2021年07月20日 (火)コロナ禍での出産 マスクはつけるべき?


※2020年7月17日にNHK News Up に掲載されました。

コロナ禍でも日々、生まれる新しい命。SNS上では、出産した人たちの間でこんな情報交換が盛んです。「分べん台で7時間マスク着用。苦しかった」「酸素足りなくなったりして大変だからつけないで!って言われた」どっちなの?取材しました。

ネットワーク報道部記者 有吉桃子・大石理恵


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7時間マスク着用

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「緊急事態宣言発令から約10日後の出産でした。分娩台で7時間マスク着用、水を飲んだ後戻し忘れたら直すよう注意。立ち会い不可でその水も十分飲めない、あおいでくれる人もいません。あげく体温38.5度まで上がりコロナを疑われました。もうろうとしていきめず余計に時間がかかる、悪循環でした。苦しかった」

投稿したのは、4月中旬に東京都内で出産したないんちぇさんです。

ないんちぇさんは、分べん時のマスク着用について事前に知らず、当日も特に疑問に思わず出産に臨みました。ところが、次第にマスクに耐えられなくなりました。

ないんちぇさん
「とにかく暑くて苦しかったです。立ち会い出産もできなかったため、あおいだりさすったりしてくれる人もおらず、熱がこもりました。マスクをつまんで浮かせてみたりしましたが、分べん台のレバーを握ったり腰を押したりするために手を使いたかったので続きませんでした」

水を飲むためマスクを外し、そのままにしているとスタッフに注意されることも。体温も38度5分まであがってうわごとを言う状態になったそうです。

ないんちぇさん
「もうろうとする頭を振り絞って、ぬれタオルをもらってもすぐにぬるくなってしまい、保冷まくらをもらってようやく生き返った気がしました」

当初、「1時間くらいで産まれるよ」と言われていたそうですが、実に7時間かかりました。

その苦しい体験から同じ時期に出産した人たちとSNSでこんなやり取りをしたそうです。

別の女性
「陣痛中に苦しくて暑くてたまらなかったので外させてほしいと申し出てもだめだと言われ、最終的に酸素マスクを着用した」

別の女性
「普通のお産でさえうまく息ができないのにマスクをつけて陣痛に耐え、少しずれたらなおしてと言われ、うまく息ができず分べんもなかなか進まなかった」

ないんちぇさんは、コロナで変わった分べん室の状況を多くの人に知ってもらい、今後に役立ててほしいと言います。

ないんちぇさん
「妊婦がマスクを着用しなくて済むように産科にも医療スタッフが着用する防護服を配備するか、妊婦さんに事前に説明し、保冷まくらや扇風機などを用意するなどの対策をとれるようにしてほしいです」

マスクなしで出産した人も

一方、病院からマスクをつけなくていいと言われた人もいます。

koronaka.20200717.3.jpg「うち緊急事態宣言中の出産でしたが病院側からマスクつけての出産は酸素足りなくなったりして大変だから付けないで!て言ってくれました」

投稿したおつむさんはことし5月に札幌市内で出産をしました。妊娠後期の検診で、医師から「分べん中は呼吸がつらくなるからマスクはつけなくていいですよ」と言われたと言います。

産科病棟がほかの病棟から隔離されているような状態で、分べん中だけでなく入院中もマスクなしで生活できたそうです。

おつむさん
「お産中はちゃんと息をしなければと思っていましたが、どうしても息が乱れてしまいました。後半は意識が半分なくなりかけて、あまり覚えていないのですがとにかくつらくて、最終的には私自身が呼吸をうまくできなくなり、酸素マスクをつけての出産になりました。マスクなしでもこれだけつらかったので、みんながマスクなしで出産できるようなすべがないのかどうにか考えてほしいです」

原則、全員マスク着用

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聖母病院

病院側ではどう考えているのか?

