2018年03月22日 (木)ブランド米 "バブル"!? 魚沼産コシ転落の衝撃


※2018年2月28日にNHK News Up に掲載されました。

一番おいしいコメはどこの産地のもの?
全国のコメの味や香りなどを評価して、毎年発表される「食味ランキング」。ことしは最高の「特A」に43銘柄が選ばれました。一方で、新潟県魚沼産の「コシヒカリ」が初めて「特A」から転落。産地間の競争は激しさを増しています。
でも、コメの消費量は減り続けています。そんな中でブランド米が増え続ける今の状況、“バブル”と懸念され始めています。

ネットワーク報道部記者 管野彰彦・飯田耕太

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<あの魚沼産コシが「特A」から転落>
「かつてはおいしいコメと言えば、圧倒的に新潟、特に魚沼産のコシヒカリだったが、必ずしもそうとはいえない状態になっている」日本穀物検定協会の井出道雄会長の話です。
2月28日に発表された、コメの「食味ランキング」。
日本穀物検定協会が、コメの味や香りなどを審査して、毎年、公表しています。審査は、炊いたコメの
「見た目」「香り」「味」「粘り」「硬さ」
といった項目で総合的に評価し、5段階で格付けします。

bur180228.2.jpg去年、生産されたコメのうち、全国の151の銘柄が出品され、審査の結果、北海道の「ゆめぴりか」や宮城県の「ひとめぼれ」、熊本県県北の「森のくまさん」など43の銘柄が最上位の「特A」の評価を受けました。
(「特A」の一覧は下部に掲載)
「特A」の銘柄は、平成19年産では17銘柄だったので、この10年で2倍以上に増加しています。

bur180228.3.jpg一方、これまで28年連続で「特A」の評価を保ってきた新潟県魚沼産の「コシヒカリ」が初めて1つ下のランクの「A」の評価に転落しました。
南魚沼市の林茂男市長は、「他の産地の追い上げも考えて原因を考えなければならない。もう一度ふんどしを締め直して、みんなで取り返していきたい」と話していました。


<コシヒカリと新ブランドを天秤に>
「特A」の評価を受けると、消費者に味のよさをアピールしやすくなり、コメのブランド力の向上につながることが期待されます。そこで「特A」をとるようなブランド米の生産を目指す動きは各地で盛んになっています。

bur180228.4.jpg2月22日。富山市で新しい品種「富富富」(ふふふ)をPRするイベントが開かれ、新たなロゴとキャッチフレーズが発表されました。

キャッチフレーズは
「うまみ。あまみ。ふと香る」
「ほほえむうまさ、富山から」

作付面積の約75%をコシヒカリが占める富山県。しかし、平成10年から15年にかけて、夏場の高温が続きコシヒカリの品質が低下する事態が起きました。このため、コシヒカリ頼りだった米の生産を見直そうと、富山県が10年以上かけて開発したのが「富富富」なのです。

富山県では、ことしから3年をかけて、市場などでの反応を見ながら「富富富」と「コシヒカリ」のどちらを生産の柱とするかなどを検討することにしています。


<「極わせ」「カレー用」新品種が次々デビュー>
ことしの夏にデビューする高知県の「よさ恋美人」。夏場に高温となる気象条件がコメ作りに不向きとされるなか、14年かけて開発されました。

bur180228.5.jpg食味のよい「コシヒカリ」を暑さに強い品種とかけ合わせたもので、特徴は”極わせ”。7月下旬に収穫できるので、ほかの産地よりも早く収穫して勝負をかける作戦です。

鳥取県では、カレーに合う新しい品種のコメが開発され、去年、初めて収穫されました。その名も「プリンセスかおり」。粒が細長く、粘りのあるもちもちとした食感がカレーのルウによく絡むほか、香辛料を使ったエスニック料理にぴったりだということです。

bur180228.6.jpg実は鳥取市は、総務省の家計調査(平成26~28年平均)でカレールウの購入量が1位なのです。販売促進に携わる県の担当者は「インドなどの品種とかけ合わせて作ったので、本場の香りが楽しめるのが特徴です。売れ行きは好調で、ことしは10倍の生産を目指しています」と話していました。

