2013年01月16日 (水)院内製剤 安全に使うには


「院内製剤」という言葉ご存じでしょうか。患者の症状や状態にあう薬がないときに、病院内で薬剤師が作る薬のことです。製薬会社が作る医薬品のように、国の承認を経て製造されるものではありませんが、実は、大きな病院の9割以上で使われているんです。一般の薬では対応できない、という場面で、患者の命を救う一方で、課題も明らかになってきています。

innnai20130116-2.jpg

【命を救う院内製剤】
院内製剤によって、命が救われた人がいます。都内に住む65歳の男性は去年7月、重い感染性胃腸炎で、病院に運ばれました。

innnai20130116-3.jpg
男性は甲状腺に持病がありホルモンの錠剤を毎日飲まなければ、命に関わります。しかし、胃腸炎の影響で、薬を飲んでも吸収できなくなりました。このホルモン薬は、錠剤以外は、国内では承認されていません。

innnai20130116-4.jpgそのため、病院の薬剤師は、同じ成分を注射で投与できる院内製剤を独自に作りました。

innnai20130116-5.jpg注射薬のおかげで男性は一命をとりとめ、3か月後に退院することができました。男性は「先生に感謝ですね。よくやっていただいて助かりました」と話していました。男性の治療にあたった東京・品川区の昭和大学病院の神田潤医師は「今から考えても院内製剤を使えたというのは幸運だった。院内製剤を使う以外の有効な治療手段は思いつきません」と話していました。

innnai20130116-6.jpg
【品質管理は病院任せ】
1人1人の患者にあわせて作られる院内製剤。その種類は500以上にのぼります。しかし、一般的な薬が国の承認を経ているのに対して、院内製剤の品質管理は病院ごとに任されているのが実情です。

innnai0130116-7.jpgそうした中、院内製剤のミスも明らかになりました。名古屋市にある名古屋大学医学部付属病院は、1年間にわたって、不妊治療に使う院内製剤の量を間違えたまま、53人に投与していました。薬の量を薬剤師が目分量で決めていたのがミスの原因でした。本来は容器にすり切り一杯に満たして入れるべきでしたが、口の部分にふたをするためのシールがはりにくいといった理由から薬の成分量が徐々に減っていってしまいました。

innnai20130116-10.jpg

健康被害は出ませんでしたが、このミスを受けて、病院は、およそ80の院内製剤すべてについて製剤の手順を記したマニュアルを改めました。30年以上前から使われてきたマニュアルでは、薬剤師の経験に頼って大まかな作り方しか書かれていませんでした。そこで、どの薬剤師でも同じように製剤できるよう、詳しい数値を明記するなど全面的に書き直しました。

innnai20130116-11.jpg

医療の質・安全管理部の長尾能雅教授は、「日本で認可されていない薬品で患者さんにメリットがある、ニーズがある以上院内で作って処方する行為自体はなくならないし、せざるをえない。できるだけ透明性を保ちながら 安全な製品を提供したい」と話していました。

innnai20130116-12.jpg


【安全管理の指針策定】
病院や診療所に勤務する薬剤師が加盟する日本病院薬剤師会も対策に乗り出しました。去年7月、院内製剤を安全に使用するための指針を初めてまとめまたのです。薬の危険度に応じて品質管理を徹底し、病院全体できちんと使用状況を把握することなどを盛り込みました。

innnai20130116-13.jpg

土屋文人副会長は「基本的には各医療機関の中で、ちゃんとやってくれているだろうという考え方でやってきたが、事故が起きたことからいうと、やはり最低基準をきちんと決めておかなければいけないということで指針を策定した」と説明します。

innnai20130116-14.jpg【患者に違いを説明する取り組みも】
指針に基づいて、院内製剤について患者に詳しい説明を始めた病院もあります。

innnai20130116-15.jpg群馬県渋川市にある国立病院機構西群馬病院は、一般の医薬品との違いをはっきり説明し、院内製剤を使う際には患者やその家族から同意書をとることを決めました。取材に行ったこの日は病院で安全管理の担当者が集まってどのような内容にするか検討が行われました。活発な議論が行われ、「市販の薬では対応できない場合があるから、病院の中で作っているということを理解していただくべきなのではないか」、「堅苦しい言葉では患者さんも分かりづらい」といった意見が出されていました。

innnai20130116-16.jpgできあがった同意書にはこうした意見に基づいて、院内製剤についてくわしくわかりやすく説明されています。

innnai20130116-17.jpg今後、病院では、患者の同意が得られなければ院内製剤は使わない方針です。佐橋幸子薬剤科長は「患者さん自身もそういった位置づけの薬だということをきちんと理解していただくことが医療者側の責任だ。医師と薬剤師で共同して説明して同意をとるという作業が今後は必要になってくるでしょう」と話していました。

innnai20130116-18.jpg1人1人に応じた医療に欠かせなくなっている院内製剤ですが、患者の理解を得て、安全を確保しながら使うための、体制づくりが求められています。

【取材後記】
院内製剤にこれだけ種類があり、かなり使われる場面が多いということは、一般にはほとんど知られていないと思います。しかし薬剤師の世界では何十年以上も前からの常識で、個々の患者のニーズに対応するためのいわばオーダーメイドの丁寧な医療が提供されていたわけです。各病院で広く使われる薬については製薬会社が実際にその有用性を認め、市販化に結びつくケースもあるなど、院内製剤の果たしてきた役割は大きいものがあります。しかし、一方で、薬事法には規定されておらず、万が一ミスが起こった場合を想定した共通のルール作りはまったく進んでいなかったのも事実です。日本病院薬剤師会は、各病院での院内製剤の使用状況や指針を受けた対応について、今後詳しく調査することにしていますが、どこまできちんとした体制ができるのか、継続的な検証が必要だと思いました。また院内製剤の有効期限や品質などの評価については、情報を病院間で共有できる仕組みもありません。各病院ごとの取り組みだけに頼るのではなく、医療者側全体が協力して、安全性、有効性を確保していくにはどうしたらいいか、さらに議論が必要だと感じました。

 

投稿者:山本未果 | 投稿時間:06時00分

トラックバック

■この記事へのトラックバック一覧

※トラックバックはありません

コメント

※コメントはありません

コメントの投稿

ページの一番上へ▲