2019年12月19日 (木)そろそろ当たり前?? 男性の育休


※2019年9月30日にNHK News Up に掲載されました。

尋常ではない痛みを乗り越えて、ようやく出会えた赤ちゃん。2人の愛の結晶のはずなのに、育てるのは私ひとり?夫には「育休?誰も取ってないし…」と言われ、ほぼ父親不在の「ワンオペ育児」。そんな家庭は今でも少なくないと思います。30日発表された国家公務員の男性の育休取得率は、初めて20%を超えましたが、民間はまだ6%程度です。でも、取材してみると、人手不足のはずの介護業界で、男性社員に育休を取らせてみたという会社がありました。当たり前のようで当たり前とは言いがたい、“男性の育休”。取らせてみた結果は…?

ネットワーク報道部記者 有吉桃子

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現場に走った“衝撃”

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取材に訪れたのは、介護事業を行っている東京の会社「ライフタイムメディ」。去年の夏、1人の理学療法士の男性から、突然、「育休を取りたいんです」と申し出がありました。彼が所属する杉並区の事業所の訪問看護スタッフは、総勢19人。このうち理学療法士は7人しかいませんでした。

sorosoro.190930.3.jpg「『え?!どういう意味?!』というのが最初の感想でした」

代表取締役の金子正樹さんは、正直に話してくれました。

「自分も子育て世代ですが、育休は取りませんでした。出産には立ち会う予定でしたが、結局、仕事で間に合いませんでした。男性が育休ってどうなんだ?と思いました…」

それでも金子さんは、すぐに男性の育休取得を促進する東京都のセミナーに参加しました。

「3か月間、どうやって経営していくんだという思いもあったんですが、セミナーで男性の育休は大切なんだと認識できました。彼には『まずは何も考えずにやってみよう』と伝えました」そして、男性が育休に入る2か月ほど前に、従業員を集めて理解を求めました。「『彼が一時的に休みます。なるべく新しい人を雇いたいと考えていますが、必ずできるかどうかわからないので、一人ひとりの仕事内容を濃くして、3か月やってもらっていいですか』と呼びかけました。現場は正直、揺れましたよ。いきなり1人いなくなるわけですから。でも『今は自分が支える側だけど、逆に支えられる側になってもいいように、ひとつのデモとしてやってみようよ』と。仕事は1.2倍ぐらいに増えるイメージで、不満はあったと思います」

同僚も『えっ?!』

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ほかの社員も最初は驚いたといいます。

看護師の嶋口みどりさんは、「最初は『えっ?!』という感じでしたよね。3か月いなくなるっていうことは、スケジュールとか、ちょっと大変になるかなと思ったんですけど、時代の流れというか、女性が妊娠したり出産したり育児したりする環境が整ってないと子どもも増えないし、小さな会社ですけど、やってみようという感じになりました」

まずはスケジュールをやりくり

しかし、新たに人を採用しようという計画はうまくいきませんでした。そこで、1人あたり60分ほどの訪問看護をこなす件数を1日に5件から6件に増やしたり、利用客の協力を得て、1回あたりの時間を40分に短縮してもらったりすることにしました。

同僚の嶋口さんは、「厳しかったですが、育休を取ったのが一緒に長く働いてきた人なので、みんなそれなりに理解して、飲み込んで頑張りました。私自身、出産を機にいったん仕事を辞めたので、ちょっとでも女性の社会進出のお手伝いが出来ればという気持ちです。昔と違って女性だけが子どもを見るんじゃなくてそのご主人も一緒に負担を分け合うのはいいことですよね」と話していました。

「育休を取りたい」本人は

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育休を取ったのは、理学療法士の宝田陽介さん(34)。第2子の誕生に合わせて取得しました。赤ちゃんは、生後1か月の健診までは、外出を控えなくてはいけません。

その間、第1子の長女を保育園に送り迎えする人がいないことから、育休を申し出たといいます。

「希望というよりも必要に迫られてでした。赤ちゃんを置いて妻が送り迎えに行くわけにも、おぶって行くわけにも行かないし、親も仕事をしているので、送り迎え要員が最低1か月はいるなというところから調べ始めて、会社や同僚と相談しました。制度としてはもちろん取れるけど取れて当たり前じゃないというのは分かっていましたし、みんなが必ず取るものでもないので、周りがどう感じるかというのはやっぱり不安でした」

使えるものは…

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代表取締役の金子さんが目を付けたのは、連続で15日以上、男性に育休を取得させた企業に奨励金が支給される東京都独自の事業です。最高で300万円が支給される制度で、国の助成金と合わせておよそ160万円が会社に入りました。

