2020年03月26日 (木)おなかを打ったら気をつけて!
※2019年12月20日にNHK News Up に掲載されました。
子どもが転んだり、何かにぶつかったりして、おなかを打ったら。
「よくあること」で済ませると、取り返しのつかない事態になるかもしれないことを知っていますか?
「腹部打撲」は見た目ではわからなくても、大切な臓器が損傷している場合もあります。
幼い子どもだと、いつもと違う痛みがあることをうまく伝えられないこともあります。
私たちは、その小さな異変にどうやって気が付けばいいのでしょうか?
ネットワーク報道部記者 川田陽介・目見田健・ 宮脇麻樹・ 野田綾
きっかけのツイートは
「きょうはあの事故が起きた日」
最近投稿された、こんなツイートに関心が集まっています。
それは3年前、神奈川県で起きた事故でした。サッカーのゴール
自治体がまとめた報告書によると、公立の保育園に通っていた男の子(当時6歳)が、帰りの会が終わった後、園の庭で追いかけっこをしている最中に、サッカーのゴールの網に足をとられて転びました。
見守りをしていた保育士2人が駆け寄ったところ、男の子は「だいじょうぶ」と答えました。
意識もはっきりしていて、受け答えも普通にできました。
外傷もありませんでしたが、その後、男の子は「ねむい」とか「のどが痛い」などと訴えていました。
保育園側は、看護師の資格を持つ別の園児の保護者に様子を確かめてもらったうえで「危険な状態ではない」と保護者に伝えました。
しかし帰宅後、容体が急変し、翌日、「腹部打撲」が原因の臓器損傷の出血性ショックで亡くなりました。
冒頭のツイートは、事故が起きた日に合わせて投稿されたものでした。
子どもがおなかを打った後、しばらくたってから急に容体が変わり、気が付いた時には手遅れになってしまう。
見た目ではわかりづらい「腹部打撲」の危険性に、SNS上では驚きの声や「判断の基準を知りたい」などという声が寄せられています。元気そうに見えても
「腹部打撲」の疑いがある場合、どんなことに注意すればいいのでしょうか。
大阪府松原市にある阪南中央病院の理事長で、小児科医の中田成慶さんに聞きました。阪南中央病院 理事長 中田成慶さん(小児科医)
「腹部打撲」は、はじめは軽症でも、次第に症状が悪化する可能性があり注意が必要です。
中田さんが数年前に担当したケースでも、はじめはとても元気そうだったのに、帰宅させていたら命の危険があったかもしれない事例があったそうです。女の子が転倒した学校のスロープ
このケースでは、8歳の女の子が学校の校庭で鬼ごっこをしていた時、車いす用のスロープを横切ろうとしたところ、縁につまづいて転倒しました。
このとき、スロープの縁の部分におなかを打ちつけてしまい、一瞬、息が止まるほどの衝撃があったということです。
その後、女の子は1度だけおう吐しましたが、1時間後に父親と一緒に中田さんのいる病院を訪れた時はとても元気そうでした。
女の子は自分で歩いて診察室に入り、腹痛を訴えることもなく、表情も特に変わった印象はなかったそうです。打撲した女の子の腹部
中田さんが腹部を確認すると、打撲によって幅1センチ、長さ10センチほど赤くなっている部分がありましたが、ほかに異常は見られず、腹部の超音波検査と、腎臓に異常がないかを確かめるための検尿をして、帰宅してもらうつもりでした。
ところが、超音波検査の結果、血腫と肝組織の損傷が確認できました。
そこで、より高度な治療を受けられる別の病院の小児外科に相談したところ、「血がたまって、肝臓の皮膜が破れると大出血を起こすおそれがあり、元気そうに見えてもすぐに搬送すべきだ」と言われたため、すぐに搬送したということです。
女の子はその病院で治療を受け、無事回復しました。
中田さんが後日、この学校を見に行ったところ、同じように子どもが転ぶ事故が起きないように、スロープに手すりがついていたということです。
「腹部打撲」に気をつけなければいけない理由は、臓器が損傷すると、次第に内部に血がたまり、時間がたってから大きな出血を起こすおそれがあるからです。
中田さんが注意してほしいと話しているのは、次のような点です。
▽おなかを打った直後に苦しんでいる場合
▽おなかのあたりに、強く押されたような傷がある場合
中田さん
「『腹部打撲』によって、内部の臓器が圧迫されるような形で力がかかると、臓器を損傷してしまう危険性があります。本人が元気そうにしていても医療機関を受診してほしい」
絵で伝える “不調”
幼い子どもは具合が悪くなっても、上手に大人に伝えられないことがよくあります。
子育て中の親や子どもをサポートする取り組みをしている、さいたま市にあるNPO「ぷるすあるは」は、具合の悪さを絵と文字でわかりやすく表現した「体調ポスター」を作りました。NPO「ぷるすあるは」作製
ポスターには、
「頭痛」
「目がかゆい」
「はき気」
「お腹(なか)がいたい」など体の不調を伝えることばや、
「食べられない」
「眠れない」
「さむ気」
「しびれ」など、いつもと違う体の変化を表したことばなど40種類が描かれています。
子どもたちは絵を見ながら、具合の悪さを表すことばを学んだり、自分は今、どんな状況なのか絵を指さして、周りの大人に伝えたりすることができます。この中には「いつもとちがう」「いたいところがある」のように、あいまいな表現をあえて使ったものもあります。
子どもが具体的な症状を伝えられない場合でも、異変に気が付くことができるようにするためです。
ポスターのほかにも、体調を表すカードなども用意しているということで、こうした情報は団体が運営している「子ども情報ステーション」というサイトで紹介されています。
子ども情報ステーション
(NPO法人「ぷるすあるは」運営)
https://kidsinfost.net/?portfolio=condition_poster
(※NHKのサイトを離れます。URLをコピーしてください)
「ぷるすあるは」のメンバーで医師の北野陽子さんは
「このようなツールを使って子どもと会話しながら、具体的にどのように調子が悪いのか見つけてあげるといいと思います」と話しています。子どもの調子が悪そうでも、つい「きっと大丈夫」と思ってしまいがちですが、もしかしたら想像もしないような異変が起きているかもしれません。
私たちも「腹部打撲」の危険性を知ることで、子どもの体調の変化を今まで以上に注意深く観察しなければ、と考えさせられました。
投稿者:目見田健 | 投稿時間:10時36分