2019年02月25日 (月)賃貸住宅で除菌・消臭代?


※2018年12月20日にNHK News Up に掲載されました。

札幌市の不動産会社で爆発したと見られるスプレー缶は、会社側によると仲介物件の室内を除菌・消臭するためのもので、施工代金込みで1本1万円という説明でした。でもこれってどうなの?その実態、調べてみました。

ネットワーク報道部記者 伊賀亮人・宮脇麻樹・国田剛

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<記者会見の衝撃>

181220chin.2.jpg今回の爆発火災でけがをした人は20日現在で52人。周辺の建物の被害も39棟にのぼりました。

その原因と見られているのがスプレー缶。

仲介する物件の室内を除菌・消臭するというもので施工代金込みで1本1万円で販売していたそうです。
以下は店舗を運営する「アパマンショップリーシング北海道」の社長の記者会見でのやり取り。

181220chin.3.jpgQ.そもそもの仕入れ値は?
A.1本当たり確か1000円ぐらいだと思います。

Q.(従業員が)現地に行って床かなんかに置いて押して散布させて終わり?
A.そうです。

Q.それが1万円?
A.はい。

そのうえで社長は「お客様に販売させてもらって実際に施工できていない客がいたとは聞いている」と衝撃のコメント。


<相次ぐ怒り 疑問の声>
ネットでも怒りの声、続出です。

「抗菌消臭1万取られたぞ!そもそも、やったふりして、金だけ取ってたんだろ?家やった形跡なかったぞ」

会社側は会見であくまで任意と説明していましたが、こんな声もありました。

「先日の爆発事故の同じ運営会社の別店舗で賃貸契約したけど、抗菌消臭費用と消火器代はこちらの意向を全く聞かずに含まれていたぞ。後で気付いて不要の旨伝えて返金してもらいました」

181220chin.4.jpg全国各地で同じような費用を払ったという人からも疑問の声が相次いでいます。

「抗菌消臭代」「入居時消臭抗菌料」「除菌消臭施工」などなど呼び方もさまざまで、費用も1万円から4万円を超えるケースもあります。

さらにはこんなツイートも。

「我が家の『入居時消臭抗菌料』は3万5640円…、高くね」
このツイートをした人に話を伺うことができました。

ことし9月、新築マンションに引っ越した際に、賃貸契約を結びました。

181220chin.5.jpgその時の状況は詳しく覚えていないものの、「家賃はいくら、入居時消臭抗菌料はいくら」と流れ作業的に説明されたそうです。

今回の爆発火災が起きて思い出し、改めて契約書を見て疑問に思ったそうです。


<弁護士も驚いた>

181220chin.6.jpg不動産の法律制度に詳しい吉田修平弁護士は、「除菌・消臭代としてこれほど高額の請求がされていることを知って驚いた」と話します。

そもそも賃貸物件の汚れや破損などのいわゆる「原状回復」は、大家さんと前の借り主の間で行っています。

この際、前の借り主はハウスクリーニング代などを敷金から引かれることもあります。

新しい入居者は「原状回復」が済んでいる物件に入居するわけです。

ちなみに記者(宮脇)が15年前に社会人になって初めて借りたマンションの賃貸契約には除菌・消臭代なんてありませんでした。

30年ほど前に社会人になってアパートを借りたデスクに聞いても「そんなのなかったよ」と言います。

他の不動産会社に聞いてみることにしました。


<“半数の人が利用”>
「20数年前からやっています」

こう答えたのは賃貸仲介大手の「ミニミニ」です。

担当者によると、もともとはゴキブリなどの害虫駆除が主な目的でしたが、入居者のニーズに合わせて除菌や抗菌などの作業も行うようになってきたということです。
具体的には入居前に外注先の業者がスプレーで専用の薬剤を部屋の隅々にまくそうで、作業を行ったあと、3か月以内にゴキブリが出るなどした際は、再度、無料での作業も行うということです。

名目は「消毒代」で一律1万6200円。

全国で年間15万件ある新規の賃貸契約のうち、およそ半数の入居者が利用しているそうですが、あくまで賃貸契約を結ぶ際に任意で選べるサービスとして作業を行っているそうです。

ちなみに、今回の爆発火災について聞くと、担当者は「スプレー缶だけで消臭や除菌するということ自体考えられないし、業界全体のイメージについて誤解を与える」と、当惑した様子でした。


<あくまで任意です>
では、これから賃貸物件を借りる人はどんな点に注意したらよいのでしょうか?

181220chin.7.jpg例えば今回の爆発事故があった不動産会社の親会社が運営する賃貸物件の仲介サイトを見ると、「その他初期費用」として抗菌処理代金が書かれています。
こうした点について前述の吉田弁護士は、「新しい入居者が除菌・消臭の作業を希望し、仲介業者が頼まれてやるものでなければならず、あくまで任意です」と強調します。

例えば、「除菌・消臭代○万円(任意)」と書いてあり、かつ適切な価格であればよいのですが、必ず支払わなければならないかのように誤解させて費用を請求している場合は、消費者契約法違反にあたるおそれがあるということです。

181220chin.8.jpg吉田弁護士によると、「仲介業者が請求可能な仲介手数料は、賃料の約1か月分が上限とされているうえ、競争の激化で仲介手数料を下げたりするところもでてきているため、利益をあげようと最近出てきたのが、こうした『除菌・消臭代』などの費用なのではないかと思われる」と言います。

じゃあ、「頼んでいない除菌・消臭代を請求されたら拒否できますか?」と聞いたところ、「作業を依頼しなければ支払う必要はありません。仲介手数料以外の費用については内容を事前に確認しておくことが肝心です」とのことでした。

日本で除菌や抗菌が注目されたのは1990年代の後半。O-157の感染が問題になり「他人がつかまった電車のつり革が不潔」という声も続出して、抗菌剤や素材を使ったペンやタオル、電話機などありとあらゆる抗菌グッズが登場しました。

でも賃貸マンションやアパートに入居する際に除菌・消臭って本当に必要?

そう考えていたらこんなツイートを見つけました。

「まあ部屋貸したいなら事前に消臭くらいしとけって話」

投稿者:伊賀亮人 | 投稿時間:16時51分

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