2019年04月25日 (木)花粉症... 目で香辛料を飲むようだ


※2019年2月5日にNHK News Up に掲載されました。

「目を取り出して洗いたい」とはよく聞くし、「のどに手を入れて奥までかきむしりたい」と言う人もいた。そう、花粉症。
「いえいえ、外出から戻った後は、頭から首まで風呂に突っ込んで、習字の筆を洗うように、洗いたい」という同僚もいた。ネットには「目で香辛料を飲むくらいつらい」という例えもあった。
ことしも足音が聞こえてきた花粉の季節。ことしはどんな季節になるのだろう、会社も対策をとるのだろうか、そうだ、新しい治療方法も探ってみよう。

ネットワーク報道部記者 後藤岳彦・大石理恵
熊本局記者 杉本宙矢
名古屋局記者  福島康児

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<マスクは全員花粉対策>

190205kah.1.jpg冬にしては暖かかったこの日、街に出てみると、マスクを着けている人がたくさんいた。100人を数えると、27人がマスクをつけていた。そのうち10人にマスクの理由を聞いてみた。全員が「インフルエンザと花粉症対策」と答えた。

「くしゃみがずっと出る」「目がかゆい」「涙が止まらない」

先月の後半から花粉症の飛散を感じているようで、同じ症状を持つ私(記者)も、それは同じだ。

いやな季節がまたやってきた。このつらさは症状がある人にしかわからない。


<去年の夏がうらめしい>

190205kah.2.jpg日本気象協会HPより
ことしは例年以上につらい年になりそうだ。日本気象協会がまとめた花粉飛散予測がある。おおむね北海道以外は例年並みか、それ以上。特に中国地方の各県と熊本、山梨、石川の各県では例年比150%超えだ。

去年の夏の気候の影響らしい。花粉の飛散量は前年の夏の平均気温が高く、日照時間が長く、降水量が少ないほど増えやすい。去年はこうした、花粉増量の条件のそろいぶみだったのだ。


<“飛散開始”前に飛散>

190205kah.3.jpg日本気象協会は気温などの関係から、花粉の飛散の開始は2月中旬ごろ、九州や四国などからスタートと予想している。

しかし、ここでいう「飛散開始」は一定量が2日間飛散したことを指す。そこまでいかないレベルの飛散はもう始まっていて、対策はすでに必要な状況なのだ。


<貼り薬、登場 >

190205kah.4.jpgでは今、花粉症にはどんな治療があるのだろう。花粉症対策に詳しい福井大学医学部耳鼻咽喉科の藤枝重治教授に聞いてみた。

「最近では飲み薬だけでなく貼り薬も出てきています。眠気が起こらないのと、血中に徐々に吸収されるため、効果が持続することが期待できます」

貼り薬は去年から販売が始まった。胸やおなかに付けて、24時間ごとに張り替えて使う。症状に応じて薬の量を増やすこともできるみたいだ。

かつてより治療方法は増えてきている。これまでの治療方法にこだわらず、どんな治療ができるのか、どんな治療が自分の症状にあっているのか、医療機関に聞いた方がよさそうだ。


<副作用は少なくなってきた>
また花粉症の患者で多いのは眠くなるのがイヤで薬を飲まないという声。でも藤枝教授によるとここ10年で出ている処方薬は、眠くなる副作用は、あまりないという。

そして貼り薬や飲み薬は「くしゃみが出た」「目がかゆい」など症状が出始めた段階で服用すれば効果があるので、いまからでも即対策になる。


<時間はかかるけど>
広く知られるようになった花粉エキスを含む錠剤をラムネのように口の中で溶かす「舌下免疫療法」。こっちは効果が出るまで時間がかかる。

「週1回、2年間続けると、6割から7割の人で花粉症の症状が改善します。1割の人は花粉症の症状がなくなります」(藤枝教授)

残念ながら中には改善しない人もいる。その原因はわかっていないということだが、症状を持つ私(記者)からすると、1割だけれども症状がなくなる可能性があることは、大きいと思う。


<花粉症と企業>
耐え難い症状で、集中力が欠ける花粉症は、仕事にも影響が出るようで企業も手を焼きさまざまな対策を立てていた。

ー花粉症手当-
東京都内にあるスマートフォン向けのアプリなどを開発する会社が始めたのが「花粉症手当」。

190205kah.5.jpg希望する社員へ、年に1度、通院費も会社が負担。それに上質なティッシュペーパーやマスク、目薬などを支給する。

去年は全社員の2割が手当を申請した。きちんと治療と対策を進めてもらうことが企業として必要だと判断したようだ。


ー海外移転?ー
ベンチャー企業の中には花粉が飛散する時期に、作業拠点を移すところもあった。

東京都に本社があるアプリケーションの開発会社。花粉症の社員が多く、花粉の飛散が少ない沖縄に“避難”して作業をするプログラマーもいた。

「プログラマーは集中力が仕事の命なんです。ミスがあれば大きな損害につながると考え、対策を取りました」(代表・田中和希さん)

190205kah.6.jpgその対策とは、2月から3月にかけて、希望者がハワイで業務をするというもの。民泊施設に滞在して仕事をしてもらい、1人およそ7万円の渡航費用などを会社が負担するという。去年から試験的に導入して6人が利用。ことしも2月後半から実施する予定だそうだ。

ー花粉対策フロアー
大手も対策をとっていた。ヤフージャパンはおととしから花粉が多く飛散する2月から4月頃までの間、本社ビルに「花粉症重点対策フロア」を設ける。

190205kah.7.jpg高機能な空気清浄機が設置され、上着をブラシで払い、花粉の付着を防ぐスプレーを吹き付けて入らないと業務ができないという特別フロアだ。去年は多い日で、400人近くが利用するほど、このフロアはにぎわった。
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<春が待ち望める日を、待ち望む>
日に日に暖かくなり、やがて桜も咲いて晴れやかな気分になるはずの春。その春を待ち遠しいと言えない理由が花粉だったりする。子どものうちから発症する人も増え、いまや4割近い人が花粉症の症状があるとも言われている。それは個人的な悩みにとどまらず、企業も対策を進めるほど社会全体の課題になっていた。

ネット上には「山に木を切りにいきたい」という切実なつぶやきもあったけれど、花粉自体をなくすことはできない。それならいまは、さまざまな情報を取り入れて少しでも改善を目指したい。

そしてそしていつの日か、治療方法と花粉対策の進歩が、春を待ち遠しいと思えないたくさんの人たちに、すてきな春をもたらしてくれることを待ち望みたい。

投稿者:後藤岳彦 | 投稿時間:18時20分

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