2020年03月19日 (木)男の子がスカートはきたいと言ったら?
※2019年12月11日にNHK News Up に掲載されました。
男の子は青、女の子はピンク。
子どもの洋服やおもちゃの色、それって誰が決めたんでしょうか?
男の子が「スカートをはきたい」と言ってはダメなんでしょうか?
いま、さまざまな現場で性別にとらわれず自分らしい生き方を選ぶ人たちが増えています。
令和の時代に広がる「ジェンダーレス」とは…
ネットワーク報道部記者 管野彰彦・ 野田綾・ 石川由季
男の子にコスメ指南
先日、中学2年生の次男を化粧品売り場へ連れて行ったという投稿がネット上で話題となりました。
(記者注:BA=ビューティーアドバイザー=美容部員)
このツイートには賛同の声が多数、寄せられました。
「ステキなお母さん」
「次男くん幸せですね」
「お二人共楽しそうなのが凄い良いです!」
ツイートを目にしたとき、私(石川)は2歳の息子が通う保育園とのやり取りを思い出しました。
ことし3月、連絡ノートに保育士さんが書いてくれた内容です。
「きょうは女の子が髪の毛を結んでいるのを見て『僕も!』と言うので、『男の子は結ばないよ』と言うと半べそになっていました」
2歳になって少しずつ自分の気持ちをことばで伝えられるようになってきた息子がぐっと涙をこらえる顔が頭に浮かぶのと同時に、「男女の違い」を気にしていないこんな小さなときから性別によって周りが対応を変えてしまっていることにはっとさせられました。
私は担任の保育士さんにこう返事を書きました。
「手間でなければどんどん結んであげてください」
でも、もし息子がもう少し大きくなって「お化粧をしたい!」と言ってきたら、私は一緒にコスメカウンターに行ってあげられるかな…。
「○○らしく」はどこから?
そもそも、男の子が化粧したりスカートをはいたりすることや、女の子が戦隊ヒーローのおもちゃで遊んだりすることは“おかしい”ことなんでしょうか?
ジェンダーに詳しい関西学院大学総合心理学科の桂田恵美子教授に聞きました。
桂田教授は“おかしいかどうか”はそれぞれの価値観の問題だとしたうえで、次のように指摘します。
桂田教授
「本来はそれがダメだという正当な理由はないはずです。しかし、私たちの中にある規範意識が『男の子は、女の子はこうあるべきだ』という考えにさせているのだと思います」
これまでの社会が作り上げてきた性別の偏見、“ジェンダーバイアス”を知らず知らずのうちに大人が子どもたちにも押しつけているのかもしれないというんです。
では、子どもたちは男女の違いをどのように認識していくのでしょうか?
桂田教授
「子どもは2歳ぐらいになると自分が『男』か『女』かを表面的に理解するようになります。そして、『男の子』『女の子』として扱われていくうちにその違い(性差)がどんどん広がっていくと考えられています。その後、5歳ぐらいになるとアイデンティティーとして確立していきます」
桂田教授は冒頭で紹介したツイートについて、次のように話してくれました。
桂田教授
「すごいなと思いました。同じように対応してあげたいと思っている人は少なくないと思いますが、実際にそのようにできるかというと今の社会では難しい面があると思います。ただ、ジェンダーでしばってしまうと、その子の可能性を狭めてしまうかもしれず、ジェンダーフリーの世の中に変わっていく必要があると思います」
“何で遊んだっていいじゃない”
実はいま、ジェンダーにとらわれないさまざまな取り組みが広がり始めています。
クリスマスのイルミネーションが街を彩るこの時期。
おもちゃメーカーでは子どもたちの個性に合わせたニーズにいち早く対応しようと動き始めています。
都内の大手メーカーはこの夏、人気のお世話人形のシリーズに男の子セットを追加しました。
ディズニーの映画「トイストーリー」のキャラクターのコスチュームを着た、口をきゅっと結んだわんぱくそうな男の子の人形に、くしやめがね、それに絵本がセットになっています。
これまでラインナップには無かった男の子の人形をどうして作ることになったのか。
メーカー担当者
「お世話遊びは優しさをはぐくむなど成長過程で大切な遊びで、男女問わず保育園や幼稚園で遊んでいる姿を目にします。男の子のお母さんから、女の子の人形だけでは息子に買い与えづらいという声が出ていました」
パッケージも青にするなど男の子も手に取りやすい工夫をしたところ、「息子に買ってあげたくなった」などという声が寄せられたということです。
メーカー担当者
「男の子も女の子も関係なく遊べることの一助になってくれればと思います」
また別のメーカーからは最近のDIY女子のブームを意識したねじや板、電動ドライバーなどが入った、女の子向けのおもちゃが登場。
販売をはじめると男の子も多く買い求めたということで、この企業では男女を問わず楽しめるセットをシリーズに追加しました。
メーカー担当者
「子どもは性差関係なくほしいおもちゃを自由に選択する傾向がある。ジェンダーレスのおもちゃのニーズは今後高まると思う」
一通の手紙がきっかけ“制服自由化宣言!”
