2015年07月11日 (土)産後2週目がカギ 母親の心のケアを


出産後は生活が大きく変わりますが、「産後2週目の時期に精神状態が最も不安定になる」という調査結果が、注目されています。産後2週目は、母親にとっては、出産した病院を退院して赤ちゃんと2人きりになる時間が増え、体のホルモンバランスも大きく変わり、育児への不安が高まりやすいとされていいます。こうした「産後2週目」の早い時期から、母親をケアする動きが広がっています。sango1.jpg

【無料で「産後2週間健診」】
横浜市にある小川クリニックです。この病院では、出産した女性を対象に、産後2週目の時期に無料で健診を行っています。sango3.jpg通常、公費による健診は産後1か月に行われます。しかも、内容は赤ちゃんの体重が順調に増えているか、トラブルはないかなど赤ちゃんが中心で、母親は十分にケアされていないのが現状です。sango5.jpgこの日も男の子の赤ちゃんを出産した女性が訪れました。
助産師が「何か心配ごとはありますか」と尋ねると、女性は、『子どもがおっぱいをまだうまく飲めなくて、ミルクを足しているんですけど、飲ませすぎですか』などと質問していました。sango6.jpgそして、ひととおり話した後には、助産師が「これから、これから。頑張って」と励ましの言葉を贈っていました。病院では、母親の産後の体調をチェックするだけでなく、悩んでいることはないか、丁寧に話しを聞くことにしているということでした。

【産後2週目 精神状態が不安定に】
こうした「産後2週目」の健診の重要性を裏付けるデータもあります。sango8.jpg厚生労働省の研究班が、東京・世田谷区の病院で出産した1400人あまりの母親について、妊娠中から出産後3か月までを調査しました。心の状態が不安定だと、子どもの発育への影響や虐待も懸念されるからです。sango10.jpg調査の結果、初産の場合、産後2週目に、精神状態が不安定になる人が最も増え、その割合は25%に上りました。sango11.jpg調査を行った国立成育医療研修センターの久保隆彦産科医長は「母親に問題があれば、当然、お子さんの問題にもつながります。産後2週間、1か月というタイミングで、何らかのケアを母親にしてあげないと非常に大きな問題につながりかねないと思います」と話しました。sango12.jpg【産後2週目の健診で救われた人も】
産後2週目の健診で救われたという母親もいます。sango14.jpg2年前に出産した横浜市の小峰麻耶さんです。小峰さんは、出産直後の写真を見ながら「子どもがどうして泣いているのか分からない時期もあったので、、、子どもと一緒に泣いていた時もあった」と、当時を振り返りました。sango13.jpg小峰さんは、育児の悩みを書き留めたメモを持って、すがる思いで2週間健診を受診しました。メモに書いた悩みを全て質問し、子どもの体重を計った助産師から「赤ちゃんはちゃんと母乳を飲めていて、体重も順調です」と言われ、嬉しくて泣きそうになったと話していました。

2週目健診を行っている小川クリニックの小川博康院長は、「産後2週目健診は、そこで何かをするというよりも、その後、トラブルを起こさせないため、出産した女性の体調を、精神面も含めて良い状態で維持するお手伝いという形で行っています」と説明しました。sango15.jpg【出産前から心の状態をケアする動きも】
さらに、もっと早い時期から、心の応対をケアする動きも出ています。
埼玉県にある埼玉医科大学総合医療センターの総合周産期母子医療センターでは、全ての妊婦に、妊娠8か月の段階で聞き取り調査を行っています。sango17.jpg「妊娠が分かった時は嬉しかったですか?」「夫は育児や家事を手伝ってくれそうですか?」など、心の状態や経済的な不安、育児を手伝ってくれる人がいるかなど細かく尋ねます。sango18.jpgそして、問題がありそうなケースは、医師や助産師、看護師など病院内で情報共有し、必要なケアにつなげるようにしていています。取材した日は、高齢で望まない妊娠をし、育児のサポート体制も十分でない女性について、話し合いが行われました。sango19.jpgこれまでの受診記録を見ながら、「望まない妊娠なので、受診の時に心の変化を継続的に聞いていったほうがいい」「妊娠中から、担当者を決め、継続的に同じ人が関わるようにした方がいい」など、意見が交わされました。sango20.jpgこうした取り組みによって、この病院で出産した女性が産後うつ病と診断される割合は、全国平均の10%を大きく下回り、1%程度に抑えられていると言います。
埼玉県立総合医療センターの助産師、小澤千恵主任は「お母さんが心も体も健康でなければ、赤ちゃんも健康にならないと思うので、お母さんのケアをして、赤ちゃんがすくすく育つというのが理想です」と話していました。sango21.jpg【産後の母親のケア充実を】
産後の早い時期から母親の心の健康を守ろうという動きは広がりつつありますが、費用がかかるかどうか、また、産後の女性のケアまで十分にみられる医療体制を整えられるかどうかは病院によって異なります。調査を行った研究班では、妊娠中の女性や赤ちゃんだけでなく、公的に費用を補助して、産後の女性の健診も行うよう国に求めています。

投稿者:清有美子 | 投稿時間:08時00分

ページの一番上へ▲