農林水産省がブランド米をはじめとする食用の銘柄米として認めているコメは753品種。10年間で200品種以上増加しています。新しい品種のコメの生産が増えているのは、「少しでも単価の高いコメを生産したい」という農家のニーズと、品種の改良技術が向上したことが背景にあります。


<でも止まらない“コメばなれ”>
コメの産地間競争が激しさを増す一方で、コメの消費量は年々、減り続けています。

bur180228.7.jpg農林水産省によると、国内の消費量は毎年およそ8万トンずつ減少。1人当たりでは昭和37年度に年間118キロのコメを消費していたのが、平成28年度には半分以下の54キロにまで落ち込んでいます。パンや麺類などを食べるようになった食生活の変化や高齢化が進んだこと、それに人口減少が背景にあります。

この先も消費量が減っていくことが予想されているからこそ、全国の産地で、単価の高くなるブランド米で生き残りを図ろうという動きが起きているのです。

コメの消費量が減る一方で、ブランド米が増加するという“バブル”状態。これからも続くのでしょうか。


<“バブル”は数年で終わる!?>

bur180228.8.jpgコメの生産や流通に詳しい宮城大学の大泉一貫名誉教授は、
「コメの消費量が落ちて、産地間での競争が激しくなった2000年代ごろから、差別化を図るためにおいしいコメをつくろうという動きが活発になり、北海道や東北などでブランド米がつくられ始めた。その結果、売り上げやイメージアップの面で効果が上がり生産者にとっても消費者にとってもメリットが大きかった。

最近は品種改良や栽培技術が進んだことで、日本のどの場所でもおいしい米がつくれるようになり、ブランド米どうしの間で過当競争が始まりつつある。

ブランド米というだけでは差別化が難しくなっていて、ブランド米のブームはこの先、数年で終わる可能性がある。今後は、流通網や販売網の整備に成功したところだけが生き残っていくようになるのではないか」と話しています。

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<産地の思いもかみしめて>
おいしいコメが次々に生まれてくれば、消費者にとってはありがたいことですが、あまりにも競争が過熱して共倒れになってしまっては元も子もありません。

きょう、食卓に並ぶごはんはどこのコメか、産地の思いもかみしめながら、味わおうと思います。


<「特A」評価の43銘柄>
・北海道の「ゆめぴりか」
・北海道の「ななつぼし」
・青森県津軽の「青天の霹靂」
・宮城県の「ひとめぼれ」
・宮城県の「つや姫」
・秋田県県南の「あきたこまち」
・山形県置賜の「つや姫」
・山形県村山の「つや姫」
・福島県会津の「コシヒカリ」
・福島県浜通の「コシヒカリ」
・福島県会津の「ひとめぼれ」
・福島県中通の「ひとめぼれ」
・茨城県県北の「コシヒカリ」
・栃木県県南の「とちぎの星」
・埼玉県県東の「彩のきずな」
・神奈川県の県央・湘南・県西の「はるみ」
・新潟県上越の「コシヒカリ」
・新潟県下越の「コシヒカリ」
・新潟県佐渡の「コシヒカリ」
・福井県の「コシヒカリ」
・福井県の「ハナエチゼン」
・福井県の「あきさかり」
・長野県北信の「コシヒカリ」
・岐阜県美濃の「コシヒカリ」
・岐阜県飛騨の「コシヒカリ」
・三重県伊賀の「コシヒカリ」
・滋賀県の「みずかがみ」
・京都府丹波の「キヌヒカリ」
・兵庫県県北の「コシヒカリ」
・兵庫県県南の「きぬむすめ」
・島根県の「つや姫」
・岡山県の「きぬむすめ」
・山口県県西の「きぬむすめ」
・高知県県北の「にこまる」
・福岡県の「夢つくし」
・福岡県の「ヒノヒカリ」
・佐賀県の「夢しずく」
・佐賀県の「さがびより」
・熊本県県北の「ヒノヒカリ」
・熊本県県北の「森のくまさん」
・大分県豊肥の「ヒノヒカリ」
・大分県西部の「ひとめぼれ」
・鹿児島県県北の「あきほなみ」

投稿者:管野彰彦 | 投稿時間:13時59分

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