2018年09月14日 (金)夏休み 延長か?短縮か?


※2018年8月3日にNHK News Up に掲載されました。

「もっと夏休みがあればいいなあ」
そんな子どもたちの願いがかなう日が来るかもしれません。連日の猛暑をきっかけに、国の大臣たちが「夏休み延長」を唱え始めたからです。しかし、戸惑いを隠せないのが学校現場。いま夏休みを「短縮」する動きが各地で進んでいるからです。

ネットワーク報道部記者 和田麻子

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<猛暑の対策で>
先月23日。菅官房長官はテレビ番組に出演し、連日の猛暑を背景に「冬休みの期間を短くして、夏休みの期間を長くするとか、有識者から聞くなどして検討し、考える必要がある」と述べました。

nats180803.2.jpg菅官房長官は7月24日の記者会見でも夏休み延長検討を表明
さらに翌日の閣議後会見では林文部科学大臣も「各教育委員会では、夏休みの延長と冬休みの短縮などの対応も含め、学校の休業日設定の弾力的運営も視野に入れて対応を検討してもらいたい」と述べました。猛烈な暑さが続いて、熱中症とみられる症状で病院に運ばれる人が相次いでいるからです。

nats180803.3.jpg校外学習が行われた公園
先月17日には、愛知県豊田市で小学校の校外学習に参加した1年生の男子児童が学校に戻ったあと意識を失い、熱中症で死亡する痛ましい事態も起きました。

教室にクーラーを設置する学校も限られる中、危険な猛暑から子どもを守る「対策」として打ち出されたのが「夏休み延長」なのです。


<ネットでは賛否両論>
閣僚から飛び出した「夏休み延長」に対して、ネット上では早速「ぜひ、やってほしい」という声や「命に関わる暑さ。対応が必要」と歓迎する声があがりました。

一方で夏休み中の子どもの預け先でやりくりする保護者などからは「夏休みの延長???そんな事になったら共働きのわが家には大問題だよ」とか「待機児童も解消していないのに、夏休みを延長することがどんなことなのか政府は全く理解していない」などという批判的な意見も出ていました。

このほかネット上の意見の中では「暑さに応じてネット授業もアリなんじゃないかな」という斬新なアイデアも見られました。

nats180803.4.jpg夏休みをどう過ごすかは子どもの成長にとっても大切なことは言うまでもありません。

こうした中で、困惑しているのは学校現場です。なぜなら、いま「夏休み短縮」の流れが各地で進んでいるからです。


<授業時間の確保を>
宮城県東松島市。ことし、市内の中学校3校と小学校8校で夏休みの期間を4日間短くしました。

なぜ、短くしたのか。それは学力向上のためです。「全国学力テスト」の結果が、この数年全国平均を下回ったことがきっかけでした。

nats180803.5.jpg小6と中3を対象にした全国学力テストは平成19年から毎年実施
さらに、もう1つの理由が「ゆとり教育の見直し」です。10年前の平成20年の学習指導要領の改訂で、授業時間は小学校の6年間でそれまでに比べておよそ300時間増えました。去年の改訂では、再来年には小学5年生と6年生で英語が正式な教科となることなどから、さらに140時間授業時間が増えることになりました。

こうした授業時間の増加分を週末に割りふるのか、平日に積み増すのかなど、やり方は各教育委員会や学校に任されています。

東松島市は夏休みを減らして授業に充てることで確保しようとしたのです。

こうした動きは東松島市だけではありません。福岡県小郡市では、ことしから市立の小中学校の夏休みを3日間短縮したほか、徳島県鳴門市でも小学校の夏休みを1週間短縮しました。いずれも新しい学習指導要領に対応して、増加する授業時間を確保するのが目的です。

東松島市教育委員会は急に浮上した「夏休み延長」について「ことしから夏休みの短縮を始めたばかりなので、すぐに方針を変えるとすると一貫性に欠けることになる」と困惑した様子でした。


<夏休みしかできないことが…>
夏休みの短縮を巡って、議論が起きている町もあります。静岡県吉田町は去年、ことしの小中学校の夏休みの期間を短縮して、16日間程度とする計画を打ち出しました。吉田町でも目的は新しい学習指導要領への対応です。

nats180803.6.jpgさらに学校の先生たちの労働時間の削減を図る狙いもありました。町によりますと去年の小学校の先生の残業時間は月平均で58時間に上っていました。授業の一部を夏休みの期間に振り分けることで、1日あたりの授業を減らして、放課後、先生たちが授業の準備などに使う時間を確保することで、残業を月40時間以内に削減できると考えたのです。

nats180803.7.jpg吉田町が開いた説明会では保護者などから意見が相次いだ
ところがこの計画に対して、保護者などからは「長い夏休みの間しかできない、子どもの貴重な機会が奪われるのではないか」とか「教員だけではなく、児童や生徒の意見などを把握しているのか」などという慎重意見が相次ぎました。

結局、町は保護者などへの理解が浸透していないなどとして、ことしから始める予定だった夏休みの短縮を見送りました。町では2年後から本格的に実施することにしています。このようなさなかに出てきた「夏休み延長」の議論。吉田町は「発言をどう受け止めるべきか、今後の動きを注視したい。町は夏休みや冬休みなどの長期休業をあてにした、授業時間の確保の制度設計をしている。今後、もし国が、全国一律で夏休みの具体的な期間を設けるなどするようであれば、今の仕組み自体を考え直さなくてはならない」と話していました。


<「教育現場だけの問題ではない」>
nats180803.8.jpg早稲田大学教職大学院 遠藤客員教授
元小学校の校長で、学校の教育問題に詳しい早稲田大学教職大学院の遠藤真司客員教授は「異常な暑さのなかで、子どもたちの安全を守るのは大前提だが、むしろ、全国の学校で普及率にばらつきがある、エアコンの設置を進めるための施策を、早急に進めるべきだ」としています。

そのうえで「仕事をもつ保護者が増えているなかで、夏休みの延長はすでに教育現場だけの問題ではない。子どもの休みに合わせて、夏休みを取得している保護者も多く、企業との連携も必要だ」と指摘しています。

授業時間の増加で、対応を迫られている学校現場が、困惑する様子が伺えました。夏休みの期間や在り方やとらえ方は地域や家庭によってもさまざまです。具体的にどのような形で進めるのか、十分な検討が必要だと思いました。

投稿者:和田麻子 | 投稿時間:16時16分

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