2014年04月28日 (月)減らせ突然死 使おうAED 使い方は?


心臓が止まった際に、電気ショックを与えて元に戻す医療機器、AED。
一般の人の使用が認められてから、今年でちょうど10年になりますが、思うように使われていません。
心筋梗塞や狭心症などの心臓発作が原因で亡くなる「突然死」は、年間およそ7万人。中には若くて健康な人もいます。
ところが、誰かの目の前で人が倒れた場合に、AEDを使って電気ショックを与えたケースは、わずか3.7%にとどまっています。
なぜなのでしょうか?

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【使われない理由は?】

AEDは、いろいろな場所で目にするようにはなりましたが、どうして使われないのか。
NHKは、今月、AEDに関する電話調査をしました。
「見知らぬ人が目の前で突然倒れた場合、AEDを使うことができますか」という問いに対して、半数以上が「できない」と答えました。
理由を聞いたところ、多かったのが「使い方が分からない」、そして、「AEDを使うべき状態か分からない」というものでした。

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【誰でも簡単に使える!AED】

確かに、目の前で倒れた人の心臓が止まっているかどうかというのは、一般の人には分かりにくいものです。AEDはそれも判断してくれます。

使い方を、心肺蘇生法の専門家、帝京大学医学部附属病院の坂本哲也救命救急センター長の坂本哲也医師に聞きました。
坂本医師は、AEDは、誰でも簡単に使えると言います。

電源ボタンを押したり、蓋をあけたりすると、音声の指示が始まります。

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最初は、“パッドを胸に装着してください”といった内容。

あとは、音声の指示に従うだけです。

胸をはだけて、パッドをイラストのとおりに体に直接貼り付けます。

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パッドを貼ると「心臓が止まった状態か」、「電気ショックが必要か」、AEDが自動で解析します。

電気ショックが必要であれば、“ショックが必要です”などと言われます。

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AEDが判断してくれるので、あとは押すだけ。
例えば、こんな音声です。“ショックを実行します。オレンジボタンを押してください”。

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すぐに電気が流れ、“ショックが完了しました”などと言われます。

坂本医師は、「AEDは、電気ショックが必要な時だけ電気が流れる安全装置がついた器械です。安心して使ってください」と話していました。

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AEDは治療器具でもあり、電気ショックが必要か診断する器具でもあります。
誰かが突然倒れた場合は、迷わず使うことが大切です。


【消防が119番通報の通話で後押し】

とは言え、実際にその場に居合わせたら、「どうしたらいいんだろう」とパニックになるかもしれません。
そういうときは、119番通報です。

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各地の消防では、通報を受ける職員が通報者に電話で救命処置の仕方を教える「口頭指導」に力を入れています。

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先進的な取り組みをしている、福岡の例を見てみます。

福岡市の消防局では、24時間、誰が通報を受けても口頭指導ができる態勢を整えています。
実際の通報の音声を聞かせてもらいましたが、混乱した状況の中でも、通報を受ける職員は、“AEDはつけていますか?”と聞き、“つけてないです、つけた方がいいですか?”、“つけましょう、つけましょう。パッドを貼ってください。絵のとおり、きれいに貼ってくださいね”などというやり取りです。

福岡市では、口頭指導によりAEDを使う市民の数は5年で8倍になっています。こうした指導の成果もあり、救命率は全国平均の3倍に上ります。

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【口頭指導で救った人、救われた人】

口頭指導を受けたことがあるという人を取材しました。

福岡市内のテニスコートでプレー中に、男性が突然倒れ、心臓が止まりました。

当時テニスコートの管理人をしていた財津武彦さんは、すぐに119番通報をして口頭指導を受けました。
財津さんは、壁に取り付けてあったAEDの外し方を教わって、すぐに現場まで駆けつけました。
消防は通報してからAEDを届けるまで、ずっと電話を切らずに、次に何をすればよいか指示を出してくれました。

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財津さんは、「気が動転しているので、消防の指示があるのはとても心強い」と話していました。

uaed_115.jpgまた、驚くのは、倒れた男性が、早い段階でAEDを使用したことで、助かっただけではなく、後遺症もなく、今もテニスを楽しんでいたことです。
男性は、「AEDがなければ、おそらく生きていないでしょうね」と話していました。

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【口頭指導のコツは“勇気の後押し”】

福岡市消防局では、市民に協力してもらい、年間およそ20回、口頭指導の訓練を行っています。
私たちも、市民役として参加しました。突然目の前で人が倒れたという想定で、市民役が通報をします。
通報を受ける職員は電話を通じて、適切に指示を出さなければなりません。職員は、パッドの付け方や注意点を丁寧に伝えていました。

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訓練のポイントは、そのあとにありました。
指示が伝わっていたか、現場を録画した映像を確認し、検証を行っているのです。
上司は、気になったところがあれば、映像を止め、アドバイスします。

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心臓マッサージを続けるよう指示していたのにうまく伝わらず、AEDの準備をする間30秒ほど心臓マッサージの手が止まっていた場面がありました。

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「くどいくらいに心臓マッサージをやめてはだめだと言わないといけない。そこは大事なところだ」という指摘が出ました。
AEDは、心臓マッサージとセットで効果が高まります。AEDが来るまでや、到着したあと、電気ショックの直後、電気ショックが不要と言われたあとにも、心臓マッサージを続けなければなりません。

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福岡市消防局の古川貴之救急救命士は、「まずは通報者の心情をくむ。そして『今が大事なんです』、『今、救命処置をやってもらわないと、助かる命も助からない』ということを、僕らが熱意を持って話すことで、通報者が勇気を持ってやっていただける」と話し、口頭指導では「寄り添い」「誘導し」「後押しをして」「行動のスイッチを入れる」ことが重要だと教えてくれました。