目に見える形で従業員に還元しようと、3年、5年、10年以上勤めた人への永年勤続表彰制度を作り、一時金を渡すことにしました。

育休、取らせてみたら
同時に、1日単位ではなく、時間単位で有給休暇を取得できるようにするなど、働き方改革も進めました。その結果、宝田さんが休んだ3か月の間、残業時間はほとんど増えなかったといいます。

こうした改革の影響もあってか、社員の平均勤続年数は、3年前の「3年強」からことしは「5年弱」まで伸びたということです。

社員の定着率が上がったことで、思わぬ恩恵もありました。経験を積んだ社員がより質の高いサービスを提供できるようになり、昨年度の売り上げは前の年度に比べて7%ほど増えたというのです。

「一時、業績が伸び悩んでいましたが、背景には、社員の定着率の低さがあったと考えています。同業他社との競合が激しくなる中で、スタッフを育成していかないと良いサービスを提供できません。スタッフ側の働きやすさ、安心感は、会社が提供していかなければいけないと思っています」(金子さん)

金子さんは、宝田さんが休んだ分の仕事をカバーした社員に配慮して慰労会を開いたり、宝田さんとも月に1回は会って、「復帰したらばりばり働いてほしい」というメッセージを伝えたり、いろいろな気配りにも努めたそうです。

育休、取ってみたら

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宝田さんは、育休を取得したことで、第2子の赤ちゃんの世話はもちろん、3歳の長女のケアを出来たことが収穫だったと言います。

「それまでは『ママ、ママ』という感じで、妻でないと対処出来なかったことがあったんですが、僕も携わるようになって、僕で済むことが多くなりました。妻の負担が軽減されて、感謝されたので、妻にとっても自分にとっても、子どもにとっても最高の時間でした。夫婦で働いているので、1人で家事や育児をするのは大変です。片方だけがやって疲れてしまうと、子どもの泣き声に腹が立ったりして、何かにしわ寄せがいくと思います。2人でやってもありますけど、1人でやるより少なくて済むと思います」と話していました。

まだまだ厳しい現実が
宝田さんの育休取得は、理想的な成功事例かもしれません。ただ、一般的には、男性が育休を取得するにはまだまだ高いハードルがあるのも事実です。

sorosoro.190930.8.jpg30日発表された昨年度の男性国家公務員の育休取得率は21.6%。初めて20%を超え、6年続けて過去最高を更新しました。

一方で、民間企業の育休取得率は、厚生労働省の調査によると、昨年度は、女性は82.2%でしたが、男性はわずか6.16%でした。年々増えてはいますが、2020年度には13%にするという政府の目標には遠いのが現状です。

一方で、転職サイトの運営会社「エン・ジャパン」が35歳以上の男女およそ2500人を対象に行ったアンケートでは、男性の86%が育休を取得したいと答え、全体の53%が男性の育休取得義務化に賛成すると答えました。取得率が低い理由については、「社内に取りやすい雰囲気がない」、「制度が十分でない」といった声が多く寄せられました。

取りたいのに、取れない

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こうした状況について、奨励金の事業を進めている東京都の外郭団体「東京しごと財団」の谷口将太雇用環境整備課長に聞きました。

谷口課長は「特に中小企業では、そもそも休みを取らせたくても取らせにくかったり、従業員側からすると、育休取得を言い出す風土や環境がないので言いづらいといった壁があります。そこで、企業側に奨励金を出すことで、育休を取得させやすくするとともに、従業員側も『こういう制度があります』と育休の取得を企業側に申し出やすくなると考えています」と話しています。

ただ、今回の取材で、奨励金を利用した複数の企業に取材を申し込みましたが、「たまたま仕事の都合と休む時期が合って、1人取得しましたが、ほかの人が同じように出来るわけではないので…」とか、「特に会社として推進しているわけではないので…」と言って、取材を断られるケースもありました。

谷口課長は「『パパ』が育休を取りづらいという風土はまだまだあって、ためらう人もまだ多いと思います。急には変わらないと思いますが、長い目で見て、だんだん広がっていくように制度についても周知していきたいです」と話していました。

育休取得の恩恵を受けた金子さんにも、どうすればいいのか、アドバイスをもらいました。
「『チャレンジして気づきあり』だと思います。『医療業界だから出来ない』とか、そういうのはやめようと従業員にも言っています。男性の育休、今が旬だと思いますよ」(金子さん)

会社の事業内容や規模、人員や上層部の意識。事情はさまざまで、まだまだ男性が育休を取得しにくい企業が多いのが実情だと思います。ただ、人手不足が深刻化する中、専門性も求められている介護業界で、こうした成功例があるということは、試してみる価値はあるのではないかと思いました。

思い切って、男性社員に育休、取らせてみませんか?

投稿者:有吉桃子 | 投稿時間:10時44分

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