2013年06月26日 (水)「クラウドソーシング」がもたらすもの(前編)


「クラウドソーシング(crowdsourcing)」という言葉をご存じでしょうか。「crowd」=群衆、「outsourcing」=外部に仕事を発注する、という単語を組み合わせたもので、インターネットを通じて不特定多数の人に業務を委託することです。
このクラウドソーシングについて、今月18日、「クローズアップ現代」で特集しました。この仕組みによって、人の働き方、会社の在り方がどのように変わる可能性を秘めているのか、その影響や課題について、番組ではお伝えしきれなかった内容も含めて紹介します。

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東京・中央区で語学教室を経営する大塚雅文さんです。100人の生徒が通う教室をたった1人で経営しています。それを可能にしているのが、クラウドソーシングです。

130626crowd_14.jpg大塚さんが使っているのは、アメリカ最大手のクラウドソーシングサイト「oDesk」。授業内容の下調べから講師の手配まで、あらゆる業務をこのサイトを介して海外に委託しています。

130626crowd_15.jpgこのサイトには、さまざまな技能や知識を持った世界330万人の人が、働き手として登録しています。大塚さんは、依頼したい仕事の内容や条件などを提示、応じてきた人たちの中から、自分が必要な人材を選びます。支払いの条件などこまごましたことはサイトの方で引き受けてくれるので、手軽に人材をそろえることができます。

130626crowd_18.jpg取材に訪れた日、大塚さんの教室では、海外のデザイナーに発注する絵のイメージを英語で伝える、というテーマで授業が行われていました。

130626crowd_19.jpgこの授業の講師を務めたのが、クラウドソーシングで見つけたアメリカ在住の本職のデザイナー。ネット中継を介して授業をしました。時給22ドル、2時間限りの仕事です。

130626crowd_20.jpg大塚さんは、常にクラウドソーシングのサイトにアクセスし、新たな人材の確保にも余念がありません。この日も、新たな講師の候補として、フランス人の女性を面接。能力とやる気さえあれば、年齢や国籍は問わないといいます。

130626crowd_21.jpgクラウドソーシングの魅力について、大塚さんは「日本にいながらにして、世界の才能を使いこなせるのがいい。自分はプロデューサー感覚で仕事をすることができる」と話していました。

130626crowd_22.jpgアメリカ・アリゾナ州には、同じサイトを使って、新たな仕事に次々とチャレンジしている女性がいます。ニーコ・バーニーさんです。かつて、マーケティングのコンサルタントとして働いていました。しかし、今は、専門外のIT情報誌の出版を行っています。

130626crowd_24.jpgそれを可能にしたのは、クラウドソーシングで集めた専門知識や技能を持った26人の期間限定のスタッフです。取材に訪れた日は、編集状況について、オーストラリアのマネージャー、アメリカのコピーライター、イギリスの編集長など、5人の担当者とネット会議を行いました。

130626crowd_26.jpg専門外の分野でも、アイデアさえあれば、世界中から集めた人材を使ってビジネスを具体化できるということで、バーニーさんは今、情報誌の出版のほかに、映画のネット配信など、分野の違う4つの会社を経営するまでになっています。

130626crowd_27.jpgバーニーさんは「私はビジネスチャンスを見つけても、それを自分だけで実現するスキルはありません。クラウドソーシングがあれば、必要な人材を見つけ、すばらしい結果を得られるのです。さらに次々と新たなアイデアを成功させることができます」と話していました。

130626crowd_28.jpgバーニーさんたちが利用する、アメリカ最大手のクラウドソーシングの会社「oDesk」では、8年前のサービス開始以来、登録した働き手は世界160か国に広がりました。世界のクラウドソーシングの市場も急成長を続け、年間の売り上げは1000億円を突破しています。

130626crowd_30.jpg「oDesk」のゲーリー・スワートCEOは、クラウドソーシングを取り巻く現状について、「働く人が職場に行く代わりに企業が働く人に仕事を届けられるようになった。2020年までに労働者の3人に1人がネットを介して働くようになる」と話し、こうした働き方は今後、さらに増えるのではないかと予測しています。

130626crowd_31.jpg群衆の力を活用するクラウドソーシングには、今、日本の大企業も注目し始めています。大手不動産会社の三井不動産レジデンシャルは、これから住宅市場が飽和状態となるなかで、多様化するニーズに対応した、魅力ある住宅をどのようにしてつくっていくのか、頭を悩ませていました。

