2020年01月31日 (金)感謝は"自宅に"


※2019年11月5日にNHK News Up に掲載されました。

ことしも残すところあと2か月を切りました。この時期になると、各地のデパートで見られるのが年末年始の商戦です。クリスマス、正月の福袋…。ん?ちょっと待って。皆さん、忘れてませんか? かつては、“定番”と言われたあれです。そうお歳暮です。でも、最近はちょっと変化も起きているようで…。

ネットワーク報道部記者 郡義之・ 井手上洋子

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ネットでは

ツイッターでもさまざまなつぶやきがあります。

「お歳暮を考える時期になりましたね。ことしも配り歩きます」
「お歳暮ギフトセンターが立ち上がっていよいよ年末感」

恒例行事として受け止めている声がある一方で、疑問視する、こんな意見もありました。

「無駄な人間関係にお金を使うな。お歳暮やお中元必要ですか?」

ねらいは“自宅用”

ことしの「お歳暮商戦」。デパート各社にどのようなねらいがあるのか、聞いてみました。お世話になった人への贈答はもちろんありますが、その数は減少傾向にあり、自分のために買い物をするいわゆる「自分買い」が増加傾向にあるといいます。そこで各社がさらに力を入れているのが「自宅用」商品の強化です。

“季節感”で勝負

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そごう・西武は、季節感がある食品を多く取りそろえました。「北海道産のいくらのしょうゆ漬け」や「和歌山産のみかん」などといった商品を去年よりも91多い247アイテム用意しました。ラッピングなどを控えて簡易な包装にしていて、あくまで中身で勝負するということです。

高級なものを手軽に

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「自宅でゆっくり楽しんでもらいたい」を打ち出しているのが高島屋。流通量が少ないコロンビア産のコーヒーや人気レストランが提供する塩で包んでじっくり焼いたローストビーフなどを用意しました。本格的な味を簡単に楽しめる品物を中心に考えたということです。

みんなでわいわいと

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「家で仲間と楽しむ」をコンセプトにしたのは大丸松坂屋百貨店です。色とりどりに仕上げられたロールケーキのセットにチーズをたっぷりとつかった迫力のあるピザ。インスタ映えしたり、仲間とわいわい楽しみながら味わえる食品を取りそろえたりしているということです。

データで見るお歳暮

お世話になった人への感謝よりも自分たちが楽しむ形に変わりつつあるお歳暮。データでもうかがい知ることができます。2年に1度、市民の生活実態について調査している博報堂生活総合研究所によると、「お歳暮は毎年欠かさず贈っている」と答えた人は、平成6年は61.8%いましたが去年は27.3%と、34.5ポイントも減っています。

また、「今後もお金をかけたいもの」についても、「お中元・お歳暮」は低迷し続けて去年は25項目中、最下位でした。ちなみに1位は18年連続で「貯金」でした。

人づき合いは面倒くさい?!

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かつては季節の定番の支出と言われたお歳暮。贈る人が年々減る背景について、夏山明美主席研究員は、経済状況と人間関係の変化を挙げています。

「バブルが崩壊して景気の低迷が続き、生活者が消費をおう歌できない中で、何にお金を使うべきか、取捨選択をしたのではないでしょうか。さらに、SNSが発達し、常に他人とつながっている状況で、人との関係に疲れていて、社会よりも自分のことを重視する傾向にあると思います」

そうしたことを裏付けるデータとして、研究所が行った調査では、「人づきあいは面倒くさいと思う」と答えた人が、去年は32%と、10年前に比べて7.9ポイント増加。また「自分にごほうびを買ったことがある」と答えた人は44.3%と、20年前に比べて15.3ポイント増えていて、人々の視線が、他人から自分に向いていることもうかがえます。

手軽に感謝を
一方、手軽な方法で相手に届けることで、もともとのお歳暮の意味を知ってもらい売り込んでいこうという動きも出ています。

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ネット通販大手の楽天がことしから発売を始めたのがポストに投かんできるお歳暮です。宅配便と違って再配達の手間がなく確実に相手の郵便受けに届けられるのが特徴です。

品物は、昆布や箸、それにだしセットなど、かさばらないものを中心に50万点を取りそろえたということです。担当者は「贈る人も受け取る人も配達する人も負担にならず、感謝の気持ちを伝えるものになるとうれしいです」と話しています。

お歳暮の始まりは

そもそも「お歳暮」はどのように始まったのでしょうか。大丸松坂屋百貨店によりますと、かつては「歳暮の礼」と言われ、新年に先祖の霊を迎えるために必要な供物を本家や親元などに持って行く行事だったといいます。

その後、日頃お世話になっている人に感謝するなど、「歳暮まわり」と呼ばれる年中行事が行われるようになり、それが転じて、今では、お世話になった人に1年の感謝の気持ちを込めて年末に届ける贈り物を示すことばになったということです。

時の流れとともに変わりゆくお歳暮。その時代の人々の心を反映していると感じました。

投稿者:郡義之 | 投稿時間:12時02分

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