2012年08月29日 (水)「バリア」ありで、生活改善


“バリアアリー”という言葉、ご存じですか?建物の中に、あえて段差などのバリアを設けることです。介護施設などでは、「バリアフリー」が一般的ですが、千葉県浦安市のデイサービス施設では、このバリアアリーが、お年寄りの日常生活の改善につながっています。

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千葉県浦安市にあるデイサービス施設「夢のみずうみ村」には、毎日70人ほどのお年寄りが通っています。その多くが、脳梗塞の後遺症などで歩くことが難しい人たちです。しかし、施設の中央には、意外なものがありました。この階段、29段もあります。

20120829_3.jpg しかも手すりの代わりに、不安定なロープが張られています。お年寄りはロープを頼りに階段をのぼります。いったいなぜなのか。施設の代表で、作業療法士の藤原茂さんに聞きました。

20120829_4.jpg ロープにした理由について「手すりに依存しなくてはいけなくなると、手すりがついていないと行動できなくなる。 ロープだけで歩けるようになったら、どこでもちょっと何かに触れたら移動できるようになります」と話します。

20120829_5.jpgよく見ると、施設の中には、段差や坂が至る所にあります。バリアを作ることで、自然に足腰を鍛えるのが狙いです。一見大変そうですが、お年寄りを惹きつける工夫もあります。階段や坂道を乗り越えた先は、マッサージ機がずらりと並ぶ「楽園」。利用していたお年寄りは、「気持ちが良い。ここまでこないとこのマッサージ器を使えないから、階段を上ってくる」と話していました。
 
20120829_7.jpg「できることは自分でやる」。それがこの施設の方針です。例えば、食事の時、利用者は自分でご飯やおかずを盛りつけ、運ばなければなりません。車いすの人もスタッフの手を借りながら、自分で盛りつけます。手助けを最小限にすることが、お年寄りの力を引き出すことにつながるからです。歩くのが不自由な女性に聞くと、「ここでは、自分でやらないと誰も助けてはくれないが、自分でやるという気持ちが起こる」と話していました。代表の藤原さんは、「必要なところに必要な手を出す。そうじゃないところはご自分でやっていただく。 人間は基本的に自分で自立する、自分でできることは幸せなんです」と話します。  

20120829_8.jpg実際に効果も出ています。その1人宮村武夫さんです。宮村さんは3年前、脳梗塞で倒れ、左半身に麻痺が残りました。ここに通い始めて5か月、急な階段も楽にのぼれるようになりました。 

20120829_10.jpg日常生活にも良い影響が出ています。宮村さんは、この施設に通うまで、思うように動けない生活に、もどかしさを募らせていました。しかし、今では、気持ちが前向きになり、皿洗いなど家事もできるようになりました。宮村さんは「意欲をもっていたが、それが封印されていた。それを実行できる場所を与えられると、新たな今まで持っていない意欲が出てくる。いろんな可能性が広がった」と言います。

20120829_11.jpgこうした施設、全国的にはまだ数えるほどしかありませんが、夢のみずうみ村には今、全国の自治体や介護施設から視察が相次いでいます。高齢者などのリハビリに詳しい、長谷川幹医師は、社会をバリアフリー化していくことが大切だとしながらも、お年寄りの生活能力を改善するためには、バリアありの発想が重要だと指摘しています。バリアフリーにしたり、何でも面倒を見てあげたりすることが一見よさそうに思いますが、今回の取材を通して、残された能力を生かして、本人の意欲を引き出す介護こそが重要なのだと感じました。国もこの取り組みを評価していますので、今後広がっていくことを期待したいと思います。 

 

 

投稿者:松岡康子 | 投稿時間:06時00分

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