2011年11月25日 (金)スマホの源流をたどる 栄光と挫折の物語


今、大流行とも言えるスマートフォン=スマホ。 このスマホ、 大まかに言って、日本国内ではアップルの端末「アイフォーン」( "iPhone" ) と、グーグルの基本ソフト「アンドロイド」( "Android" ) を搭載した端末の、大きく2つのグループに分けられます。
その2つの源流を20年ほど前までさかのぼって考えてみると、日米欧の主要企業がこぞって資本参加したアメリカ・シリコンバレーの小さな会社に行き着きます。

今では、手のひらサイズの機器(または、腕時計サイズ?)で瞬時に情報をやり取りできる情報化社会を迎えていますが、その陰には、栄光と挫折の数奇な運命をたどったアメリカのベンチャー企業がありました。

(下の画像は、腕時計型のスマホのコントローラーで「生活情報ツイッター」を受信したところです。本文とは直接の関係はありません)

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今から20年近く前、私は電機業界の取材をしていました。その中で「今、シリコンバレーで話題になっている会社があるよ」と聞いたのが、「ジェネラルマジック」(General Magic) という会社との出会いです。
ジェネラルマジックは、1990年5月、当時の「アップルコンピュータ」から分離して発足、中心メンバーは、アップルのパソコン「マッキントッシュ」の基本ソフトなどの開発に当たったビル・アトキンソン、アンディ・ハーツフェルドの2人で、日本の電機・パソコン業界でも「この2人が関わっているから、すごい会社になる」と言われていました。

1132H.jpg93年2月に発表された報道資料は、この会社の意気込みが強く打ち出されていました。
当時、世界の電機・パソコン・通信業界を代表していた、アップル、AT&T、松下電器産業(現在は「パナソニック」)、モトローラ、フィリップス、ソニーという巨大企業6社と資本提携して、個人向けの情報通信端末の開発を行うことが、誇らしげに紹介されています。

1132K.jpg6社の側が発表した資料でも、
「21世紀に向けて、個人の通信端末は情報産業の中核になる」(松下)
「(ジェネラルマジック社の基本技術に基づいた製品は)今日のウークマンのように、誰にとっても身近なものになる」(ソニー)

という文章にあふれ、新しいベンチャー企業の行く末に未来の情報化社会の到来を思い描いているようでした。

(でも、どこにも「インターネット」ということばは出てきません。商用のインターネットの普及は、まだ先のことでした。もちろん、今のような携帯電話もありませんでした)

1132F.jpgこの会社について、私は個人的にも注目するようになりました。当時、パソコンにはさほど関心はなかったのですが、文房具のような小さな物が好きで、早速、この会社の技術を基に開発されたソニーの製品をアメリカから個人輸入してみました。(日本では売られていませんでした)
値段は覚えていませんが、今回、押し入れの底に眠るその製品「マジックリンク」( Magic Link ) を取り出して、現代の代表的な音楽プレーヤー「 iPod 」と並べてみました。(上の画像)

かなりの大きさに見えますが、機能面で比較できる商品がほとんどない90年代初頭では、大きすぎるという記憶はなく、未来的なイメージたっぷりの魅力的な製品でした。操作するためのボタンはほとんどなく、画面をタップしますが、その方法は現在流行のスマホ、またはタブレット端末に通じるものがあります。
電話機の機能があることも同じです。
マイク付きのイヤホンで私も電話を何回かしてみましたが、良好に会話できます。ただ、無線機能はなく(テレビのリモコンのような赤外線ビームしかありません)、電話線をモジュラージャックで挿す必要があるので、今のスマホのように片手で持ち上げて歩いて使うものではありません。
そして、上の画像のように机の上をイメージした画面には、電話帳を兼ねた住所録やスケジュール帳があります。そこをスマホのアプリのようにタップすると、電話回線を通じたパソコン通信の形で電子メールも送れるようになっていました。さらに、家の外に出て街中を模した画面(下の画像)では、商店が並び、買い物もできるように工夫されていました。

1132G.jpgコンセプトとしては、現代のスマホを先取りしているような部分が十分にあったと思います。画面上に自分で新たな機能を付加する操作ボタンを作って貼るという遊び心に訴える要素もありました。

当時から電子手帳的な商品は世の中にありましたが、この技術と関連製品は「通信」の魅力を全面に打ち出し、製品群の総称も「 PIC =パーソナル・インテリジェント・コミュニケーター」(個人情報通信端末)と呼ばれました。

1132C.jpgこの技術を分かりやすく解説した本も出版されました。
(上下の画像は、“Presenting Magic Cap” ©1994 Barbara Knaster)
この本の中では、「ジェネラルマジック」の技術について、
すべての発想は通信にあります。電子手帳もいいのですが、紙の手帳に比べて特別に機能が優れているものではありません。技術のすべての部分は、ユーザーが手軽に通信をするためのものです」と書かれていました。
私が持っている本は、日本の書店の店頭で見つけたもので、国内でも相当注目されていたことの証しだと思います。

132D.jpg実際に日本国内でも、95年頃、NTT が中心となって試験的なサービスを行いました。
ソニーと松下の端末を一般の人(モニター)に貸し出して、NTTが行う通信サービスでメールや仮想商店街などの使い勝手などを試してもらおうというもので、私も参加しました。でも、結局は試験だけで、実用化は見送られました。アメリカでも、通信サービスが普及せず、いつの間にか忘れられた存在になりました。

その後、インターネットの普及、無線技術や演算・記憶装置などの急速な進化で、多機能の携帯電話が一般的になり、各社から小さな通信端末も登場しましたが、情報端末の本格的な機能が通信サービスとともに広く利用されるようになったのは、今のスマホが登場してからのことだと思います。

実は、スマホと、この会社「ジェネラルマジック」の縁はそれだけではありません。

「グーグル」でスマホの基本ソフト「アンドロイド」の開発指揮を行っているのは、アンディ・ルービンという人物で、この人はかつて「アップル」や「ジェネラルマジック」に在籍、実際にソフトの開発に当たっていました。その後、アンドロイド社を共同創業し、会社自体がグーグルに買収されたため、今ではスマホ開発の第一線にいます。
アンドロイドには、ジェネラルマジックの要素技術が使われていると言われています。
一方、「アイフォーン」のアップルですが、もともとジェネラルマジックの親会社だったこと、また、ジェネラルマジックのあとでアイフォーンの開発に転じた人もあるとされ、今の2大スマホ規格の源流は、この90年代初頭の会社にさかのぼることができると思います。

ジェネラルマジックは2002年に事業を停止して、解散。今は存在していません。


会長で共同創業者だったビル・アトキンソンは、その後、画像制作に関心を移し、自然写真家へと転身しました。
鉱物や岩石の中に潜む微細な色をとらえた彼の美しい写真集(下の画像)は、ソフト開発だけにとどまらない彼の才能の豊かさとともに、この20年の時代の変遷を思い起こさせてくれます。
(下の画像は、“Within the Stone” ©2004 Bill Atkinson)

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投稿者:菅原史剛 | 投稿時間:06時00分

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