丁寧に書けたらいいなと思っています」と話しています。また、吉澤晴日さんは、「使ってくれている人の笑顔を思い浮かべて書いています」と話しています。
art26.jpg若者たちの文字の味わいにひかれたのが、経営コンサルタントの鬼頭秀彰さんです。2年前、名刺の文字を書いてもらうビジネスモデルを思いつきました。
鬼頭さんは、最初に作った自分の名刺について、「社名の『 i 』の文字が太くなっているのは、書いてくれたお子さんのこだわりで、非常にそれがおもしろいのでそのまま使った」と教えてくれました。
art27.jpgart28.jpgその仕組みです。名刺の注文はホームページを通じて受け付け、書き手に発注します。
書いてもらった文字を名刺にして、注文した人に送ります。
料金は100枚で5000円余り。このうちの20%が、デザイン料として書いた人に支払われます。
art29.jpgこの名刺は、思わぬ効果をもたらしています。出版社で営業を担当する中村誠一さんのある日の名刺交換の様子です。
art30.jpg中村さん「中村と申します、よろしくお願いします」。
営業先 「この名刺のデザインはどういうふうになされたんですか」。
中村さん「知的障害のある子が、1文字ずつ私の名前を名刺に書いてくれて」。
営業先 「まっすぐ伸びているところと丸みのあるところとか、あたたかみを感じる。中村さんのイメージが伝わってくる」。
いつも、こうしたやり取りが自然に生まれるといいます。
art31.jpg中村さんは、「名刺の持っている力、という部分でいろんなご縁につなげていただける。本当にいいアイデアだと思います」と話しています。
art32.jpg評判は口コミで広がり、今では月30件ほどの注文があります。次第に書き手も増え、若者たちには変化もみられるといいます。名刺を通して社会とつながったことが、大きな自信になっているというのです。
吉澤晴日さんは、「書いている自分も楽しいし、自分の字が役に立っているんだなと思うとうれしい」と話していました。
art36.jpg障害者の感性がものづくりやビジネスの現場と結びつくことで、新たな可能性が広がろうとしています。


【取材後記】
2つの現場とも、真剣な中にも、明るく楽しく元気のよい雰囲気があったのが、とても印象的でした。一緒にいるとこちらまでうれしくなるほどです。
しかし、現場を離れると、こうした雰囲気はまだ多くは知られておらず、まだまだ障害のある人を取り巻く環境には厳しいものがあります。それは、仕事で言えば選択肢の狭さに表れていますが、アイデアしだいでこんなふうに広げることができます。
今週は障害への理解を深める「障害者週間」です。こうしたことをきっかけに、少しでも伝わればと思います。

名刺の場合、リピーターになれば、割引があります。最近では、障害のある若者たちが描いたイラスト入りの名刺も人気を集めているということです。
一方、最初にご紹介したレインブーツなどの展示会は、先月29日から今月1日まで東京・渋谷で開かれ、たくさんの人でにぎわっていました。展示会は今月仙台で、来年2月には福岡でも予定されています。
レインブーツは、渋谷では早速注文がありました。来年2月には手元に届けられる予定で、今後の売れ行きにも注目したいと思います。

投稿者:三瓶佑樹 | 投稿時間:08時00分

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