2020年02月19日 (水)先生のスマホ お預けってどうよ?


※2019年11月19日にNHK News Up に掲載されました。

「盗撮などの不祥事を防ぐため教諭のスマホは原則、職員室などで管理」

後を絶たない不祥事に危機感を強めた浜松市教育委員会がこんなガイドラインを打ち出しました。それってどうなの?

静岡局記者 牧本真由美
ネットワーク報道部記者 高橋遼平・和田麻子・目見田健


sennsei.191119.1.jpg

校長会で周知“スマホは職員室で”

sennsei.191119.2.jpg
11月18日に浜松市教育委員会が開いた臨時の校長会で、SNS利用に関する異例とも言えるガイドラインが周知されました。

sennsei.191119.3.jpgガイドラインでは、教諭に対し、▽勤務中は自分のスマートフォンを職員室で管理し、持ち出しを原則、禁止するとしているほか▽児童や生徒、保護者とSNSなどで個人的にやり取りすることも禁止しています。一方、校長などの管理職に事前に許可を得れば、スマートフォンの持ち出しは可能だとしています。

後を絶たない不祥事

この目的は、スマホが関係する相次ぐ不祥事の防止。

浜松市の中学校では、先月、男性教諭が学校の体育館のトイレで盗撮し、懲戒免職となるなど、今年度、5人の教諭が懲戒処分を受け、このうち4人がスマートフォンが関係する不祥事となっているのです。

sennsei.191119.4.jpg「厳しい対応だが、ルールを定めることで不祥事を防ぎ、教職員を守ることにもつながると考えている。授業や安全管理上、必要な場合もあるので、今年度中には、教諭が個人のスマートフォンを使わなくてすむよう、すべての学級にタブレットが配備できるよう体制を整えたい」(浜松市教育委員会教職員課 山下浩課長)

相次ぐ賛否の声
この動き、ネット上でもさまざまな意見が交わされています。

「全国の教育委員会に広げるべき」

「当たり前じゃないか。仕事中にDSとかの自分のゲーム機やカメラ持ち歩いてるのと同じ」

「スマホが悪いんじゃなくて、その職員が悪いんだよ。『給食にカレーを出しません』っていう神戸の教育委員会と同じ思考」

「不祥事があると、禁止にするという発想でいいのでしょうか?飲酒運転があるなら、酒禁止にしますかね?」

現場の先生たちに聞いてみた

現場の先生たちは、スマホは日々の業務に欠かせないと訴えます。

「スマホはよく使います。朝の職員室にある連絡黒板を写メで撮り、それを見ながら朝のホームルームをします。ストップウォッチやタイマーとしても使います。保健体育科なので天気予報の雨雲レーダーも常に見ながら『次の時間も外で体育ができるか?』なんて考えています。カレンダー機能や備忘録メモもスマホです。カメラ機能を使うのは行事の際の学級写真や合唱練習のための動画撮影(生徒が希望してくる)ですね」(中学・保健体育教師)

「今回の対応はナンセンスとしか言いようがありません。不祥事を起こさず真面目にやっている人が大多数なのに、ごく僅かの不真面目な人のせいで、連帯責任を取らされている訳です」

こう語気を強めるのは、高知県の県立高校に勤める40代の男性教諭。

「教員がスマホを使えないのが問題なのではありません。また、教員のスマホを取り上げても生徒は困りませんが、教育委員会の対応を見て、『大人ってこういうことするんだ』と子どもたちは思いますよね。子どもたちに示せるよい問題解決の方法とは言えないと思います」

文科省“聞いたことない”

sennsei.191119.5.jpg
浜松市教育委員会の対応について文部科学省に聞いたところ、「これまでにそのような例を聞いたことがない」

ちなみに文部科学省では、▽小中学校では学校への携帯電話の持ち込みは、原則禁止すべき、▽高校では授業に支障が生じないよう校内での使用を制限すべきなどとする通知を平成21年にだしています。

