2020年10月16日 (金)「高校生以下お断り」新型ウイルス リスクを減らす手立ては?
※2020年3月5日にNHK News Up に掲載されました。
新型コロナウイルスへの対策として子どもの利用を制限する施設が相次ぎ、戸惑いの声もネット上で広がっています。臨時休校で子どもたちの生活も変化を余儀なくされる中、何が起きているのか、取材しました。
ネットワーク報道部記者 正亀賢司・井手上洋子・國仲真一郎
相次ぐ「どうして?」
さまざまな施設の利用制限、文部科学省や新型コロナウイルスの専門家会議の対応が発端でした。
多くの学校で臨時休校となったため、文部科学省は児童や生徒に対し、基本的に自宅で過ごし、不要不急の外出をしないよう求めています。
そして専門家会議は、感染しても症状の軽い10代などの若い世代が気付かぬうちに重症化するリスクの高い人に感染を広めてしまう可能性があるとして、人が集まる風通しの悪い場所に行くのを避けるよう呼びかけています。
こうした動きに伴って子どもの利用を制限する施設が各地で相次ぎ、ネット上には数多くの意見が寄せられています。
「過剰反応しすぎじゃないのかな」「禁止にするなら年齢関係なくすべき」など批判的な意見や、「なんで大人はいいのに高校生以下はだめなの?」といった疑問や戸惑いの声が出ています。
一方で、「感染を防ぐために休校にして不用意な外出はしないようにするんじゃないの?」など、臨時休校中の子どもたちはできるだけ外出を控えるべきだという声も見られます。
“子どものことを第1に”
長崎県美術館では3月2日から24日まで、高校生以下の入館を控えてもらうようにしました。
県教育委員会が県立の図書館や体育館などを対象に高校生以下の利用を停止したことにならって、美術館も同様の対応をとることにしたそうです。
美術館の担当者は「臨時休校で人が集まる場所を避けて自宅で過ごすよう呼びかけられる中、やむをえずこうした対応をとりました。子どもの健康を第1にした方策だと考えています」とする一方、「何が正しいのか見えないということもあるのですが…」とも話していました。
長崎県教育委員会にも話を聞いてみました。
ーーーどうして「高校生以下」なんでしょうか?
「文部科学省からの要請にもとづく学校の臨時休校に伴って、児童生徒が集まって活動することがないよう、利用を停止しました。子どもたちの安全を第1に考えるという観点です」
ーーー子どもだけでなく、すべての人を対象に利用を停止する考えはありますか?
「現時点ではありません。国からの要請もそこまでは至っていないですし、一律ですべての県民を対象にした休館は理解を得られないと考えています。高校生以下の利用を停止していることについては、理解してもらえるよう話をしていかないといけないと思っています」
年齢による制限はしない図書館も
図書館でも子どもの利用を制限する動きが各地で出る一方、ふだんとほぼ変わらず受け入れを続けるところもあります。
1日に1000人ほどが訪れるという東京 渋谷区の区立中央図書館もその1つです。
本の読み聞かせや映画の上映会など人が多く集まるイベントは中止し、館内に消毒液を置いたり、部屋の窓を開けて換気をしたりしていますが、今のところ子どもを含めて、本の貸し出しや閲覧はふだんと変わらずに行っています。
勝部弘樹館長は、今後の状況によっては閲覧室の休止など追加の対策をとる可能性はあるとしたうえで、次のように続けました。
「子どもも高齢者もどなたでも利用できるのが図書館です。サービスを縮小せざるをえない場合でも、年齢で区切るのではなく、どなたに対しても一律に縮小するのが筋だと考えています」
陸上競技場や体育館、水族館でも
子どもの利用を制限する動きは美術館や図書館にとどまりません。
沖縄県宮古島市の陸上競技場やトレーニング室、体育館などがある平良体育施設は、市内の学校が臨時休校になったことに合わせて、3月3日から15日にかけて小中高校生の利用を断っています。
施設を管理する協会によりますと、陸上競技場はふだん部活動などで使われることが多く、初日の3日も小学生や高校生が来ましたが、利用できないことを知ってそのまま帰ったそうです。
宮古島市内にはほかに市営の体育館が2つありますが、これらも同様に小中高校生は利用できなくなっているということです。
また、鳥取市の鳥取市教育センター体育館は、3月2日から24日にかけて平日昼間は保護者の同伴があっても小中学生の利用を断るとしています。
理由について教育センターでは「新型コロナウイルスで不要不急の外出はしないよう国が求めているのを踏まえ、教育委員会と相談して決めた」と説明しています。
さらに、新潟県上越市の市立水族博物館「うみがたり」は、3月4日から24日まで「すべての小学生・中学生・高校生はご入館いただけません」としています。
3月は春休みで例年は入館者が多いということですが、2月の最終週も人は少なく、施設の担当者は「経営的には大変厳しくなるが、やむをえない」と話しています。
換気が重要・人数を絞り込む
感染症に詳しい愛知医科大学の森島恒雄客員教授は「WHO=世界保健機関は小中高校生の感染する確率は低いとしており、子どもの施設の入場や利用を制限することは行き過ぎた感じがする」と話しています。
愛知医科大学 森島恒雄客員教授
そのうえで施設側の対策の重要性を指摘しています。
森島客員教授
「大切なことは窓を開けるなどして換気を行い『密閉空間』にしないこと。大人数を受け入れてしまえば、学校を休校とした意味がなくなるので、人数をある程度絞り込むことが必要」
帰宅したら手洗い・うがいの徹底を
東京 港区のみなと保健所で所長として新型インフルエンザの対応にあたり、公衆衛生学が専門の青山キヨミ医師は「施設の利用を断られても元気な子どもたちは受け入れてくれる施設を見つけ出そうとする。そうなるとある特定の施設に子どもたちが殺到したり、カラオケなどの密閉空間に集まったりして、かえって感染のリスクを高めてしまうことになる」と指摘しています。
そのうえで、子どもたちに外出先から戻った際の注意を呼びかけます。
青山キヨミ医師
「子どもたちには、図書館などで過ごしたり、外で遊んだりして家に帰った際の手洗いやうがいを徹底するようにさせて、家庭にウイルスを持ち込まないと意識づけることが重要」
模索が続くからこそ
目に見えない感染症が広がる中、高齢者など重症化しやすい人の命を守るため、子どもも大人も感染防止の行動が大切なのは間違いありません。一方で取材で感じたのは、施設の利用制限の意図が肝心の子どもたちにどれだけ伝わっているのかという疑問です。
地域の状況に応じてさまざまな模索が続く中、感染拡大を防ぐために効果のある方策を着実に行っていくためにも、子どもたちの声に向き合うことが必要だと感じました。
投稿者:井手上洋子 | 投稿時間:15時27分