ジェンダーレスは保守的と言われる学校の現場でも。
女子の制服と言えば、どんなに寒くても動きにくくてもスカートが一般的ですよね。
その「当たり前」に声をあげた女の子がいます。
東京・中野区に住む中学1年生の女の子は小学6年生だった去年12月、酒井直人区長に手紙を手渡しました。
タイトルは「制服自由化宣言!をしてほしい」。
手紙では「心にあった制服を選べる」「女子の身体を守れる」などと“うれしいポイント”を紹介したうえで、スカートをはきたくない女の子とはきたい男の子、トランスジェンダーの子、みんなが喜ぶと訴えています。
クラスの女子児童に行ったアンケート結果も添えられ、最後はこうした取り組みで『自分らしく自由でもいいんだ!と分かる町になる!』と締めくくられています。
手紙を書いた女の子
「サッカーが好きで小学生のころからずっと動きやすいズボンをはいていたので、中学校になってもはき続けたいと思っていました。自分だけじゃなくてどこの学校でも好きな制服が着られるようになればいいなと思って手紙を渡しました」
当初、彼女自身も「制服のスカートをはかない」という選択をすることに少し不安があったそうですが、女らしさや男らしさをテーマにした道徳の授業で先生がクラスのみんなに「男の子でもスカートはいたっていいんじゃない?」とかけたことばが背中を押してくれたそうです。
この手紙をきっかけに中野区のすべての中学校ではことしの春から女子についてはスカートかスラックスか選択できるようになりました。
一方、男子についても制服を自由に選べるよう酒井区長が各中学校長に依頼しているということです。
手紙を書いた女の子
「例えば周りから『スラックス、似合っているね』って言われるとうれしいけど私にとっては特別なことではなくてこの制服がありのままで、普通の姿。大人には固定観念に縛られないで子どもが『したい』ということをさせてあげてほしい」
りゅうちぇるさん「理解できなくても信じて」
「男らしさ/女らしさ」を超えて自分らしく生きていくとはどういうことなのか。
それを実践している人に話を聞きました。
りゅうちぇるさん
個性的な『カワイイ』ファッションで男女問わず多くの人から支持されているタレントのりゅうちぇるさん。
小さな頃からメイクや人形遊びに興味があったそうです。
でも学校では牛乳を飲むときのしぐさが「女の子っぽい」などとからかわれたり、戦隊もののショーを見て泣いてしまったりするなど、周りから浮いているような居心地の悪さを感じてきたといいます。
りゅうちぇるさん
「自分の好みが周りの男の子と違うからとイメージを決めつけられ、一般的な男らしさと自分の生きやすさとの間の大きな溝を感じていました。男の子はこうあるべきと強要され、自分はおかしいのではないかと感じて悲しかったのを覚えています」
自分を苦しめてきた「男らしさ」とはなんなのか。
その基準はさまざまだということを父親になってから知ったといいます。
りゅうちぇるさん
「結婚して親になり、守るべきものができてさらに頑張っていこうとする姿に『男らしい』という声が寄せられたとき、とてもうれしく感じました」
性別のイメージに縛られることなく自分の生き方を貫くりゅうちぇるさんはいま、親としてどのように子どもと接しているのでしょうか。
りゅうちぇるさん
「僕は息子にお人形を買ってあげましたよ。1歳ですけど、自分が親から受けた愛情をそのままお人形に向けて、ベビーと呼んでいつもかわいがっています。そうやって優しい男の子に育っていってくれるのだと思います」
そして、子どもとの向き合い方についてこう話してくれました。
りゅうちぇるさん
「これから息子はどんな選択をするか分からない。もしかするとお相撲さんになりたいというかもしれない。僕として理解できないことに興味を持つかもしれない。でも信じたいと思います。理解できないけど信じている。それが子どもに伝わるような親になりたいなと思います。大人の概念を押しつけることで子どもの才能や将来が狭まってしまうかもしれない。そういうことに気をつけながら大人は子どもに声をかけるべきだと思います」
投稿者:管野彰彦 | 投稿時間:12時21分