2018年06月12日 (火)"座るほうがつらいんです" 座席譲るとき 断るとき あなたは?


※2018年6月5日にNHK News Up に掲載されました。

「座りますか?」「いえ、結構です」ーーー電車やバスの中で高齢の方に座席を譲ろうと声をかけ、断られた経験はありませんか。親切のつもりだったのに冷たい反応でさみしい思いをしたり、「遠慮かな?」「転んだら危ないし…」と、もやもやした気分になったり。でも実は、座りたくても座れない事情もあるようです。

ネットワーク報道部記者 大窪奈緒子・管野彰彦

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<「立ち上がるのが難しいんじゃ」>
先日、SNSに投稿されたある書き込みが話題になっています。

「私の祖父が電車で席譲られるのを断るんだけど、別に強がってるわけじゃないんや…一度座ると立ち上がるのが難しい老人もいるのじゃ」
2日間で2万7000以上リツイートされ、さまざまな反応が寄せられました。

「わかります。老人は立ったり座ったりが容易ではないですよね」

「私もつえついている障害者だから譲ってもらえるとうれしいけど、一駅だったら座って立ってとかするより入口近くに居ときたいというときがあります」
海外でも同じだという意見もありました。

「マルセイユのバスなんか運転乱暴で危ないんですが、お年寄りは声かけると、やはり一度座ると立つのが大変という理由で半分くらいは断られます」

元のメッセージを投稿した神奈川県の女性(26)に話を聞くことができました。

これは、祖父母と一緒に電車に乗ったときの出来事を書いたそうです。車内にいたある女性が席を譲ろうとしてくれましたが、80代の祖父は断りました。足腰が悪いわけではないのですが、「座ってしまうと立ち上がるのが難しく、座席からドアに移動するのもかえって危険だから」というのが理由でした。

それでも女性は、しばらくしてもう一度声をかけてくれて、祖父は席を譲ってもらいました。最初に断ったことで女性が不快な思いをしているのではないかと思い、書き込んだといいます。投稿には、こんなことばが添えられていました。

「寝たふりする人が多い中、声かけてくれてありがとうなのじゃ…この感謝の気持ち…お姉さんや、全国の席譲ったのに断られて傷心している人に届け…」

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<症状に悩む高齢者多く>
こうした「座るほうがつらいお年寄り」は、決して少なくないそうです。高齢者の運動機能に詳しい、国立長寿医療研究センター病院・ロコモフレイルセンターの松井康素センター長(整形外科)は、ひざや股関節、それに腰椎の変形が進んだ場合、立ち上がる動作そのものに痛みが伴うといいます。

痛みがなくても、加齢による筋力低下で、立ち上がったり、車内を移動したりするのがつらいというお年寄りもいるそうです。座った姿勢から立つときに重要な役割を果たす太ももは筋力低下が早く進むため、80代の男性では2割から3割ほどの人に、立ち上がるのがつらい症状があるのではないかと指摘しています。ある程度高さがあるいすなら便利なのですが、電車やバスの座席は低く、立ち続けるほうが楽だということです。


<人によって、日によって、それぞれ>
では、お年寄りは座りたいのでしょうか、それとも、立っていたいのでしょうか。専門家は、体を支える力が十分でないため、基本的に座りたいと考えているとしたうえで、座らない理由もさまざまあると指摘します。

運動器の障害で介護が必要になるなどの「ロコモティブシンドローム」(運動器症候群)に詳しい日本股関節研究振興財団理事長の別府諸兄医師(整形外科)は、骨や関節、筋肉、神経の状態は人それぞれで異なり、日によっても違うので、体への向き合い方、考え方もおのずと違ってくると説明します。

「いったん座ったら立ち上がりにくいので、腰かけたくないという人もいるでしょう。健康を保つため、乗り物ではできるだけ座らず、つり革などをしっかり持って筋力とバランス力のトレーニングに挑戦するよう、医師から勧められている場合もあります。また、自分は若いと思っていて、席を譲ろうと声をかけられると不愉快に思う人もいるでしょう。座らない理由はいくつもあります」

suw180605.3.jpg日本股関節研究振興財団理事長 別府諸兄医師
ただ、こうしたケースはあるものの、高齢者は一般的に関節や骨、筋肉が衰え、体を支える力が十分でないため、立っている高齢者を見かけたら席を譲るよう声をかけてほしいと呼びかけています。

「大きな荷物を持っていたらなおさらでしょう。理由や理屈を考えていたら何もできません。まずは、『お座りになりますか?』とさりげなく声をかけてみたらどうでしょう。断られたらそれなりの理由があると、サラリと受け流せばいいと思います」


<断る際はひと言添えて>

suw180605.4.jpgさて、さきほどの投稿をきっかけに、「断り方」についても議論になりました。

「『座ると立ち上がる時に痛みが出るのでね。お気持ちだけいただきますよ』とちゃんと言えよ爺様」という厳しい意見がある一方、「『座ったら立ち上がれない自分』を告白するのが恥ずかしい人もいるだろうし 認知機能落ちてそこまで言う能力ない人もいるだろうし そもそも立ってるのもしんどいから極力しゃべりたくない人もいるだろうに」と、擁護する声もありました。

女性の祖父の場合は、耳が少し遠く、座らない事情を伝えるのが難しいということで、会釈をしながらお礼だけを伝えたということです。

会社や自治体で働く人を対象に対人関係についての研修を行う櫻井弘さんは、「コミュニケーションを円滑にするには、理由をはっきり告げることが必要だ」と指摘しています。

suw180605.5.jpg櫻井弘さん
櫻井さんによりますと、「断る」という行為は、コミュニケーションの中でも最も難しい部類に入るそうです。日本では古くから「察し型」の文化が根付いていて、多くを語らなくとも相手が分かってくれるはずだと考える人が多いと。この一方で、断られた人は自分の好意がむげにされたと感じ、相手のことを悪く思ったり、「もう次からはやめよう」と考えたりするというのです。だからこそ、断る側は「いったん座ると今度は立つのが大変なので」などとひと言付け加えるのが重要だそうです。また、席を譲ろうとする側も、ただ「どうぞ」というだけでなく、「大変そうですね」などと付け加えると、相手も反応しやすくなるということです。


<気持ちよく過ごすために>
席を譲ると声をかけられ、「年寄り扱いされて悲しい思いをした」という人がいます。一方で、勇気を出して声をかけたのに、断られて傷ついたという人もいます。親切心からの行為で誰かがいやな思いをするのはとても残念ですね。それぞれの事情を抱えた多くの人が乗り合わせる車内。相手の意図を「忖度」(そんたく)して誤解するよりも、ひと言付け加えて互いを理解する…。そんな、少しだけ丁寧なコミュニケーションがあれば、もっと気持ちよく過ごせるのかもしれません。

投稿者:大窪奈緒子 | 投稿時間:14時42分

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