2014年09月12日 (金)" いろ " を楽しむ視覚障害者


視覚障害がある人に、おしゃれを簡単に楽しんでもらおうと、服に取り付けて指で触れば、微妙な色の違いや、上着とスカートを「似た色」で組み合わせるといった、コーディネートの仕方もわかる特殊なラベルが開発され、ファッション分野のバリアフリーを広げる新たな取り組みとして注目されています。


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【色を知りたい】

先月、京都で開かれた視覚障害者のための「カラーコーディネート講座」。

服を買う際、店員にうまく伝えられるよう、自分に似合う微妙な色合いまでアドバイスしてくれます。


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去年から始まり、これまでに計7回、100人以上が受講しています。

受講者からは、「おしゃれが好きなので、自分に似合う色をもっと知りたい」といった声が聞かれました。

視覚障害がある人の間で高まる“いろ”を楽しみたい、というニーズ。

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しかし、こうした人たちが、誰かにアドバイスを受けずに自分で服を選ぶことは、なかなか難しいのが実情です。


 

【服選びの悩みは】

視覚障害がある人は、毎日どのように服を選んでいるのか。
 

東京都内で1人暮らしをする高橋玲子さんは、手触りや形で服を区別するようにしていますが、次第に忘れてしまい、左右で色の違う靴下をはいてしまったこともあったといいます。

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そこで高橋さんが購入したのが、センサーで色を感知し、音声で知らせてくれる機械です。


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しかし、便利なこの機械も、ピンクや紫といった中間色の服では、センサーを正確に生地に押し当てないと、うまく識別できないことがあるといいます。


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高橋さんは、「生地の性質の違いや光の反射の仕方などが影響しているのかも知れません。正確に色を区別するために複数の手段がほしいです」と話します。


 
【視覚障害者の色の世界は】
 

こうした悩みに応えるには、どうすればよいのか。

色彩感覚を研究している日本女子大学の非常勤講師・佐川賢さんは、まず、視覚障害がある人たちが、見えない色を、どのように認識しているのか調べました。

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全盲の人16人に協力してもらい10色の中から2色を示し、そのイメージの違いを5段階で評価してもらうという実験を繰り返しました。
例えば、青と赤のように、正反対の色と感じれば5、逆に、黄色とオレンジのように、最も似通った色と感じれば1、と回答してもらいます。

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5であれば対局の位置に、1であればすぐとなりに書き込んでいきます。

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結果をグラフにすると、10色がほぼ円の形に配置されました。

実験に協力したほとんどの人が同じような傾向を示しました。

これは、一般的に使われている、色と色の相関関係を円の形で表した「色相環」と呼ばれる図と一致しています。

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全盲の人も、日々の会話を通じて、障害がない人と同様の、色の認識の仕方をしていることがわかったのです。
佐川さんは、「実験の結果が輪の形になったときは、非常にびっくりした」と話します。


 

【「カラータグ」とは】

こうした実験結果を受けて佐川さんが開発したのが、服に取り付ける、「カラータグ」と呼ばれるラベルです。


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「色相環」を元に、色を円の形に配置したタグのデザインを考案し、真ん中には白・灰色・黒も配置しました。


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「カラータグ」には10種類の色の位置につけられたふくらみや穴があり、手で触ると、原色から中間色まで分かるようになっています。

例えば、オレンジを表すタグでは、赤の隣で、反対色にあたる青の対局に穴があいています。
 
内側に穴があいていれば薄い色を示しています。

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こうすることで、計23色を区別することができるのです。

色の区別だけでなく、色と色の組み合わせにも役立つのが特徴です。
似た色を組み合わせて統一感を楽しんだり、「反対色」で、互いの色を引き立てたりすることができます。


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【カラータグの効果は】

おしゃれに悩んでいた高橋さん。
開発された「カラータグ」を試してみることにしました。

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高橋さんは、服に取り付けられた「カラータグ」を指で触っただけで服の色を次々と正確に言い当てることができました。


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「カラータグ」を使えば、コーディネートも含め、今まで以上に、手軽におしゃれが楽しめることを実感したといいます。
 
高橋さんは、「色の名前は知っていても、色同士がどんな関係にあるのかは知りませんでした。これまで、色の組み合わせも、いちいち周囲の人に教えてもらわないと、なかなかわかりませんでしたがすべての洋服にこのタグがつけば色がもっと身近になると思います」と話していました。

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【注目されるカラータグ】

この「カラータグ」、採用を決めたアパレルメーカーも現れたということです。
 
柄や複雑な色をどう表現するのかまだ課題は残されていますが、バリアフリーへの取り組みは、いま、おしゃれの分野にも広がろうとしています。



 

【取材後記】

全盲の人でも、すべての人が生まれながら目が見えないわけではありません。
中途失明の人は、色の記憶がある人もいますし、逆に、弱視の人の中には、なんとか目は見えているものの、色は区別しにくいという人もいます。

こうして、視覚障害があるといっても、色についての認識はさまざまですが、取材をさせていただいた方々は、みな色について強い関心を持っていました。
純粋におしゃれが好きだからという話はもちろん、自分は見えなくても人には見られているので、そこを意識して、似合っている服を選びたいとか、赤で情熱的になど、その色のイメージを使って自分の気分を表現したいといった声が聞かれました。

単純に色を区別するだけなら、点字でラベルを作り、取り付けるという手段もあるかもしれません。
また、目印になるようなボタンを自分で縫い付けたり、袋に入れて仕分けをしたり、事前に組み合わせてつり下げておくようにするといった方法で区別している人もいました。

ただ、カラータグの特徴は、なんといってもコーディネートに活用できる点です。
最初に色の配置さえ覚えておけば、よりおしゃれな着こなしが考えられます。健常者にとっても歓迎すべき取り組みだと思います。
 
取材を通して、視覚障害のある人が、自力で色を楽しみたい、おしゃれをしたいという思いとともに、もっと色について健常者と話をしたいという思いを知りました。
色について話したら悪いのではないか、色はわからないのではないかなどと思われ、ふだん、色についての会話が少ないが、身の回りのものにはすべて色があり、わかる色が増えるたび、世界が広がるというのです。
いざ話してみると、見えていない人にその色をどう伝えるかはなかなか難しく、新鮮な会話になるはずです。
カラータグが普及し、そのきっかけになればと思います。

 

投稿者:三瓶佑樹 | 投稿時間:08時00分

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