2013年06月28日 (金)「クラウドソーシング」がもたらすもの(後編)


今月18日にクローズアップ現代で特集した「クラウドソーシング」。前回のブログでは、企業、経営者側への影響についてお伝えしましたが、今回は「働く側」に焦点をあてます。学校を卒業し、企業に就職して自分のキャリアを形成していくというこれまでどおりの働き方や、自分の実力だけで仕事を得るフリーランスの働き方がどのように変化するのか、その可能性についてお伝えします。

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東京・原宿のビルの一室で仕事を行う、若者だけのクリエイター集団「monopo」です。メンバー5人の平均年齢は25歳。ウェブデザインからスマートフォンアプリの開発まで幅広いジャンルの仕事を手がけています。

130628crowd_04.jpg中心メンバーの岡田隼さん、25歳です。大学在学中に、仲間と共にこの仕事を始めた岡田さん。信頼も実績もない中、仕事を得るために利用したのが、クラウドソーシングサイトでした。

130628crowd_03.jpgつながりを持つことが簡単ではない会社の仕事が、クラウドソーシングのサイトで得られることに魅力を感じているという岡田さん。取材に訪れた時、取り組んでいたのは、スマートフォン用の学習アプリのデザインをする仕事でした。

130628crowd_07.jpgことし1月、クラウドソーシングサイトで、競合する5社の中から選ばれた岡田さんたち。納期は2か月でおよそ60万円と、業界水準と比べて、決して高い報酬ではありませんでしたが、岡田さんたちは、この仕事の獲得にこだわりました。

130628crowd_05.jpg発注者は、ドリル形式のさまざまな問題を提供するプラットフォームを開発している「Quipper」。岡田さんたちは、これから需要が高まるとみられる教育アプリ分野で、自分たちの実績を重ねることが必要だと考えたのです。

130628crowd_14.jpgクラウドソーシングのサイトでは、仕事の履歴がすべて公開されます。仕事を発注した企業からの評価も記され、実績や評価などがランキングとなって表示される仕組みです。

130628crowd_09.jpg仕事の単価よりも、まずはランキングの上位に入ることを目指していたという岡田さんは「僕らの実績を世の中に出していくところに集中したいと思っていて、いかに自分たちを魅力的に見せるかということにクラウドソーシングのサイトを活用していきたい」と話していました。

130628crowd_12.jpg一方、仕事を発注した側が評価したのは岡田さんたちの若さと感性です。最近のユーザーインターフェースのトレンドに関するセンスの良さや、要望に対し、対案を示すスピードの速さなどが、よりよいアプリを開発していくうえで欠かせないものとなっていました。Quipper日本オフィスの横井明文代表は「仕事の速さと、短期間で一定のクオリティまで持って行けるようなパワーを感じます。非常に優秀なチームと一緒に仕事ができていると思っています」と岡田さんたちを評価しています。

130628crowd_16.jpgクラウドソーシングサイトを使い、実績を積み重ねてきた岡田さんたち。4万の登録者のうち、1けた台の評価を維持し続けてきました。それに伴い、仕事の依頼や、報酬の額も増えてきたといいます。

130628crowd_17.jpg岡田さんは「とにかく数をこなして修業するっていう場所としては、すごいありがたいと思っていて、ここのサイトで作ってきた実績というものをもっと外に出していく活動と並行して今後はやっていきたい」と話しています。

130628crowd_20.jpg更に、クラウドソーシングは、地方に住む若者の人生の選択にも、大きな影響を与えています。

130628crowd_21.jpg奈良県に住むフリーデザイナーの南賢一さんです。故郷の奈良に住みながら、東京や大阪の大手企業から、次々と仕事を受注しています。

130628crowd_22.jpg3か月かけてデザインした寝具メーカーの仕事を無事納品した南さん。取引先からの感謝の言葉が、デザイナーとして最もうれしい瞬間だといいます。

130628crowd_25.jpgこうしたフリーデザイナーとしての仕事を可能にしたのが、クラウドソーシングとの出会いでした。南さんはかつて、大阪などのデザイン会社に勤めていましたが、自分のアイデアやデザインを試す機会が欲しいと考えていました。そんなとき、ネット上で偶然見つけたのが、クラウドソーシングのサイトでした。

130628crowd_26.jpg試しに名刺のデザインに応募したところ、見事に採用されました。実力さえあれば、実績がなくても評価されることを知った南さんは、フリーになることを決心。住み慣れた故郷を拠点に勝負することにしたのです。

130628crowd_27.jpg南さんは今、東京の寝具メーカーと定期的に仕事をしています。年収は、会社員の時のおよそ2倍になりましたが、その分責任も大きくなり、徹夜で作業することも増えました。

130628crowd_30.jpgそれでも自分の実力を正当に評価してくれるクラウドソーシングの世界は魅力的だという南さん。「これまでの実績と関係なく、良い案を出せば拾ってくれ人がいる。働く場所は地方でも都会でも関係ないと思います」と話していました。

130628crowd_32.jpg番組では企業、そして個人の働き方の変化を見た上で、東京工業大学の比嘉邦彦教授に話を聞きました。国谷キャスターが、若者がクラウドソーシングを活用して、新たな働き方を体現する一方で、安い労働力として利用されるのではないかという懸念を示したのに対し、比嘉教授は、クラウドソーシングの世界では積み重ねた実績が公開されることによって、本当に実力のある働き手が高い報酬を得ることにつながっている実例などを示し、必ずしも働く側が搾取されるだけの仕組みではないと指摘しました。

130628crowd_34.jpg一方で比嘉教授は、クラウドソーシングサイトに登録されている仕事の中には、非常に単価の低いものが含まれているという事実もあり、こうした仕事のやりとりが増えることで、国内の仕事の一部が、物価の安い海外に流出してしまうことや、働く側の収入が減る可能性があることも指摘しました。

130628crowd_35.jpgそのうえで、日本の高い技術を持つ労働者が、世界でも高く評価され、適正な報酬を得るためには、発注者が想定していないことまで能動的に取り組むなど、日本人ならではの対応の良さ、仕事の質の高さを示す指標を、クラウドソーシングの世界に取り入れる必要があると提言していました。

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クラウドソーシングについての取材を進めると、この仕組みについてさまざまな評価を耳にします。「企業の経営効率化につながる」「不必要な部署の切り捨て、リストラにつながる」「若者の起業を後押しする」「デザイン業など、既存の仕事の報酬低下につながる」。こうした評価はいずれも事実であると思います。インターネットの普及・ブロードバンド化や、クラウドソーシングサイトの台頭によって、これまでそれぞれの国の中でやりとりされていた仕事が、国境を越えてやりとりされる環境が整いつつある以上、こうした流れは、今後、さらに進むと考えられます。

いわばこれまでの「仕事の価値」というものが、根底から覆される可能性があるということをどのように受け止め、対策を考えていくのか。働く側、企業側それぞれに求められることになるのではないでしょうか。

投稿者:千田周平 | 投稿時間:06時00分

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