2017年10月20日 (金)野球ボール 67年ぶりの"大改革"


※2017年10月2日にNHK News Up に掲載されました。

少年野球などでおなじみの、縫い目が刻まれたゴム製の「軟式ボール」。プロ野球などで使う「硬式ボール」と比較して、安全で、値段も安いのが特徴です。そのボールが67年ぶりに変わることになり、先月(9月)から新しいボールの販売が始まりました。私も小・中学校のグラウンドで、軟式ボールを追っかけていた1人。野球ボールの「大改革」の背景を取材しました。

ネットワーク報道部記者 佐藤滋

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<発売開始 専門店では>
先月から発売が始まった新しい軟式ボール。東京都内にある野球用品の専門店では、店に入ってすぐのいちばん目立つ所にコーナーを作り販売していました。

ya171002.2.jpg「どんなボールなのか」 店には発売前から問い合わせが相次ぎ、売れ行きも上々だということです。取材したのは平日の日中でしたが、早速1ダース購入している人を見ました。店長の伊藤博光さんは「およそ100ダース分の予約があり、毎日、6から7ダースは売れています。皆さん、関心があると感じています」と話していました。

ya171002.3.jpg野球用品専門店 伊藤博光さん

<軟式ボールの歴史>
生まれ変わる「軟式ボール」。その歴史は古く、昭和13年にさかのぼります。初代のボールには縫い目の模様はなく、「菊の花びら」のようなデザインから「菊型」と呼ばれていました。日本独自のゴム製のボールはプロ野球や高校野球の甲子園などで使われる硬式のボールに比べ、安全で値段も安いことから全国に普及していきました。大きさや重さは昭和26年の2代目から同じでしたが、今回、変わることになりました。早くて来年から公式試合で使われる見通しで、全日本軟式野球連盟は「67年ぶりの大改革」としています。


<何が変わる?>

ya171002.4.jpg左が新しいボール 右が従来のボール
野球連盟が「次世代ボール」と銘打つ新しいボール。どこが変わるのでしょうか。

まず、現在の社会人や高校生が使う「A号」と中学生用の「B号」を統一して「M(メジャー)号」とします。大きさはA号とは変わりませんが、B号より2ミリ大きくなります。また、重さはA号より2グラム、B号より3グラム重くなります。さらに、小学生向けの「C号」は「J(ジュニア)号」となり、1ミリ大きく、1グラム重くなります。
数値だけ見ると、わずかな違いのように感じますが「大きな違い」だと野球連盟は強調します。というのは、ボールの硬さも変わるからです。硬式に比べて2倍ほど弾むという軟式。ゴムと化学薬品の配合を変えることで、この弾みを抑えました。中学生のB号と新しいM号を比較すると、10%ほどバウンドが抑えられたということです。
硬さは、飛距離にも影響します。バットに当たった時に硬式より柔らかい軟式ボールは大きくつぶれるため、飛距離が出にくいですが、今回、硬くしたことで以前よりも変形を少なく、素速く元の形に戻るようになり、遠くに飛ぶということです。ボールの「模様」も飛距離に関わっています。表面にハート型の模様を多く施したため空気抵抗を抑えられます。

「低いバウンドで、遠くに飛ぶ」ーーー硬式に近づいたのが「次世代ボール」の大きな特徴です。


<なぜ変えた? 理由や背景は>
ボールを大きく変えた理由の1つは、子どもの体型の変化です。2代目のボールができた昭和26年と比べると中学生の身長は17センチほど伸び、体重は14キロ余り増えていて、体型に沿った大きさや重さのボールにしたということです。

理由は体型だけではありません。少年野球のすそ野を広げるためです。小中学生の主流は軟式野球。しかし、中学校の軟式野球の部員は10年間で11万人余り減っています。野球少年憧れの地、高校野球の「甲子園」で使われるのは硬式ボール。高校に入ってから軟式から硬式に移行しやすくすることで少年たちの野球離れを食い止めようという狙いです。

ya171002.5.jpg軟式から硬式に移る際、バウンドの低さや打球の速さ、打つ時の衝撃の強さなどに適応するのには時間がかかります。高校から硬式でプレーした私も、慣れるのには3か月以上かかったという記憶が残っています。全日本軟式野球連盟の宗像豊巳専務理事は「中学校では安全・安心で値段が安いボールで練習ができ、スムーズな形で高校野球に行けるのがいちばんの理想」と話していました。

ya171002.6.jpg全日本軟式野球連盟 宗像豊巳専務理事


<中学校では戸惑いも>
新しいボールについてどう受け止めているか探ろうと、中学校を訪ねました。協力してもらったのは千葉県船橋市の七林中学校。ことし夏の関東大会で優勝した強豪です。

中学生の公式試合で使われるのは再来年、今の1年生の年代からです。新しいボールでノックをしてもらうと、守備についた生徒たちが弾み方の違いに戸惑う様子を見せていました。1年生の生徒は「ふだんよりバウンドが低くなっていた。姿勢を低くしないと捕りにくいことがわかりました」と話していました。

ya171002.7.jpg指導者からは大きく、重くなったことによる影響を心配する声も聞かれました。肩やひじへの負担です。成長期を迎えた中学生は体格の差が特に大きくなる時期でもあります。野球部顧問の野田昌宏教諭は「ピッチャーが1試合のすべての回を1人で投げ切るのは難しくなるだろう。ピッチャーの人数を増やし、基礎体力を上げていく必要があると思う。ボールが変わることで野球そのものが変わることだととらえている」と話していました。

ya171002.8.jpg野球部顧問 野田昌宏教諭


<“野球離れ”解決の切り札となるか>
「次世代ボール」は「野球離れ」を食い止められるのか。簡単なことではありません。かつて、近所の広場などで野球をする子どもたちの姿は当たり前にありましたが、今では「野球禁止」という公園も珍しくありません。また、中学校では部活の指導者不足という問題も根深く、気軽に野球ができるための環境整備は大きな課題として残っています。

全日本軟式野球連盟の宗像専務理事は「ボールがあっての野球だが、今後は軟式、硬式の関係者が一緒になって、環境づくりにも取り組みたい」と話していて、新しいボールの誕生を野球活性化の起爆剤にしたいと考えているということです。

わずか数ミリ、数グラムというボールの変化。それでも、野球に取り組む楽しさを再認識する大きなきっかけになればと、野球を続けてきた1人として願っています。

投稿者:佐藤滋 | 投稿時間:10時00分

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