一方で教師に対しては「これまでも今後も通知を出す予定はない」とのことです。

ただ、去年の大阪北部地震で緊急連絡手段の必要性が指摘されたことなどから文部科学省は、学校での携帯電話の在り方を見直す考えも示しています。

教員向けに特化したマニュアル

sennsei.191119.6.jpg
神奈川県教育委員会の会見(平成29年12月)

後を絶たない不祥事に対し、去年、教員向けに特化したマニュアルをいち早く整備し、その防止に取り組んでいるのが神奈川県教育委員会です。

平成29年度にわいせつな行為をしたとして懲戒処分となった公立学校の教員が7人に上り、前の年度の5件を上回りました。

県教委は、処分を受けた教員の多くがSNSを使って児童や生徒と個人的に連絡を取るようになったのがきっかけだったと分析しています。

sennsei.191119.7.jpgこのためマニュアルには、▽児童や生徒と私的なSNSのやり取りの禁止などを盛り込んだほか、▽必要のない写真撮影の禁止、さらに▽児童や生徒と携帯電話や電子メールで連絡を取る必要がある場合は、校長の許可を得たうえで、本人や保護者に目的を伝え、必ず文書で承諾を得ることなど細かくルールを定めています。

研修会も開き周知徹底に取り組みました。

不祥事は減ったのか…?

担当者に聞くと、マニュアル作成後の平成30年度に、わいせつ行為で処分された教員は合わせて8人。前の年度に比べて1件増えしまったそうです。

理由をたずねると担当者は苦しそうな声で、「正直、とてもむなしいです。でもマニュアルを徹底したからといってすぐに効果は出ないということなのでしょう。地道に継続するしかありません。特効薬があるなら、逆に教えてほしいです」と話しました。

浜松市の対応について聞くと担当者は、あくまで個人的な意見だとしたうえで、「不祥事の防止という意味では気持ちはわからなくはありません」と話していました。

スマホは“大きな武器”

sennsei.191119.8.jpg
別の教育現場に目を転じるとスマホは今や欠かせない存在になっています。東京・文京区の向丘高校ではすべての教室でWi-Fi環境を整備。

生徒は授業がある程度進むたびに専用のアプリが入ったスマホで問題に取り組みます。

sennsei.191119.9.jpg生徒の入力状況はリアルタイムで教員が使うタブレット端末に反映されます。生徒がつまづいている部分にいち早く気付き、授業のなかでそのつど対応にあたることができます。

スマホは、一人ひとりに合わせたきめ細かな指導に効果を上げているといいます。

この高校、スマホ活用のルールづくりにも力を入れています。入学時に保護者と生徒
に利用方法を丁寧に説明したり、生徒たちにSNSの適切な利用方法を考えさせる時間を設けたりしています。

「先生には対しては?」と尋ねると加藤孝行校長は、「そんな指導が必要な先生は本校にはいません」と断言しました。

どうしたらいいの?
スマホを制限するよりも上手に活用したほうがいいけど、そのためにはどうしたらいいのか? 専門家に聞きました。

sennsei.191119.10.jpg情報セキュリティーなどが専門で岡崎女子大学の講師の花田経子さんは、「スマホという道具があるから盗撮などの犯罪行為が行われると因果関係をはき違えているのではないか。一般の企業のように情報漏洩のリスクがあるため個人の携帯電話を禁止するなら理解できるが今回は別次元の問題で、盗撮などの犯罪を行う教師としての適性のない人物が教べんをとっていることのほうが問題です」と指摘します。

そのうえで「私用のスマホを規制するのであれば、公用のスマホやタブレット端末を十分に配備する必要がある」と現在の教育環境の改善を訴えました。

不祥事に向き合う各地の教育委員会の深い悩み。浜松市もスマホの利便性は感じながら苦渋の選択をしたことは、取材の中で伝わってきました。でも、使わせないだけでは問題は解決しない。先生だけでなく生徒やその保護者も含め、新たな対策を模索する必要があると感じました。

投稿者:和田麻子 | 投稿時間:12時08分

トラックバック

■この記事へのトラックバック一覧

※トラックバックはありません

コメント

※コメントはありません

コメントの投稿

ページの一番上へ▲