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確かに電話口で指示してもらうと心強く、総務省は、福岡市消防局の取り組みなどを参考に、消防の担当者を対象にした教育テキストを作り、全国の消防に配布するということです。


【もしものときに備えて】

もしものときに備え、AEDがどこにあるのか、あらかじめ場所を確認することが重要です。

ふだんから意識して、自宅周辺、通勤・通学の経路、よく行くところ、会社や学校などで見つけておくのが最も確実ですが、日本救急医療財団のホームページも役に立ちます。住所や施設名を入れると、全国にあるAEDの場所を検索することができるので参考になります。

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また、すべての消防で口頭指導が受けられるわけではないので、いざという時のために、AEDの使い方、心臓マッサージの方法を確認しておくことも大切です。
詳しくは、医師や救命士などが立ち上げた「減らせ突然死プロジェクト」のホームページで見ることができます。
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【取材後記】

<命の重み>

「AEDをなぜ使えないか?」は、使い方が分からないということもありますが、個人的には、命の重みに対するおそれが大きいかもしれないと思っています。
AEDを使う場面は、人の命が関わっています。簡単と言われても、うまく使えなかったらどうしようという不安があります。

実際に電気ショックのボタンを押し、60代の男性を救った女性に、なぜ使えたのか聞きました。
「無我夢中でやったが、震えていた。AEDを操作する自分に、押そうとするボタンに、人の命がかかっていると思うと、怖くて怖くて、震えてしょうがなかった」と、そのときの気持ちを話してくれました。
それでも押した理由について、「自分の親を助けている気持ちで、もし自分の親が倒れたときには、誰かに助けてもらいたいと思って必死にやった」と話していました。考えさせられる言葉です。それでも、一歩踏み出せば、命が救えます。

<AEDは心臓マッサージとセット>

重要なことを書きます。
本文でも触れましたが、「AEDは心臓マッサージとセット」です。
AEDは万能ではありません。
AEDがその場にあれば、すぐにAEDの電源を入れて、音声メッセージに従うだけでよいのですが、通常は離れた場所にあると思います。
倒れた人は心臓が止まっているかもしれません。心臓が止まっていれば、全身に血液が流れません。
このため、心臓マッサージで、そのポンプ機能を代替するのです。AEDが来るまで何もせずにいたら、一番大切な脳に血液が流れず、取り返しのつかないダメージを受けます。

<救命は時間との勝負>

救命率は時間とともに、どんどん落ちていきます。
ある病院勤務の医師は、「医師は何もできない。救急隊でもぎりぎり。救えるのは居合わせた市民だ」と話していました。
市民の行動が鍵を握っています。

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<ずっと心臓マッサージ>

また、AEDが来るまでだけでなく、電気ショックのあとにも、心臓マッサージを続けます。
実は、電気ショックは、細かく震えて異常な動きをしている心臓を、元に戻すために一度止める働きがあります。
心臓が止まっている間、心臓マッサージを行って血液を全身に流すだけではなく、心臓にも血液を流して正常に動き出すことを促します。
心臓は自ら動く特別な臓器ですが、エネルギー切れになれば動けません。
心臓マッサージを続けていれば、血液を通してエネルギーが届き、動き出します。

そして、AEDの音声メッセージが「電気ショックが必要ない」という場合も、心臓マッサージが必要です。
これは心臓が動き出すまでの間、脳へのダメージを回避するためです。

救急隊は全国平均で8分余りで到着します。
それまではひたすら心臓マッサージが基本です。それにAEDを併用するイメージです。

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<AEDと心臓マッサージだけでも>

ここで、「心臓マッサージだけでいいの?人工呼吸は?」という疑問が湧いたかもしれません。
人工呼吸ができれば望ましいですが、心臓マッサージだけでも有効なので、日本の心肺蘇生法のガイドラインでは、初心者の場合は、迷わず心臓マッサージだけをしてくださいとしています。

心臓マッサージは難しいと思われる方がいると思います。
コツは、胸の真ん中に両手を置き、手のひらの付け根の部分で、胸が5センチ以上沈み込むくらいの力で(ドッジボールがつぶれるくらいの感覚)、1分間に100回以上です。
おそらく、思っているよりも、深く、速く押すことが必要です。

やることをためらっているうちに取り返しがつかなくなります。やらないよりやったほうがよいことは間違いありません。うろ覚えでもぜひ。
そして、可能ならば最寄りの消防などで行われている救命講習会を受けてみてください。私ももしものときに備え、腕を磨いておこうと思います。

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<人が倒れたらどうすれば>

最後に、人が倒れたときの、最も簡単にした対応の手順です。

「どうしましたか」とか「大丈夫ですか」と声をかけて、肩をたたくなどして、反応があるか確かめます。

反応がなければ、119番とともに、AEDを手配します。

そして、呼吸がなければ心臓マッサージを始めます。

倒れている人は、あごをしゃくり上げたり、突き出したり、極端にゆっくり呼吸をしているなど、口が動いていることがあるかもしれません。
それは、心臓が止まっているサイン。呼吸がない場合と同様に、心臓マッサージを始めます。

倒れている人は、脳しんとうなどで、心臓が原因ではないかもしれません。
その場合は、普通の呼吸があります。
心臓マッサージをして、払いのけるなどの反応があればそこで止めればいいだけです。

NHKは今月から「減らせ突然死~使おうAED」というキャンペーンを始めています。
一緒に救える命を救いましょう!

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投稿者:三瓶佑樹 | 投稿時間:07時15分

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