2018年08月29日 (水)熱中症対策 ネットの疑問を確かめてみた


※2018年7月23日にNHK News Up に掲載されました。

「スポーツドリンクは(熱中症の)予防用に」。「熱中症対策で学校のプールを中止に」。猛烈な暑さが続くなか、ツイッターには熱中症をめぐるさまざまな情報があふれています。こうした情報や判断は正しいのでしょうか?専門家に聞いて確かめてみました。

ネットワーク報道部記者 佐伯敏・管野彰彦・吉永なつみ

net180723.1.jpg

<スポーツドリンク 予防になるの?>

net180723.2.jpg「予防ならスポーツドリンク!」

厳しい暑さが続く中、こうしたツイートが多く見られます。

予防にスポーツドリンクが効果的という声は本当なのでしょうか。

net180723.3.jpg熱中症対策に詳しい済生会横浜市東部病院の谷口英喜医師は次のように指摘しています。

「熱中症から身を守るために、何より大切なのは・・暑さを避けることです。水分をきちんととることは大切ですが、スポーツドリンクさえ飲んでいれば、熱中症を予防できるとは絶対に思わないでほしい」。


<経口補水液との違いは?>

net180723.4.jpgまた谷口医師はスポーツドリンクと経口補水液の違いを知ることで、のどが渇いたり、熱中症の症状が出たりした時、効果的に水分を補給できると言います。

「スポーツドリンクは、塩分よりも糖分の量が多め。運動によって失われたエネルギーを補うのに適しています。スポーツで汗をかいた時には効果的です」
「経口補水液はスポーツドリンクに比べると塩分が多め。下痢やおう吐などの症状が出た時、脱水状態を補正するのに効果があります。一刻一秒を争う脱水状態では経口補水液のほうが、胃から腸に早く水分が送られるため、症状の回復に適しています」。


<大量の水、危険?>

net180723.5.jpgネット上では「水だけを大量に飲むのは危険」という投稿も目にします。これについて、桐蔭横浜大学大学院スポーツ科学研究科の星秋夫教授に聞きました。

「確かに水だけを大量に飲むと逆に脱水症のおそれがあるんです。自発的脱水と言います。水を大量に飲むと体の中の塩分の濃度は低くなります。すると塩分の濃度を元に戻そうと飲んだ水をどんどん尿として排出してしまうんです。その結果、脱水の症状が起きてしまうというしくみです。水だけを大量に飲むのは要注意です」。


<でも水しか飲めない場合は>

net180723.6.jpgしかし、ツイッターには「スポーツドリンクがジュースだと見なされて学校で禁止されている」という訴えも多く見られます。

「スポーツドリンクなどを持ち込めない、手元に水しかないという場合は、塩をなめたり梅干しを食べたりと、意識して塩分をとることが脱水症状を防ぐのにつながります」(星教授)


<水筒にスポーツドリンクはNG?>

net180723.7.jpg次のツイッターの声です。「ポカリを金属水筒に入れちゃダメ」「スポーツドリンク系は水筒の鉄分溶け出して中毒起こす可能性あるから気をつけて」。

調べてみると確かに、ポカリスエットの公式ホームページのQ&Aに書かれていました。

「ポカリスエットは弱酸性の液体です。使用する金属容器にキズなどがついていると、容器の金属イオンが溶け出してしまいます」。

そうした例があるのか東京都福祉保健局の健康安全研究センターに聞いてみました。

「水筒の中が金属製で、ヒビや破損があり、金属が溶け出して中毒が起きたことが平成20年にありました。ただ、一般論ですけど、最近のメーカーの水筒は内側にコーティングがされていて液体が金属に直接触れないようになっています。中にヒビがあったり、コーティングがはがれてしまったりしていなければ、過度に心配することはありません」。

ただ、平成20年のケースは午前7時に水筒に入れたスポーツドリンクを午後2時に飲んで、中毒が起きてしまったそうです。

使っている水筒が大丈夫なのか、注意が必要なのは確かなようです。


<プールもだめなの?>

net180723.8.jpgプールについての投稿もたくさん見られます。

「熱中症危険レベルで学校のプールが中止の連絡。暑いから入りたいだろうに」

猛暑のなか、水の中に入るプールもダメなのでしょうか?

「屋外プールでも熱中症になる危険があります。環境省が発表している暑さ指数をめやすに活動してほしい。体がぬれていると気づきにくいのですが、プールで泳いでも水遊びをしていても人は汗をかくんです。そして汗をかいても体がぬれていると体温調節がしにくい状態となります。暑さが厳しい時には泳ぐのはなるべく短時間にとどめたほうがいいんです」(谷口医師)


<水温に注意を>
そして重要なのは水温で、20度後半から30度程度であれば、陸上と同じように水分補給や休憩などを適度に取ることで対策になりますが、猛暑では水温も30度なかばから後半に達することもあります。

「こうなると、ぬるめのお風呂に入っているのと同じ状況で、体温を下げることも難しい。さらに水の中ではのどの渇きも感じにくくなるので、熱中症の危険性は高まるんです」(星教授)。


<熱中症に水風呂はあり?>
ところで熱中症には水風呂という投稿も多くみられます。

「熱中症の症状が出ている時に水風呂に入るのは危険です。ふらふらしている時にはそのままおぼれてしまうおそれがあります」(谷口医師)

頭がぼんやりする、だるい、などといって、1人で水風呂に入るのは避けたほうがよさそうです。


<セルフチェックの方法1>

net180723.9.jpgそれでは最後に、脱水症状を自分で確認できる方法を3つ紹介します。

1つ目が「手の甲を軽くつまんで素早く戻らないと脱水症状の可能性」というもの。

これはネットでも紹介されていて、谷口医師によると「3秒以内に戻らないと脱水症状かもしれない」ということです。

水分が不足すると血液がドロドロになり、血液が循環しにくくなるために起こる状態だそうです。

熱中症は高温の中で、「脱水症」と「臓器障害」という2つの大きな症状が出る病気です。

症状としてはまず「脱水」が進むので脱水を起こしているかどうかの見分け方をいくつか知っておくと、早期発見に役立ちそうです。


<セルフチェックの方法2>

net180723.10.jpg2つ目が、親指の爪の先をおさえて放す方法です。

健康であれば、放すとすぐに赤みが戻ります。3秒以上、白いままだとしたら、脱水を起こしているサインです。

水分がなくなると血流が悪くなるためで、手や足の先といった末端部から赤みが失われます。


<セルフチェックの方法3>

net180723.11.jpg3つ目が舌の状態を見る方法です。

健康な人の舌は色が赤く、表面は滑らかです。脱水を起こしている人は、唾液の量が少なくなり、血液もドロドロになるため舌は赤黒く、でこぼこになります。

上記のことをやってみて、脱水症状が疑われたら、体への吸収が早い経口補水液を飲むことが回復に効果があります。

暑さはまだまだ続きそうです。ネットで出ている意見も参考にしつつ、専門家の知識に裏打ちされた対策をとるようにしてください。

投稿者:佐伯 敏 | 投稿時間:16時10分

ページの一番上へ▲