2013年12月18日 (水)低栄養を防いで早期退院を


入院期間が短くなるとして、全国的に注目されている試みがあります。高知市の病院では、手術を受けたばかりの男性が、2時間後にはベッド脇に立ち、翌日には普通の食事を食べて、病院の廊下を750mも歩いていました。こちらの病院では、珍しいことではありません。いったい何が、患者の回復を支えているのか。その秘けつを、取材しました。

teieiyou1.jpg

心臓の手術を終えたばかりの67歳の男性です。手術の翌日には、食事の相談が始まっていました。

管理栄養士 「昼から、おかゆか普通のごはんでも構わないということなんですけれど、どうしましょう?」
患者 「普通のごはんで」
管理栄養士 「普通の硬いごはんでいいですかね?」

teieiyou2.jpg同じ日、男性は750mを歩くまで回復しました。

teieiyou3.jpg1週間後の食欲はご覧のとおり。残さず完食し、男性はこのあと退院しました。

teieiyou4.jpg
患者 「体もだいぶ楽になりましたね。自分でもビックリしています」。

teieiyou6.jpg
心臓の手術をしたばかりとは思えない元気な様子ですが、この回復力を支えているのは、「食事」です。
手術直後の患者は、病と戦うため、普通の人よりも多くのエネルギーが必要ですが、栄養を十分とれない入院患者が多く、65歳以上の患者のおよそ40%が「低栄養」つまり栄養失調であるという調査もあります。

teieiyou5.jpg
こうした中、男性が入院していた、高知市の近森病院では、患者の栄養状態を徹底的にコントロールすることを目指しています。

teieiyou7.jpg
聴診器を使って患者のお腹の音を聞いているこの男性。医師ではなく、管理栄養士です。
管理栄養士 「おなかがちょっと 張っています?」
患者 「うん」

teieiyou9.jpg
管理栄養士 「お味はどうですか?」
患者1人1人に担当の栄養士がついて、栄養がしっかり取れているか確認しています。

teieiyou11.jpg
栄養士は、気づいたことは積極的に医師に提案しています。

管理栄養士 「ビタミンと、高カロリー栄養剤を使いましょう」
医師 「ああ、そうやね」

teieiyou12.jpg
病院で働く管理栄養士は22人。患者に対する割合は、全国平均の3倍に上ります。

teieiyou13.jpg
この病院で栄養士を束ねる宮澤靖さんです。
宮澤さんは、患者に、できるだけ早く口から食べてもらうことを重視しています。

teieiyou15.jpg
宮澤さん 「頑張って また食べて 動いてくださいね」
患者 「はい、頑張ります」

teieiyou17.jpg
病気の人は、病と闘うために、健康な人よりも多くのエネルギーが必要です。症状によって、1日、2000から4000キロカロリーを使います。
しかし、点滴からは、1日500から1000キロカロリー程度しか摂取することはできません。使うエネルギーの方が多くなり、患者は低栄養になってしまいます。

teieiyou18.jpg
一方、口から食べると…。
入院患者でも、1日2500キロカロリー程度の摂取が可能になります。加えて、腸を動かすことで、免疫力も高まります。
栄養は、点滴よりも、口から摂取した方が、回復が早いのです。


teieiyou20.jpg管理栄養士の宮澤靖さんは、
「手術翌日から食事を食べ、そして歩いて、非常に短い期間で家族のもとに帰ることを、私たちは何百例と経験している。栄養を大切にすることによって、退院後の生活のクオリティが上がると思う」と話しています。

teieiyou21.jpg
この病院が、患者の栄養管理に取り組み始めたのは10年前。当時、高齢の患者が急激に増えていました。若い人と同じ治療をしても回復が遅く、リハビリの効果も思うように出ませんでした。
どうすれば治せるのか。試行錯誤を繰り返す中で、土台となる栄養に問題があるのではないかと考えました。

近森病院の近森正幸院長は
「医師は医学的に患者を診て、診断・治療している。栄養学的には診ていない。きちんとした栄養士に来てもらわないと、とてもじゃないが、栄養サポートはできなかった」と話しています。

teieiyou22.jpgこうして招かれた宮澤さんたちが中心になり、先進的で、きめ細かな栄養サポートを始めました。
栄養士は1日に何度も患者のもとを訪れ、胃や腸の状態をチェックします。
口から栄養摂取を始めるタイミングを、いち早く、つかむためです。

管理栄養士 「お腹はしっかり動いている」

teieiyou23.jpg
腸が動き出したことに気づくと、栄養士が医師に口から食べることを提案します。
この男性は4日後、集中治療室から一般病棟に移ることができました。

teieiyou24.jpg栄養サポートを始める前に比べ、患者が退院するまでの平均日数は16日から14日に短くなるなど、効果が出ているということです。

teieiyou25.jpg近森病院の近森正幸院長は、
「高齢者が急速に増えると、栄養やリハビリを十分考えた医療体制でなければ、患者さん自身がものすごく困る。栄養サポートとリハビリは人間の基本、食べて動くというのは。基本的なことをやることで、患者さんは元気になるんです」と話しています。

teieiyou26.jpg
1つの病院で、管理栄養士が22人。それだけの体制を組むには、多くの人件費がかかっていますが、栄養状態が改善し、感染症にかかる患者が減ったことで、抗生剤の使用量が年間1億円分も減少するなど、十分採算は取れているということです。こうした取り組みを広げていくための課題として、
▼医療現場で、周りの職種から頼りにされるだけの力量を持った管理栄養士をどう育てるのか、育成面での課題もありますし、
▼栄養士が患者の栄養状態を改善したくても、医師の協力が得られないケースもあると言います。

teieiyou27.jpg
高齢者の医療に詳しい、名古屋大学大学院の葛谷雅文教授は、
「病院では、治療がターゲットですので、そちらにばかり目を向けてしまって、背景にある栄養状態に十分な目が行き届かない。病院全体のスタッフが、栄養状態に関して気をつけて、気配りをしていくという姿勢が、根本的になければいけない」と話しています。


teieiyou30.jpg医療現場では、病気そのものに注目が集まりがちですが、土台となる栄養にも目を向けると、患者の状況がまた違った角度からも見えてくるのではないかと感じました。
「食べて動くのは人間の基本」という近森院長の言葉もありましたが、今後、高齢化が進む中では、これまでよりも一層、医師や栄養士、薬剤師などといったさまざまな職種が連携して、それぞれの専門知識を生かしながら、栄養に気を配った形での医療を進めてほしいと思いました。

teieiyou28.jpg

投稿者:角田 舞 | 投稿時間:08時00分

トラックバック

■この記事へのトラックバック一覧

※トラックバックはありません

コメント

※コメントはありません

コメントの投稿

ページの一番上へ▲