2011年12月06日 (火)"カンブリア爆発" ネット大競争の今


先日、このブログで、20年前のアメリカ・シリコンバレーを巡る記事を書きました。
ブログをご覧になった皆様のツイッターを拝見すると、「懐かしい」という感想の方が多いようでした。

そこで、きょうはがらりと趣向を変え、「ネット大競争の今」と題して、現在のシリコンバレーや日本の状況について、少し考えたいと思います。

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先月末、IT系のインターネットメディア「テッククランチ・ジャパン」("TechCrunch Japan") が主催した、大がかりなイベントを傍聴させていただきました。ご存じの方も多い「ツイッター」の日本法人の代表や、「ニコニコ動画」の「ドワンゴ」の会長、ソーシャルネットワーキングサービスのゲームなどで知られる「グリー」の社長、そして、アメリカで起業した20代の若い日本人経営者や日米の投資家などが一堂に会して、それぞれの経営環境や事業のねらい、今後の展望などを語りました。
非常に興味深い内容でしたので、その要旨などを以下にご紹介します。

まず、今では多くの人がネットで「つぶやく」ようになった、その発信メディアの「ツイッター」です。アメリカのツイッター社が初めて外国に現地法人を作ったのが日本。ことし、その初代社長になった近藤正晃ジェームスさんが講演しました。

t6.jpg「われわれのありたい姿は、単にソーシャルメディアの中の1社というだけではなく、世界のすべての人が、自分の最も大切なものにリアルタイムにつながるということで、このミッションを実現したいと思います。特に、東日本大震災、これがツイッターを大きく変えました。震災のときに、ライフライン的な情報があるかないかで、自分の生命が変わってしまう、これを突きつけられたような気がします」

「3月11日以前と以降では、ツイッター社に連絡を寄せる人が全く変わりました。それまでは、タレントさんとかスポーツの方が多かったのですが、3月11日以降は、政府系機関などから多く連絡が寄せられました。自治体の安否情報などを出さないといけないという声でした。すでに、350ぐらいの県・市町村レベルのツイッターの公式アカウントが出来ています。特に、安否・災害関係の情報を出していこうということで、東北地方がすごく多いのですが、電力の需給に関しても、すべての電力会社がアカウントを持っています。あるいは、交通網が動いているかいないかという鉄道のリアルタイム情報など、ある意味で堅い、かっちりした、それまではツイッターに距離が近くなかったところも連絡を非常に多く頂きました」

「われわれは、非常に広くて、かつ多様で移り変わるもの、それらをすべてつなげられる簡潔な情報プラットフォームというものを目指すことを再確認しました。今、1億人超、1日に5億ツイートぐらいが世界中で発信されていますが、何か起きると、世界中でトラフィック(通信量)が上がるようになっています。震災で言えば、最も重要な津波情報が求められるなかで、テレビは電気がないとつながらないですし、ラジオも電池がないと使えない。電池が残っている携帯電話があれば、それを通じたサービスに皆さんが集中したようなこともありました。われわれとしても、楽しい食べ物やスポーツなどの好きな物のレベルから、命に関わるものまで、広く常につなげられるようにしようと、それを再確認して、日本の経験を世界にも展開しようと思っています」
(以上が近藤正晃ジェームスさんの講演の一部でした)


上のご発言のうち、テレビ・ラジオに対するご指摘は、NHKとしては少し意見も申し述べたいところですが、いずれにせよ災害時には、各メディアがさまざまな状況下で役割を担うと思います。NHK生活情報部も、ツイッターによる情報発信に力を入れています。

一方、さまざまな分野の動画やネット中継などの映像に、ユーザーが自由にコメントを載せることができるサイト「ニコニコ動画」を手がける「ニワンゴ」の親会社、「ドワンゴ」会長の川上量生さん(下の画像)は、現代のネット社会では、機械的な計算で人間の感性や好みが割り出されているが、自分の会社は、計算では計れない、人間的、非常識的なことを追求したいと語りました。

t5.jpg「今、ほとんどの人は、ホームページを人間が見たらどう思うか、ではなくて、(検索サイトの)グーグルのボット(ロボット的な自動プログラム)が見たらどうなるか、 ということを考えて作るんですね。それで、機械に支配されつつあるネットの中で、逆に機械の影響を一切考えない、逆方向の視点がわれわれの着眼点でした。 社内の用語ですが、『グーグル機械帝国に対抗するのがわれわれのサイトであると。機械ではなくて、人間を中心にするのです」