年間1500件の分べんを担う東京・新宿区の聖母病院では、出産する女性は原則、全員にマスクを着用してもらっています。というのも、陣痛の痛みを逃すために深呼吸をしたり、いきんだりすることで、陣痛室や分べん室に飛まつが飛ぶと考えられるからです。しかもそれが長時間続くのです。

立ち会う医療者もN95と呼ばれる高性能の医療用マスクやガウン、手袋やフェイスシールドで防護していますが、お産をする人が無症状で感染している可能性もあることから、医療者や周りの妊婦さんたちに感染を広げないため、分べん中もマスクを着用してもらうことが必要だといいます。

koronaka.20200717.5.jpg聖母病院産婦人科医師 宮越敬副院長
「本来であればマスクなどない状態で自由に出産してもらいたいですが、ひとたび院内感染がおきれば、外来や病棟機能がストップし、多くの人の出産に影響が出るおそれがあります。コロナウイルスの感染が続く今の状況では、予防第一の対策を取らざるをえません」

健診でPCR検査するけれど

東京・文京区にある東大病院では、すべての妊婦さんに健診時にPCR検査を実施しています。

しかし、「偽陰性」の可能性があることや、検査から分べんまでの数週間に感染する可能性があることを考え、院内感染を抑制するために分べん中の女性にマスクの着用をお願いしているそうです。

koronaka.20200717.6.jpg病院によると、分べん室では妊婦さんの状態を十分に監視できる環境が整っているため、一般的なマスクの着用で酸欠などお母さんと赤ちゃんに危険なことが起こる可能性はないとしています。

ただ、分べん中の女性が「マスクが苦しい」とか「マスクを外したい」と訴えた場合は外してもらうなど適宜、対応を取っているそうです。

統一の指針“考えていない”

では、分べん時にマスクを着用してもらっている病院はどのくらいあるのでしょうか。

日本産科婦人科学会がことし5月に全国766の分べんを行っている施設に聞いたところ、64%の施設で分べん時に産婦さんがマスクを着用すると答えました。

また、学会として統一した見解は出さないのか、木村正理事長に聞きました。

koronaka.20200717.7.jpg日本産科婦人科学会 木村正理事長
「地域によって感染状況も大きく違いますので学会として統一した指針を出すことは考えていません」

そのうえで木村理事長は考え方のポイントを挙げてくれました。

▽現状ではPCR検査を実施したとしても100%正しい結果が得られるわけではない。

▽マスクをしても完全に感染が防げるわけではないが、医療者側と患者側双方が着用すればリスクは確実に下がる。

▽もし院内感染が起きれば多くの患者に迷惑がかかるため日々、院内感染のリスクをゼロに近づけるべくどこの病院も努力している。

▽マスクをつけていてもつけていなくても、体内の酸素飽和度に影響はない。

▽ほとんど感染者が出ていない地域でまで義務づける必要があるのか。

▽どうしても苦しいという患者さんにまで着けてもらう必要があるか。


木村正理事長
「分べん時に産婦さんが大変なことについては理解していますが、みんなが少しずつ不自由をしている中なので、協力してもらえる方にはマスクの着用をお願いしたいと思っています。感染予防のためには手洗いやマスクの着用など地道な対策を繰り返していくことが最も重要だと考えるからです」

地域医療を守るために

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分べん室にまで及んでいる新型コロナウイルスの影響。関東地方で長年、出産を扱っている産婦人科医院では、マスク着用をぜひ、理解してほしいと言います。

病院関係者
「もし感染者が出てほかの妊産婦さんがホテルや自宅などで待機することになったら、産婦人科の医師がいない状況で誰が体調を管理するのか。分べんを停止せざるえなくなった場合に、出産を控えたお母さんたちが近隣の病院に転院できるのか。赤ちゃんが感染した場合、どのような対応を取ればいいのか、そうしたことを考えざるを得ません」

この病院では、不織布のガウンや医療用マスクなど感染予防に欠かせない物資が不足する状態が続いていて、あの手この手を使ってなんとか物資を手に入れているそうです。

病院関係者
「病院としてもゴーグルや医療用マスク、ガウンなどを確保し、学会が推奨する感染予防対策を取っています。スタッフも妊婦さんが苦しそうだと思う気持ちもありますし、新型コロナウイルスがなければ、こんなお願いをしなくて済むのですが、こうした状況を理解していただけたらと思います」

投稿者:有吉桃子 | 投稿時間:13時30分

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