2016年11月30日 (水)"日本発" 母子手帳は難民の"生命のパスポート"


※2016年11月25日にNHK NEWS UPに掲載されました。

赤ちゃんを授かった時に受け取る「母子健康手帳」・母子手帳。
戦後まもない日本で作られた“日本発”のこの手帳、今や世界40の国と地域で使われています。
その活用法について話し合う国際会議が東京で開かれました。注目を集めたのは、母子の健康に深刻な影響が出ている、中東の難民向けの母子手帳です。

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世界に広がる“日本発”の母子手帳
161125-2.jpg日本で初めて母子手帳が作られたのは戦後まもない昭和23年。当時、年間20万人以上の子どもが、1歳未満で亡くなっていました。そこで、妊産婦と、ともに産まれてきた子どもの命を守ろうと作られたのです。

母子手帳では、妊娠期の検診記録や出産した時の記録、子どもの発育状況など、妊娠から出産後の育児記録を一括して管理することができます。病気の予防や早期発見が可能になったのに加え、育児の目安や気をつけたほうがいいことなども盛り込まれ、日本の乳児と妊産婦の死亡率は大きく改善したといいます。

161125-3.jpgこの“日本発”の母子手帳、産前産後や乳幼児の検診が整備されていない世界の国などが取り入れていて、今や世界およそ40の国と地域に普及しています。

国際会議で注目難民向けの母子手帳

161125-4.jpgこうした母子手帳を導入する国と地域の関係者が集まり、母子手帳の活用法を話し合う国際会議が、11月23日から3日間の日程で東京で開かれました。この中で、JICA・国際協力機構とパレスチナ難民の支援を行うUNRWA・国際連合パレスチナ難民救済事業機関の担当者が、難民キャンプでも母子手帳を活用していることを報告しました。

今から8年前の2008年、紛争による貧困も重なり、中東・パレスチナでは母子の健康に深刻な影響がでていました。そのため、JICAは、世界で初めて、アラビア語版の母子手帳を作り、妊娠がわかった女性たちに配ったのです。その2年後には、パレスチナ域内や周辺の国などで暮らすパレスチナ難民にも配られ、今では、利用している難民の数は年間10万人に上ります。

なぜ難民に母子手帳?

161125-5.jpgなぜ難民に母子手帳が必要なのでしょうか。パレスチナ難民向けの母子手帳の普及に携わった1人、JICA国際協力専門員の萩原明子さんは「紛争地域では、毎回同じ医療機関にかかることができるとは限りません。母子手帳があれば異なる病院に行っても、母や子どもの状態を医師が把握し、適切な処置を行うことができます」と説明します。

また、萩原さんは、「難民は頻繁に移動します。海を渡って安全な国を目指す難民もいますが、パスポートのような公的な記録は持っていません。母子手帳がその代わりを果たすのです。受け入れる国にとって、その人の健康状態や、国が求める予防接種を受けているのかなどの記録は欠かせない情報です。母子手帳にはそれらがすべて書かれていて、大切な情報を正確に伝える役割を果たします。難民にとって、母子手帳は“生命(いのち)のパスポート”なのです」と話していました。

わずかな荷物に母子手帳

161125-6.jpg“生命のパスポート”。それを示す、ある写真があります。アメリカ・ニューヨークにある難民支援の国際機関、IRC・国際救済委員会が、去年9月に公開した20代のパレスチナ難民の女性の持ち物を写したものです。住み慣れた家や国を離れ、夫と生後10か月の娘とともに海を渡った女性。旅は危険を伴うため、わずかな荷物しか持ち出せません。そうした中、女性が持っていた23点の中にぬれないように透明な袋で包んだ母子手帳が含まれていたのです。「娘を守りたい」。母親としての思いが伝わってきます。

母子手帳電子化へ

161125-7.jpgこの難民向けの母子手帳。さらに進化しようとしています。国際会議で、JICAとUNRWAの担当者は、母子手帳をスマートフォンなどの携帯端末でも使えるように、“電子化”の準備を進めていると報告したのです。試作版を見ると、母子手帳の紙の表紙がそのままスマートフォンの画面に映し出されました。紙の手帳と内容は同じですが、電子化された母子手帳では、病院の受診日や予防接種の予定日などを知らせてくれる“リマインダー機能”がつきます。
パレスチナの女性は子だくさんが多いということで、自分や子どもの予定の管理がしやすくなり、病院の受診率が向上することが期待されています。

萩原さんは、“電子化”のメリットについて、「紛争や事故など、何らかの理由で母子手帳をなくしても、電子化されていれば、すべてのデータを取り戻すことができます」と話していました。最初は、アラビア語のみですが、将来的には、英語やフランス語など、他の言語に変換できる機能もつける計画だということです。難民が他の国に移動しても、その国の医師が理解できるようにし、どこにいても、母子保健サービスを継続的に受けられるようにすることが狙いです。“電子化”された母子手帳の運用は、来年3月に始まる予定です。

母子手帳は日本の難民支援
世界各国の難民支援の在り方は、難民を直接受け入れることだけではなく、現地のインフラを整えること、軍事的な支援など、さまざまなものがあります。萩原さんは、母子手帳発祥の地・日本だからこそできる支援があると話します。

「日本には、戦後、母子手帳を使いながら、妊産婦や乳幼児の死亡率を改善させるなど、さまざまな困難を乗り越えてきた歴史があります。母子手帳を通じて母親と小さな子どもの命を守ることは、日本だからこそできる大切な支援の一つです。いつ、どこで産まれても、安全で適切なサポートを受けられるようにすることが、よりよい社会につながると信じています」。

投稿者:清有美子 | 投稿時間:14時16分

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