2013年12月20日 (金)損害賠償に苦しむ自殺遺族


自殺する人は年間3万人。そうした家族を自殺で亡くした遺族に対する心のケアの重要性は認識されるようになっています。しかし、こうした人たちが経済的なトラブルに直面して困っている実態はほとんど知られていません。亡くなった現場が賃貸アパートだった場合、家主から高額な賠償金を請求され、悩みを声に出せずに苦しむケースが相次いでいるのです。どのような実態があるのか取材しました。

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2年前、都内のアパートで1人暮らしをしていた女性が自殺しました。うつ病が原因と見られています。母親は、女性と数日間連絡が取れず心配になって部屋を訪ねましたが、すでに亡くなっていました。その時のことを母親は「つらかったです。親として、なんで自分の命を絶たなきゃいけないんだっていう気持ちになって、悲しいよりは悔しかった方が大きいですね」と振り返ります。

しかし、悲しみにくれる間もなく遺族には思いもかけない事態がふりかかりました。遺体が見つかったその日からアパートの家主が賠償金を支払うよう求めてきたのです。資産価値の減少は大きく、長期間にわたって借り手が見つからない恐れがあるとして、5年分の家賃と部屋の改修費、さらに、隣接した部屋の住人にも精神的苦痛を与えたとして、200万円の慰謝料も含む合計420万円を連帯保証人である遺族が払うよう求めていました。

jisatu20131220-2.jpgこうした場合、遺族がどこまで責任を負うかは明確な基準がありません。自殺をめぐる問題に詳しい弁護士によりますと、判例では家賃の損害賠償や改修費用は認められても、隣人への慰謝料の支払いを認めた例はないということです。

jisatu20131220-3.jpg母親は「こっちは亡くなられて親としてはすごくつらくて、何しろパニック状態でいたときにそういう風に言われて。ただ、『すみません、すみません』と言うことしかできなかったです」と言います。母親は弁護士を通して1年間にわたって交渉した結果、家主が減額を受け入れ、家賃2年分と改修費あわせて100万円余りを支払うことで決着しました。しかし、その後も心の傷は癒えていないと言います。
 

遺族にさまざまな名目で請求がつきつけられるケースは相次いでいます。仙台市の田中幸子さんは、長男を自殺で失ったことをきっかけに、5年前、全国の遺族を支える連絡会を作りました。当初は遺族の心のケアが目的でしたが、家主からの損害賠償の請求に苦しむ相談が毎年50件以上も寄せられ、驚いたと言います。

jisatu20131220-4.jpg中には外壁や屋根を改修した上で、建物と土地をすべて買い取るよう1200万円を要求されたケースやマンションを丸ごと建て替える費用として1億円あまりを請求されたケースもあります。田中さんは、声を上げられない遺族は多く、田中さんの元に寄せられている相談はほんの氷山の一角だと考えていて、「まだまだたくさん泣き寝入りして本当に誰にも言わずに支払っている人たちもたくさんいるんだと思います」と話しています。

jisatu20131220-5.jpg一方、家主などでつくる団体は、法外な請求を行うケースは一部だとした上で、借り主の自殺による影響は極めて大きいと訴えています。日本賃貸住宅管理協会の担当者は「自殺物件に当たればすぐに次の方が決まるとは考えにくい、あるいは1年あるいは2年、下手したら3年もね覚悟しなければならない。結局、請求できなければ全部オーナーがかぶるということになりますから、オーナーにとっては死活問題になりかねないですよね」と話していました。

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家族を失った遺族が高額の損害賠償に対応するのはとてもつらく、家主にとっても負担は大きなものがあります。双方にとっての問題は、どこまでを損害と認めるかなどの明確な基準がないことです。不動産問題に詳しい上野晃弁護士は「オーナーにもオーナーの事情があって、やはり金銭的な請求を出来るだけしたいのが本音。しかし連帯保証人になっている遺族からすると、実際に客観的にどの程度負担すれば自分は責任を果たしたと言えるのかどうかというのが明確ではない。双方が不安に駆られて過剰な争いになってしまうといったことを防止するためには行政機関がガイドラインを示すなり何なりといった対応が、非常に早急に求められていると思います」と指摘しています。

jisatu20131220-7.jpg国もこの問題について把握していますが、具体的な解決法を定める道筋は見えていません。遺族の中には家族を自殺で失ったことを打ち明けられない人も多いため、この問題はあまり表面化してきませんでした。遺族を支援している田中さんの団体では、多くの事例を集めて不当な請求が行われないよう国に対策作りを働きかけることにしています。

     

投稿者:山本未果 | 投稿時間:08時00分

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