2019年11月21日 (木)ママたちが集う "おちんちん教室"


※2019年9月4日にNHK News Up に掲載されました。

子どものおちんちんについて心配する親、特に母親が増え、アドバイスをする教室がにぎわっています。
「どのようにケアをしたらいいんだろう?」
「むいたほうがいいのかな?」
そうした母親の疑問に、父親がうまくアドバイスできないのも、教室がにぎわう要因のようです。おちんちんをめぐって何が起きているのでしょうか。

ネットワーク報道部記者 高橋大地

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お母さんたちが集まる教室

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おちんちんケア教室
「根元の部分をもって、やさしく下におろしてくださーい。先の部分をシャワーで洗い流しまーす」
東京都内のマンションの一室です。「おちんちんケア教室」が開かれていました。

集まったのは、20代から30代のお母さんとその男の子の合わせて6組。
1歳未満の子どもがほとんどです。

mama.190904.3.jpgおちんちんケア教室
どんな構造になっているのか、どのように洗ったりケアしたりしたらよいのかなどを、講師が模型や図を使って丁寧に教えていきます。
お母さんたちに、なぜ参加してみたのか聞いてみました。

夫に聞いても不安

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「お風呂でおちんちんを洗うときに、正しいやり方がわからず、もやもやしたまま、やっているんです。どうすればいいのか知りたくて」

「どうやって、ケアするのかという不安が妊娠中からありました。でも、夫にも相談したら『自然にしたらいい、どうにかなるだろ』という感じ。すごい不安になったんですよね」
多くのお母さんが口にしたのは、「不安」とか「怖い」ということば。
どう扱ったらよいのかわからない…。でも夫も頼りにならない。
そんな思いで参加するようです。

「むきむき体操」って?
同じようなお母さんたちの不安の声は、SNS上にもたくさんあがっています。
そこに、しばしば出てくるのが、“むくのか、それともむかないのか” 問題です。
「男の子のママに聞きます、むきむき体操してます?」
「むきむき体操って、したらいいのかな?」
話題にあがる体操を広めたのは、神奈川県の厚木市立病院の岩室紳也医師です。

mama.190904.6.jpg岩室紳也 医師
生まれたばかりの赤ちゃんは、男性器が包皮で覆われていて、亀頭部分が見えない「包茎(真性包茎)」です。その包皮を「むく」。

つまり、ずり下げて亀頭部分を見えるようにしてから、元に戻すのが「むきむき体操」

mama.190904.7.jpg岩室医師によると、最初はうまくめくれないことがほとんどですが、おむつ替えや入浴時などに少しずつ繰り返し、1度に20回程度を行うことで、徐々にむけるようになると言います。

私(記者)もいろいろな経験上、小学校の高学年から中学生くらいに自分でやるようになるのがふつうと思っていましたが、赤ちゃんのころから、親がするものなのでしょうか?
「自然に包皮がむけるようになる時期まで包茎だと、包皮と亀頭部の間にあかがたまったり、ばい菌が入ったりして炎症も起こしやすいのです」(岩室医師)
この体操、痛くて赤ちゃんが泣いてしまったり、中には血が出たりするケースもあるといいます。正直、かわいそうな気が…。
「痛がる場合は無理にやってはいけません。徐々に慣らしていくことが大切です。2歳くらいになると、嫌がることも多いので、赤ちゃんのころからやっておいたほうが、やりやすいですね」
「むいたままにしておくと、亀頭部がうっ血して腫れ上がる『かんとん包茎』になってしまうので、戻らなかったら近くの泌尿器科にすぐに行ってください」(岩室医師)

急速に広がる“むきむき体操”
この「むきむき体操」
保健師を通じて、子育て中の親に小冊子が配布されたり、雑誌で特集が組まれるようになったりするなど、徐々に知られるようになっています。

mama.190904.8.jpg岩室先生が書いた「おちんちん」の冊子
岩室医師によると関心が高いのは、やはり母親。
父親に聞いても「そのうちどうにかなる」などと、真剣にとりあってくれないのでインターネットで調べたり、口コミを頼りに知り、始めたりすることが多いのだと言います。

しても、しなくても変わらない?
一方、「むきむき体操」をしてもしなくても変わらない、という医師もいます。
神戸市にある石川クリニックの石川英二院長です。

mama.190904.9.jpg石川英二 医師
「思春期のころになると、男性器が成長するとともに、男性ホルモンが皮膚を刺激することで、包皮と亀頭部分が癒着していたのがはがれて、反転できる、手でむけるようになるんです」(石川医師)
実は、石川医師自身も、以前は子どもの包皮をむくよう指導をしていました。

しかし、およそ20年間にわたって、自身のクリニックなどを受診した0歳から18歳までの包茎の男の子524例を対象として研究を行ったところ、考えが変わりました。

1年以上経過観察ができた114例を対象に、包茎の程度の変化について分析。むく体操を指導した子どもたちと、指導をせずに特に処置をしなかった子どもたちを比較したところ、
▽指導したうちの89%が、
▽何もしなかったうちの84%が、
包皮をむくことができる度合いが大きくなったという結果になりました。

mama.190904.10.jpg発表論文
つまり、大きな差はなかったというのです。
「強引にむこうとして、痛みが出ることでトラウマのようになってしまうことが心配です。一長一短がありますが、幼いころに包皮をむく指導は自分の病院ではやめました」(石川医師)

子どもたちは周りの人から学ばなくなっている
やってもやらなくても変わらないのか?
改めて、岩室医師に聞いてみました。

mama.190904.11.jpg岩室紳也 医師
岩室医師は、小さいころから「むきむき体操」を勧めるのには、病気の予防だけでなく、思春期の子どもたちの性を取り巻く環境が変わってきていることもあると話します。
「全国の中高生から包茎に関する相談のメールがたくさん送られてきます。SNSの発達などで性の知識が豊富になっているイメージがあるかもしれませんが、必ずしもみんながそうだとはいえないんです」
「近い関係の人たちに対しては、弱みを見せたくないと思って話さない。わからないからネットで調べる。そこには偏っていたり、不必要な包茎手術を勧めたりしているサイトもあります」
「また、むくことを知らないまま30歳をすぎ、結婚して初めてむいたら痛みがひどく、インポテンツになってしまった人もいました。そのうち、むけるとして何もしないことによるリスクもあると思います」(岩室医師)

きちんと関心を持って
「むきむき体操」をやるかどうかについては、医師の間でも意見が分かれていて、まだ決まった見解がないのが実情なようです。

ただ、何の情報もないまま、子どもが成長するのに任せるというのはリスクがあるとは思いますし、母親でも父親でも、子どもの性器のケアについて、正しい知識を持つことが、まず大切なのかなと感じます。

また、夫が妻から相談を受けたときに「大丈夫、大丈夫」と突き放すのではなく、真剣に話を聞いて何が不安なのか、そして自分はどう考えているのかをきちんと伝えていくことも大事なことかもしれません。

mama.190904.12.jpgそして…。
女の子であれば、思春期が近づいたときに、生理のことなどを母親と話をすることはよくあると思いますが、父親が男の子と例えば包茎などについて、まじめに話し合ったり、自分の経験を伝えたりするようなことは、あまりないような気がします。

父親として、母親とも、そして子どもとも、おちんちんについてまじめに向き合って、不安がなくなるように一緒に考えていかないといけない。
自戒を込めてそう感じています。

男の子のおちんちんや、包茎をめぐる悩みについて取材を進めています。
不安や体験談などがありましたら、ご意見をお寄せください。

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投稿者:高橋大地 | 投稿時間:16時03分

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