2020年05月26日 (火)ゲームは1日60分?香川県条例素案の賛否
※2020年1月16日にNHK News Up に掲載されました。
「18歳未満の子どもは、スマートフォンの1日の使用時間を平日は60分」。インターネットやゲームの依存症対策として、条例制定を目指す香川県議会が示した素案の内容です。「目安があるといい」という保護者の声がある一方、ネット上を中心に反発する声も上がっています。
高松放送局 記者 横山太一 ・佐藤和枝
ネットワーク報道部 記者 目見田健・加藤陽平
「子どものスマホ使用はここまで」条例で決める
香川県議会が1月10日、初めて示した素案のポイントは、スマホの使用時間の制限を示していること。
(条例素案の全文は文末に)
対象は18歳未満の子どもで、依存症につながるようなスマホやパソコン、ゲームなどの使用について、
▼1日あたり、平日は60分、休日は90分を上限。
▼夜間の使用は、中学生以下は夜9時まで、高校生などは夜10時まで、としています。
ただ罰則の規定はありません。
対象はあくまで「依存症につながるようなインターネットやゲームの利用」としていて、学習目的の使用は制限していません。
さらに、
▼依存症治療の医療体制を県が整備すること、
▼依存症の知識をもつ人材を県が育成すること、なども盛り込まれています。
香川県によると、成立すれば全国の都道府県では初めて、ゲームの依存症に特化した条例になるとしています。
ゲームのし過ぎは “病気”背景には、ゲームに深く依存することへの懸念の高まりがあります。
WHO=世界保健機関は2019年、医療機関での診断や治療を必要とするけがや病気などの国際的なリストである「国際疾病分類」に、「ゲーム障害」を新たに加えました。
「ゲーム障害」は、スマホなどでゲームをしたい欲求を抑えられず、飲食ができなくなったり、仕事に行けなくなったりするなど、生活に支障をきたしている状態を指します。
スマホ1時間で「テストの正答率が下がる」
条例の素案で示された時間の参考とされたのは、平成30年度に香川県教育委員会が行った調査です。
小学5年生から中学2年生が対象で、スマートフォンなどによるSNSなどの利用時間が1時間を超えると、学力テストの正答率が下がっていく傾向があるとしています。
依存症の治療にあたっている高松市の三光病院の海野順院長は「依存症はどうしても本人の問題だと捉えられてしまって、病気という発想、それから回復するという発想が社会に不足していたと思う。使用時の制限に注目されがちだが、医療だけでなく各教育機関や家庭、支援団体が協力して関係を深めていくための一歩としてはすごく意味合いが深いと思います」と話しています。
ネットでは意見続出
一方で、インターネット上では、素案に対するさまざまな意見が飛び交っています。
「子供のゲーム依存に本気で悩む親御さんにとっては、評価できると思う」
「好きなゲームが子供の未来を奪う病気として扱われるのは嫌だから応援したい」
「ゲームうんぬんよりも各家庭の個人の私生活に行政が首を突っ込んでくる恐ろしさ」
「友達とゲームの進捗で盛り上がったり、競ったり、かけがえの無い時間だと思うんだけどね。勉強させたいなら、なんで勉強を面白くする努力をしないのかね?」
「今後リリースするゲームは注意文に、『このゲームは香川県でのプレイは想定していません』って書かないと」
子どもと母親 受け止めは子どものいる家庭に聞いてみました。
高松市の小学5年生、角田幸介くんは、母親との約束でオンラインゲームは基本的に1日1時間までと決められています。
ゲームを始めて1時間がたつと電源が切れるようにゲーム機を設定していて、時間を延長したい場合は母親と交渉しなければいけないきまりです。
ゲームなどの使用時間に上限を設けることについて幸介くんはこう話します。
角田幸介くん
「頑張ってみようとは思うけど、できるかは分からない。使えるならもっと使いたい」
母親の尚子さんは賛成です。母 尚子さん
「いろんなお母さんと話してても、1時間でいいのかとか3時間はOKという方もいる。友達どうしでも『おまえんちはよくてどうして俺んちはだめなんだ』となることもある。目安で1時間という数字が出るのは、迷ってる人とか決めかねてる人にとってはすごくいいと思う」
eスポーツは高校の部活動にさまざまな意見がある中で、ゲームとの向き合い方は社会で議論をもっと深める必要がありそうです。
対戦ゲームを競技として行う「eスポーツ」は、世界で若者を中心に盛り上がりを見せています。
茨城県の県立大洗高校では去年4月に「eスポーツ競技部」が創部されました。
きっかけは生徒から「部活動としてやりたい」と教員に相談があったそうです。
生徒たちは学校を説得するために自分たちで活動方針を作って提出したといいます。
活動方針
▽学業に専念し成績の維持・向上に努める
▽学校の校則に従い高校生の本分に従って活動する
▽体力向上・健康に留意して活動する
現在部員は5人で、全体の活動は毎週水曜日の午後4時から2時間。
学校によると、これまで学校の成績が落ちた部員はおらず、声を掛け合ってゲームをプレーしたり、ゲーム後、反省点を洗い出してその後の練習メニューを決めたりして、コミュニケーション能力が高まったのではないかと感じているそうです。
齋藤靖教頭は、香川県の条例の素案については「私たちがコメントするものではありません」としたうえで、部活動については「自分たちが決めたルールなので生徒の自主性を信頼しています」と話していました。
問題の根本は?子どもだけ?
ゲームやネットの依存に詳しく、学校などで講演を行っている遠藤美季さんはこう話します。遠藤美季さん
「ゲーム依存症は、家庭環境や親子関係、経済状況など多くのことが関係するので、問題の根本は利用時間だけではないと思う。また、大人のゲーム依存症の相談も多いので、子どもに限った条例には不公平感があるのではないか。子どもが将来の職業としてIT関係などに就くことも考えられ、親が子どもの特性や性格なども見極めてしっかり話し合い個別に約束事を決める必要があるのではないかと思います」
ゲーム業界は実態を独自調査
一方のゲーム業界。
ゲーム会社などでつくるコンピュータエンターテインメント協会は「ゲーム障害は看過できない問題だ」としていますが「まだ実態が分かっていない部分があり、コメントはできない」ということです。
ただ、科学的な調査研究に基づいて対策を模索したいとして、ほかの業界団体と合同で研究会を立ち上げ、全国調査を実施していて、ことし秋ごろに結果をまとめるということです。
来月 条例案提出へ 議論の行方は香川県議会では今後、委員会を開いて、一部の文言を修正したあと、ホームページなどで県民に意見を募る予定です。
その結果も参考にしたうえで、委員会は2月定例県議会に条例案を提出したい考えです。
ゲーム依存症という新たな問題への対応をめぐり示された今回の素案。
あなたはどう考えますか?
追記(1月20日に以下の動きがありました)
香川県議会は依存症対策としてスマートフォンやゲームなどの利用を制限する条例の素案を修正して委員会で決定し、来月の定例県議会に提出する方針です。当初、18歳未満の子どもを対象に平日は1日60分以内としていた利用時間は、対象をゲームに限定するなどとしています。
詳細は下記「あわせて読みたい」から記事をご覧ください
【参考資料:条例素案の全文】
投稿者:目見田健 | 投稿時間:12時50分
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