2020年02月10日 (月)実りの秋の景色一変 豪雨被災地を悩ませる「稲わら」


※2019年11月14日にNHK News Up に掲載されました。

宮城県北部の大崎市を歩くと農地が一面、茶色く染まって見える異様な光景が目に入ります。その正体は「稲わら」。コメを収穫したあとの稲を乾燥させたものですが、これが今、台風19号による被害からの復旧を急ぐ被災地の人たちを悩ませています。

仙台放送局記者 高垣祐郷・ 藤家亜里紗
ネットワーク報道部記者 加藤陽平

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水が引いたあと残ったものは

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宮城県を東西に流れる吉田川。
この川の堤防が決壊し、周辺が大規模に浸水しました。

特に大崎市の一部はもともと沼を干拓した地域で、周囲よりもくぼんだ土地になっていたため水がたまり、少なくとも2mほどの水位に達した場所もあります。

被害から1か月。
多くの場所で水は引きましたが、そのあとに残ったのが「稲わら」でした。

ネギは押し潰され…全滅

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「自然災害だからしかたないが…悲しい」

大崎市でネギなどを生産する畑山昇さんは肩を落としました。

被災から3週間近くたった11月1日。
ようやく、散乱した稲わらを農業用ハウスから撤去する作業を始めました。

ぬれた状態では重く、集めても運べないため、乾くのを待たなければいけなかったのです。

稲わらに押し潰されたネギは腐り始めていて、すべて商品になりません。

トマトはハウスごと壊滅的被害

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特産品のトマトも被害を受けました。

大規模に栽培を行っている農園「マルセンファーム」では、大型の農業用ハウスや事務所など約3ヘクタールが浸水。

作物は全滅し、トマトの糖度を測る機械なども壊れました。
被害は2億円を超えます。

稲わらは機械やハウスのあちこちに絡まり、45センチも積もった場所もありました。

稲わらの撤去に50人規模であたりましたが5日間かかり、泥にまみれたハウスは今もまだそのままです。

「ここでやめるわけにはいかない」

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千葉卓也代表は「再開のために必要な資材が届く見通しはたっていないが、皆さんに喜ばれる野菜をつくっていくためにここでやめるわけにはいかない」と話します。

稲わら 本来はありがたいもの

稲わらとは、コメを収穫する際、もみを取ったあとに残った茎や葉を乾燥させたものです。

稲わらはコメの収穫に伴う副産物ですが、田畑にすき込む肥料として多く使われます。

そのほかにも、家畜の餌や、畑の保温のために敷かれることもあり、さまざまに使われる貴重な資源として重宝されているのです。

まさか稲わらで被害とは…

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台風19号が列島を襲ったのは10月12日。
宮城県によると、この時には県内のコメの9割は刈り取りが終わっていたとみられます。

コンバインで収穫すると、もみと稲わら部分はその場で切り分けられ、稲わらはそのまま田んぼにまかれます。

ちょうどこの時期に、台風による濁流で稲わらが広い範囲に流されることになったのです。

特にコメどころの大崎市などでは稲わらによる被害が大きいのが現状で、農家からは「まさか稲わらで被害が広がるとは思ってもみなかった」という声が聞かれます。

少しずつ進む除去作業

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稲わらを農地から取り除く作業は徐々に進んでいます。

11月初旬の3連休には、多くのボランティアや自衛隊も参加して地域の稲わらを取り除く作業を行いました。

この稲わらは各地域の仮置き場に集められますが、大崎市の仮置き場には3mほどの高さがある稲わらの山ができていました。

各地に大量の「稲わらごみ」 飛散の心配も

miniri.191114.8.jpg大崎市によると、廃棄物として処分しなければいけない稲わらの量は、市で年間に排出するごみの3分の1にあたる1万トンにも上ると推計されています。

同じ問題は宮城県内の各地で起きていて、県は、処分が必要な稲わらは県内全体で最大20万トンに達すると見込んでいます。

集めた稲わらをどう処分していくかもメドが立っていません。

台風の被害で大量の災害廃棄物が発生しています。

各地のごみ処理場はフル稼働の状態。

まずは家屋の破片や家財道具を焼却しなければならず、稲わらは後回しになるのが現実です。

処分が進まない中、稲わらが腐敗したり乾燥して周囲に飛び散ったりする懸念も出ています。

牛まで危機に?!

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さらに、稲わらが流されてしまったことで危機に直面しているものがあります。
宮城県が誇るブランド牛、「仙台牛」です。

宮城県内で育てられた黒毛和牛で、食肉に付けられる等級のうち、A5かB5というトップクラスの評価を得なければ、「仙台牛」は名乗れません。

そのためには、赤身の間に脂肪の筋「サシ」が入った、「霜降り肉」に育て上げなければいけませんが、必要になるのが「稲わら」なんです。

稲わらがないとブランド牛にならない

miniri.191114.10.jpg「霜降り肉」にするためのポイントはビタミンA。
生後14か月ごろからは細胞の働きによって肉にサシが入り始めますが、ここでビタミンAをとると、この働きが抑えられてしまいます。

稲わらはビタミンAが少ないので、この時期の餌として重宝されているのです。

特に宮城県産の稲わらは、収穫後に晴れが続きやすい気候のため早く乾燥し、良い品質のまま手に入るので、餌として最適だといいます。

しかし今、農地の稲わらが流されて手に入らなくなっています。

「ちゃんと育つか…」

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仙台牛を育てる伊藤宏さんは「今は輸入した牧草でしのいでいますが、本来は稲わらが必要です。ちゃんと仙台牛に育つか心配です」と話します。

稲わらを仕入れて販売するある業者は、備蓄していた倉庫が被災して半分以上が泥につかり、農家からの仕入れのめども立たないといいます。

地元の大事なブランド牛、「仙台牛」になれる牛が減ってしまうかもしれません。

もはや肥料にも餌にもしづらい

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稲わらの処理について、11月7日、宮城県は、農地に混ぜ込むなど肥料として再利用することを優先してほしいという方針を示しました。

また、牛の餌としても再利用できるのではないかという声もあります。

しかし地域で話を聞くと「すでに腐っているものもあり状態が悪く、ごみなどが混じっているものも多い。肥料や餌として使えるものは限られるのでないか」という声も聞かれます。

再利用という形だけで、たまった稲わらを処理するのは現実的ではないという見方が多いのが現状です。

広がった被害 先行きは

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実りの秋にコメどころを襲った台風。
皮肉にも、コメを収穫し終えていたためにほかの作物や畜産業に影響を与えることになってしまいました。

本格的な冬の到来が迫る中、先行きはまだ見えないものの、被災地で取材をすると、一人一人が懸命に復旧を急いでいると感じます。

今後も取材を続けて現場からしっかりと伝えていきます。

投稿者:加藤陽平 | 投稿時間:11時02分

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