2013年02月04日 (月)在宅介護の新サービス 苦戦のワケは


去年4月に介護保険が改正され、「定期巡回・随時対応サービス」という新しい在宅サービスが導入されましたが、提供する介護事業者がなかなか増えません。背景には、介護事業者の間で、実態とは異なるメージが広がり、参入をためらわせていることが分かりました。 

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【定期巡回・随時対応サービスとは】
これまでの訪問介護サービスでは、1日に1回か2回、ヘルパーに来てもらい、1時間前後、食事やトイレ、それに服薬などを手助けしてもらうのが一般的でした。これ以外の時間帯は、家族が介護することを前提としていたんです。
これに対し、新しく始まったのが「定期巡回・随時対応サービス」で、1回の時間は数十分と短くなりますが、1日に何回も来てもらえたり、夜間に駆けつけてもらえたりします。このため「24時間対応サービス」とも呼ばれています。

20130130_junkai1.jpg【ある女性の場合は】
このサービスを利用している横浜市の81歳の横川静子さん(仮名)です。重いリウマチで、1人では起き上がることもできず、要介護度は最も重い5。同居している長女が働いているため、日中は家に1人です。

20130130_junkai2.gifヘルパーが訪れるのは、朝、昼、夕方、就寝前の1日4回です。横川さんは食事やトイレ、服薬など生活全般にわたって介助が必要ですが、3、4時間おきにヘルパーが来る、このサービスのおかげで、自宅で暮らすことができると言います。

20130130_junkai3.jpg枕元には、ボタンを押すと24時間いつでも介護事業所とつながる通話装置があり、困ったことがあれば、ヘルパーを急きょ呼ぶこともできます。横川さんは「おかげで、施設に入らず、家に居られて本当に幸せです」と話していました。

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今後、高齢者の急増で介護施設はますます不足します。このサービスを普及させて、家族による介護が難しい人や1人暮らしの人でも自宅で暮らし続けられるようにするのが国のねらいです。しかし、このサービスを提供する事業所があるのは、全国の1742市区町村のうち、わずか75にとどまっています。(去年11月末時点、厚労省調べ)

【広がらない背景】
なぜサービスが広がらないのか。先月(1月)下旬、介護事業者を集めて都内で開かれたシンポジウムで、民間の調査会社が行ったアンケートの結果が示されました。

20130130_junkai6.jpg全国でまだサービスを手がけていない事業者に聞いたところ、6割以上が「夜間や臨時の対応がサービスの中心になる」と考えていました。夜間などの訪問が多くて、負担が大きそうだというイメージが参入を妨げる要因となっていることがうかがえました。

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実際、参加者からも「夜間対応できる人員をある程度確保しておかなければならないのは、正直きつい」といった声が聞かれました。
20130130_junkai8.jpg【サービスの中心は「日中」】
では、実際はどうなのでしょうか。先ほどの横川さんの場合、深夜の定期的な訪問は頼んでいませんし、臨時に来てもらうことも多くないと言います。就寝前の夜8時半にヘルパーが来た時にトイレを済ませておけば、夜中に目が覚めることはほとんどないからです。

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横川さんが利用する大手の介護事業者「ジャパンケアサービス」では、新しいサービスを受ける人がおよそ260人いますが、夜間帯(=午後10時~午前7時)の定期的な訪問回数は、1人当たり1日平均で0.3回。つまり、多くの人は横川さんのように、日中の対応が中心です。臨時の訪問も1人当たり1か月間に、わずか1回ほどです。

20130130_junkai11.jpg20130130_junkai13.jpg全国アンケートでも、参入した業者のほとんどが「夜間や臨時の対応が中心ではない」と答えていました。
ジャパンケアサービスの奈蔵正博部長は「昼間にこまめに訪問して生活リズムを整えてあげれば、夜間は熟睡してサービスの必要性が小さくなる。室内の転倒や急なトイレ介助で呼ばれることもがあるが、何となく不安で電話してくる人が多く、オペレーターの声を聞いたら安心して訪問に至らない場合が多い。あくまでも日中が中心のサービスだ」と話しています。

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【国は必要性を強調】
イメージとは異なるサービスの実態。国はすでに参入した業者の取り組みを紹介するなどして実情を知ってもらい、手がける業者を増やしたい考えです。厚生労働省の稲葉好晴課長補佐は「今後、大都市圏を中心に高齢者が急増し、病院や介護施設が足りなくなる。在宅支援をますます強化していく必要があり、我々としても事業者や自治体をサポートしながら、普及に向けて取り組んでいきたい」と話しています。

20130130_junkai15.jpg【取材後記】
ただ、実態を知ってなお、「簡単には手を出せない」という声も聞かれます。夜間の訪問が少ないとは言え、24時間対応できるだけの最低限のスタッフは雇わなければならないからです。これまで訪問介護は基本的に昼間のサービスで、雇用するヘルパーの多くはパートの主婦です。夜間も働いてくれる人を探すのは簡単ではありません。
また、定期巡回・随時対応サービスでは、1人の利用者に何回訪問しても、介護保険から事業所に支払われる1か月間の報酬は同じという「定額報酬」という仕組みが導入されました。1回の訪問ごとに、滞在時間に応じて報酬が決まる従来のやり方と全く違うことから、新しい収入体系だと「採算の見通しが立てづらい」「赤字になってしまうのではないか」という不安が根強くあるようです。これらのハードルをどう乗り越えていくかも、サービスの普及には欠かせません。

20130130_junkai9.jpg1人でも住み慣れた自宅や地域で暮らし続けられる社会に向けて、定期巡回・随時対応サービスの必要性は高まっています。引き続き、今後の行方を取材して行きたいと思います。

 

投稿者:本木孝明 | 投稿時間:06時00分

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