「それと、世の中もそうですが、『理屈に合わないことはしない』、そういう決めつけがネットでは多いんですね。そこで、説明のつかないものを作る、そこに非常にチャンスがあると思いました。例えば、ニコニコ動画には時報サービスというのがあるのですが、これは、毎晩0時になったら、どんな動画を見ていても動画の再生を停止して、『0時をお知らせします』ということを流す、どうでもいいサービスをしているんです。これはすごく評判の悪いサービスで、ユーザーから『これだけはやめてくれ』って言われ続けているんですが、われわれは絶対やめるつもりはありません。これは何でやっているのかという説明がつかないんですね。説明がつかないものを作ろうというのが最初のコンセプトだったので、理由がないというのが、理由だったんです」

「また、ニコファーレというライブハウス(筆者注:以前、このブログでもお伝えした施設です)を六本木に作りまして、これもユーザーから『自分たちの払ったお金をむだに使うな』と散々言われたのですが、むだづかいをするのが目的なんです。小さな200人しか入らないライブハウスに、
金額は公開していないのですが、実は12億円かかりました。どんなにシミュレーションをしても、『絶対ペイしない(=採算に合わない)』という計算結果が出たので、『これは行こう』と。あそこに来た人は『こんなところは見たことがない』と驚きますが、当たり前です。全く経済合理性がありませんので・・・。技術が進めば、5年後にはどこかに出来ているかもしれませんが、その5年間は、いわばむだを独占できるのです」
(以上が川上量生さんの講演の一部でした)

確かに、今のネットビジネスでは、SEOと呼ばれる「検索サイトのボットなどに引っかかるための最適化」の試みが欠かせません。NHKの報道系サイトも決してSEOを無視できませんので、対応を話し合ったりしていますが、川上さんの発言で、改めて、ネットを通じたコミュニケーションはどういう方向を目指すべきなのか、新鮮な視点を頂いたような気がします。

ところで、この催しでは、現在のネット産業の状況は「カンブリア爆発である」という指摘が、アメリカのメディア編集者と投資家の2人によって、相次いで出されました。カンブリア爆発という用語は、本来は生物の進化に関するもので、学問的な見方はいろいろあるようですが、ここで使われていたのは、「それまでの産業界を一変させ、新たな産業が次々に起きる」という趣旨でした。

実際に、いわゆるリーマンショックの2008年当時は、シリコンバレーでも起業家への投資が大きく冷え込むのではないかという観測が強かったそうですが、それ以降、新たなネット企業が次々に大きく成長しているという実態例が紹介されました。製品化まで至らなくても一定の資金が得られる場合も増え、起業する際のハードルは低くなっているそうです。
このカンブリア爆発、私自身が急所を突かれた思いをしたのは、「カンブリア爆発では数多くの新たな種が生み出された一方で、淘汰された種もありました。あなたはどちらでしょうか」という問いかけでした。

カンブリア爆発で次々に現れているのは、多くはアメリカ系の企業です。それでも、若い日本人起業家も含め、日本のIT系企業が海外への展開を模索している状況も報告されました。
出席者からは『フェイスブックにしろツイッターにしろ、国によって大きくサービスが異なることはなく、どこかで成功すれば、 その体験は世界市場共通のものになるのでは』という声や、『日本は、特にネットユーザーの感覚が鋭く、商品を育てる意味では非常に大きな力を持っている』 といった意見のほか、シリコンバレーで成功する企業の条件として、技術力のほかに、いいチームワークが必要だといった指摘が出ていました。

t2.jpg私の所属するNHK生活情報部は、幅広い年齢層を対象にしたニュースを発掘すべく、日夜、記者がいろいろな現場で奮闘していますが、個人としての私は、かなり前から「時代に取り残される恐怖感」をいつも感じています。ご紹介したテッククランチさんの催しもそうですし、以前お伝えした慶応大学大学院のプレゼンもそうですが、若い世代が発信する新しい情報と、メディアの将来像を左右する最先端の情報テクノロジーの動きに、いつも新鮮な刺激を受けています。こうした刺激が日々の楽しみでもあります。
私達NHKがネットとどのように関わるかという議論は、非常に難しい問題もありますが、「カンブリア爆発」の展開からは、当面、というよりも、相当な長い期間にわたって、目を離すことができないと思います。

投稿者:菅原史剛 | 投稿時間:06時00分

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