130626crowd_33.jpgそこでこの会社が注目したのが、一般の人たちから生活者の視点を集める、アイデアのクラウドソーシングサービスです。

130626crowd_36.jpg「Blabo!」というサイトには、発想やアイデアに自信のある人たちが1万人以上、会員登録しています。企業がアイデアを募りたいテーマを掲げ、そのテーマに関心のある人たちが集まり、専用サイト上で知恵を出し合います。その様子はリアルタイムでネット中継され、企業の担当者とサイトの管理者は、集まったアイデアの中から、面白いアイデアをさらに膨らませるよう参加者に促します。

130626crowd_35.jpgこの日は、「どうすれば住みやすい家になるか」をテーマに40人余りが知恵を絞りました。その中で、「壁をおもちゃのブロックのようにする」というアイデアをきっかけに、議論が盛り上がりを見せました。

130626crowd_40.jpg採算面や安全性を優先するプロの視点では、なかなか生まれにくい自由な発想です。「生活者の純粋な要望」を集めて、実現可能な形に仕上げることで、これまでにない商品を生み出せるということで、壁をブロック状にするアイデアは、実現に向けてモデルルームへの設置も検討しているということです。

130626crowd_41.jpg三井不動産レジデンシャルの川路武さんは「ライフスタイルが多様化している中で、生活者のニーズの把握がこれからの勝負になってくる。インターネット上のさまざまな人たちから意見を募ることで、社内の会議からは出にくいアイデアを集められる」と、こうした取り組みに期待しているということです。

130626crowd_34.jpg長年取り組んできた課題の解決に向けて、集まったアイデアを実現したケースもあります。大手製菓会社のロッテは、自社の商品であるガムのポイ捨てを、どのようにすれば減らせるのかについて、アイデアのクラウドソーシングサイトで募りました。社内では「かみ終わったあとのガムを包みやすい包装紙にする」など、いかにしてゴミを捨てさせないようにするか、という発想に偏っていましたが、クラウドソーシングで寄せられ盛り上がったのは「思わずゴミを捨てたくなるようなゴミ箱を作る」というものでした。そして完成したのがこちら。

130626crowd_06.jpgその名も「ゴミ箱星人」。奇抜なデザインで、ゴミを入れると「ありがとう」などとしゃべります。擬人化することで注目を集め、ゴミを捨ててもらおうという狙いです。

130626crowd_07.jpgこのゴミ箱は、去年、東京で行われたゴミ拾いイベントに登場、子どもから大人まで、道行く人の注目を集めました。今後も環境保護イベントなどに登場する予定だということです。

130626crowd_43.jpgロッテの荒生均 執行役員は「我々が全く考えていないようなアイデアが集まり、さらにそのアイデアがさらに膨らんでいくことが、今までにない解決方法を生み出す要因となっている。問題解決に向けて、一方的に企業が考えるのではなく、消費者と双方向で考えていくこうした方法は、今後も活用していきたい」と話していました。

130626crowd_44.jpgここまで、クラウドソーシングを活用する企業側の例を取り上げてきました。日本での広がりはまだまだこれから、という段階ですが、海外に目を向けると、アメリカの大手電気機器メーカー、ゼネラル・エレクトリックが、自社の特許を生かした新製品の開発にクラウドソーシングを活用するなど、多くの企業が戦略的に使用する動きが加速しています。

必要な能力、アイデアを、必要な時だけ集められることは、企業が経営を効率化するうえで非常に魅力的な手法であることは間違いありません。ある事業にかかるコストを抑えた分、新事業の展開を図ることに割り振るなど、企業は自社の競争力を高めることができます。

ただし、それは「常に必要な部署以外は、会社で抱える必要がなくなる」ということにもつながり、社内部署の整理、社員の解雇ということにもつながります。

「優秀な人材は、すべて社内で抱える」という戦略も当然ありえますが、クラウドソーシングを利用する企業が世界中の優秀な人材にアクセスすることが可能になった今、企業の競争力を社内人材だけで高めていくには、部署間の情報共有や人材の流動化などをより活発にするなど、これまで以上に会社の意識を社員、経営陣の間で共有するスピードを上げていくことが必須になるのではないかと感じています。

このように、企業がクラウドソーシングを活用することで、当然、「働く側」の環境も大きく変化することになります。次回は働く側に焦点をあてて、クラウドソーシングの可能性について見ていきたいと思います。

投稿者:千田周平 | 投稿時間:06時00分

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