2012年02月27日 (月)産みたいのに産めない~卵子老化の衝撃~


「女性は何歳まで自然に子どもが産めると思いますか?」

今月、街頭でインタビューをしました。反応はさまざま。「最近は医学が発展しているから50歳くらいまで大丈夫」と答えた20代のお母さん。「恋をしていればホルモンが出続ける。その間は妊娠できる」と答えた20代の男性も。

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女性はいくつまで自然に子どもを産めるのか。個人差はあるものの、目安となるデータがあります。下の棒グラフは、女性の年齢と流産と不妊症の発生頻度について、アメリカの研究者が調べたものを、名古屋市立大学大学院医学研究科の杉浦真弓教授が分かりやすくまとめたものです。

(加齢による流産・不妊症の頻度)
名古屋市立大学 杉浦真弓教授まとめ

201202gr.jpgAndersen et al.BMJ2000, Menken et al. Science 1986

左側の棒グラフは流産の頻度、右側は不妊症の頻度を年代別に表しています。
妊娠した女性が流産する可能性は20代から30代前半までは10%余り、10人に1人程度です。ところが35歳以降、25%程度に急増、40代になると50%を超え、2人に1人となることがデータで示されています。一方、不妊症の頻度についても、30代前半までは20%未満ですが、35歳以降は30%、40歳以降は60%以上に上っています。
年を重ねるごとに増える流産と不妊症の頻度。一方で、体外受精や顕微受精で子どもが産まれる割合は35歳で16.8%、40歳で8.1%(日本産科婦人科学会調べ)。高度な生殖補助医療を受けたとしても、年齢が上がるにつれて妊娠や出産が難しくなるという厳しい現実があったのです。

ところで、年齢を重ねるとなぜ流産が増え、不妊症の頻度も増えるのでしょうか。
専門家は、原因の一つは「卵子の老化」にあると指摘します。毎日新たに作られる男性の精子と違い、女性は産まれる前から持っている卵子が全てで、新しく作られることはありません。取材した医師によると、その数は胎児期、つまりお母さんのお腹の中にいるときが最も多く、母親の妊娠5か月ごろにおよそ700万個の卵子を持っているそうです。卵子は、その後、自然に減り始め、出生児には 200万個、思春期には20万個から30万個程度になっているといわれます。年を重ねるごとに卵子も年を重ね、そして数も減っていくのです。

0227014.jpg0227013.jpg加齢に伴う卵子の老化と流産率・不妊症の増加の背景には、卵子の質の低下や染色体異常の増加があると専門家は指摘します。
2月14日の「クローズアップ現代・産みたいのに産めない〜卵子老化の衝撃〜」では、卵子の老化や減少に立ち向かう現場も取材し、ご紹介しました。例えば、高齢の女性の卵子から遺伝情報が詰まった核の部分だけを取り出し、若い女性の卵子に移し替える技術。核の周囲が若返ることで妊娠しやすくなると考えられていますが、他人の遺伝情報が混じるのではとの指摘もあります。現在は基礎的な部分に限って研究が進められています。
一方で、がんや早発閉経の患者を対象に応用が始まっている研究もあります。卵巣を摘出し、卵巣組織の一部を凍結。そこには数千個から数万個の卵子が付いているそうです。凍らせた卵子は子どもを産む状況になったときに融解。それを体外で特殊な方法で培養します。たくさんの卵子を同時に培養でき、質の良い卵子を数多く育てることができるといいます。研究する医師は、将来は卵子の減少に悩む人たちに応用できるのではないかと話しています。

また、番組では卵子の老化を知り、自らの卵子を凍結した33歳の独身女性のケースも取材しました。
女性には交際している男性はなく、卵子の老化を知ったときは手が震え、眠れなくなったといいます。この女性が社会に出たときは就職氷河期。これまで安定した仕事には就けず、今も派遣社員として働いているといいます。30歳を過ぎたことから派遣先も徐々に少なくなり、女性は、仕事以外の時間を全て資格の勉強に費やすようになりました。そして、去年、女性は都内のクリニックで卵子を凍結。いつか産めるときまで、卵子の時間を止めました。
未婚女性の卵子凍結は、国内ではがん患者などのために使われています。しかし、女性が卵子を凍結したクリニックでは、これまで独身女性から強い要望があって20人余りの卵子を凍結しているといいます。一方、この卵子の凍結はまだ技術が確立していないという指摘もあり、確実に子どもが産まれるとはかぎりません。それでも、この女性は、今の厳しい社会で仕事と出産を両立させるためにはこの方法しかなかったといいます。

卵子の老化と減少。晩婚化、晩産化が進む今の日本で、女性の体のメカニズムについて知ることはとても大切だと多くの専門家は指摘します。しかし、日本の教育現場ではこれまでこうしたことはほとんど教えられてきませんでした。

こうしたなか、新たな取り組みが始まっています。
東京医科歯科大学特任助教で医学博士でもある有馬牧子さんは、女性が仕事と生活を両立できる環境作りについて 研究を進めています。今月、卒業を控えた歯学部の学生向けに行われた「キャリア」についての講義で、有馬さんは、卵子は女性の加齢とともに年を取り、数も減っていくこと、妊娠しやすい時期とキャリアを積み重ねる時期は重なることを改めて学生たちに伝えました。教室にいた学生の多くは男性でしたが、有馬さんは「男性にこそ、こうしたことをきちんと知ってもらいたい。そして、女性が働きやすい環境を一緒に作ってほしい」と話していました。
また、更年期を中心とし た女性の健康相談に乗っている東京のNPO法人「女性の健康とメノポーズ協会」は、有馬助教や産婦人科の医師とともに、年齢に応じた女性の健康と働き方を伝えるためのマニュアルを作りました。「女性を学ぶ」という帯がつけられたこのマニュアルは、卵子の老化や更年期の症状など、女性ホルモンの変化に伴い、女性の体にどのような変化が起こるのか、年代別にまとめています。さらには、そうした変化が起きる時期に、職場でどのような状況に置かれているのか、女性の健康と働き方がセットで記されているのが特徴です。例えば、30代と書かれたページには、仕事の専門性が高まり、責任が重くなる一方、妊娠する力は低下。出産を希望するなら具体的なライフプランが必要だとしています。
NPO法人では、ことし5月に、マニュアルを基に検定を行い、女性の健康と働き方に詳しい専門家を育成しようと計画しています。先月、企業の担当者を招いて都内で開かれたセミナーで、NPO法人の代表は、出来たばかりのマニュアルを紹介するととも に、マニュアルで女性の健康と働き方に関する知識を会得し、それを確認するために検定を受けてほしいと呼びかけました。

0227112.jpg番組の放送直後から、多くの反響が寄せられました。
卵子の老化を知らなかったという驚きの声。不妊治療中だが、もっと早くにこの問題について知りたかったという声。30代や40代で子どもを産もうと考えている人の気持ちが落ち込んでしまう内容だ、というご指摘の声もありました。一つ一つ貴重な意見として私たちは目を通し、受け止めています。
番組はさまざまなバックグランドを持つ記者やディレクターで取材しました。皆、少しずつ違った視点を持ちながらこの テーマに向き合い、真剣に議論を重ねてきました。視点は異なるといいながらも、一つだけ共通して伝えたかった思いがあります。
それは、日本の女性たちに自分の体や性の仕組みについて知ってほしいということです。多様な生き方が尊重される時代、子どもを産むのか産まないのか、また、いつ産むのか選択はもちろん人それぞれです。ただ、卵子の老化など妊娠に関する大事なことを知ったうえでそれぞれが生き方を決められるようにしたい、そして、そうした知識がなかったために妊娠しやすい時期を逃してしまったということがないようにしたいと思いました。

必要な情報を広めていくにはどうすればよいのか。子どもを産みたい人が妊娠・出産に適した時期に普通に産める社会にするには何が必要なのか。
取材班は引き続きこの問題を追いたいと考えています。

(参考)クローズアップ現代「産みたいのに産めない〜卵子老化の衝撃〜」(「放送内容まるごとチェックページ」へ)

投稿者:伊達裕子 | 投稿時間:06時00分

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コメント

最近のNHKは勇気がある。素晴らしいです。
このことを知っていたらさっさと子供つくってたのに。
私の年齢では今となっては手遅れなんです。
こんな苦しい思いをする人が一人でも減ればいいなと思います。

投稿日時:2012年02月27日 08時57分 | ぴか


まず、グラフの資料の古さに唖然としました。
健康に関する25年前のデータを堂々とテレビで流すなんて、
今後の検討材料にしていただきたいと思います。

12年不妊治療して、結局妊娠に至りませんでした。
このような取り組みの番組をもっと早く作成して欲しかった。
子供は出来て当たり前、という社会の認識を変えて欲しい。
今後も追い続けて下さい。

投稿日時:2012年02月28日 11時21分 | マリア

こういう問題を、
専門家である医師(婦人科等)が先ず
どう考えて・いかに正しく明確に伝えてくれているのか
そこが大切だと思います。
世の女性のどれ程の人が、卵子の事を知っているでしょうか、
私も婦人科等に通院中なのですが、
不妊や流産の原因は他の事がクローズアップされていて、
卵子の話なんてほとんどされていません。

それからNHKさんに一言、、、
『不妊や流産の原因はこれだ(これだけだ)』と
誤解を招きそうな内容になっているように感じます。
是非、文章の書き方を見直してください。

投稿日時:2012年04月13日 10時59分 | 

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