2018年04月13日 (金)やりたい!これってブラック?


※2018年3月29日にNHK News Up に掲載されました。

「10日以上・1日8時間程度・事前研修必須・宿泊交通費各自負担」
28日公表された東京オリンピック・パラリンピックのボランティアの募集要項案。「やってみたい!」「これってブラック?」ネット上では、様々な声が飛び交っています。

ネットワーク報道部記者 飯田暁子・佐伯敏・管野彰彦

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<募集要項案 ネットの声は>

yar180329.2.jpgまずは自国開催のオリンピックで体験を共有したいという人。

「一生に一度であろう日本でのオリンピックだからやってみたい」
「今日から息子が英会話教室に通い始めた。東京オリンピックでボランティアしたいんだって!」

一方で目立ったのは、あまりに厳しい条件だという声。

「交通費、宿泊費は自己負担で宿泊先も自身で手配って、、、それで1日8時間、、、ブラックだ」
「東京五輪のボランティアはやりがい搾取」
「地方から来る人は飛行機代も宿泊代も自己負担なんだな。地方から行くわけないじゃん」

「東京オリンピックが決まったときは『ボランティアやりたい!一生の思い出になるし人生経験としてやっておきたい!』って思ったけどこんな条件ならやりたくなくなった」

また、仕事がある社会人でも参加しやすいように制度を整えてほしいという人も。
「東京オリンピックボランティアは学生さんしか出来ないでしょ!社会人は10日も休めない」


<ボランティアの応募条件・活動は>

yar180329.3.jpg今回、募集が行われるのは、大会の運営に直接関わる「大会ボランティア」と、自治体が募集し空港や駅などで案内を行う「都市ボランティア」の2種類で、合わせて11万人以上が必要と試算されています。

このうち「大会ボランティア」の応募条件は、2002年4月1日より前に生まれた人、合計10日以上活動でき、指定するすべての研修に参加できること。積極的に応募していただきたい方として、競技の基本的知識がある人、英語やその他言語のスキルを生かしたい人などが挙げられています。

活動分野は観客や関係者の案内、チケットのチェック、会場や選手村の運営サポートなどのほか、空港などでの海外要人の接遇、関係者が会場間を移動する際の車の運転、ドーピング検査のサポートや国内外のメディアの取材サポート、東京大会を記録するための写真や動画の編集サポートといったものまであります。

1日の活動時間は8時間程度で、1日1回を原則とする飲食やユニフォームは支給されますが、交通手段や宿泊場所は各自が手配し、費用も自己負担です。


<組織委員会 “ボランティアで感動の体験を”>
そもそもオリンピックの運営になぜ多くのボランティアを募集するのか。

大会組織委員会のホームページによると「都民・国民一人ひとりに大会成功の担い手になってもらうことが必要不可欠であり、ボランティア活動への参加は、他では決して得られない感動を体験する貴重な機会となる」としています。

ちなみにこれまでボランティアが最も多かったのが2012年のロンドン大会のおよそ7万人で、東京オリンピックはこれを上回る規模です。


<ピョンチャンで見たボランティアの現実>
まだ記憶に新しいピョンチャンオリンピックでは、9万人を超える応募者から選ばれた2万2000人余りがボランティアとして参加。大会直前にはトラブルもありました。

yar180329.4.jpgボランティアに宿泊施設が用意されましたが、開会式直前に「温水が出る時間が制限され、冷水で体を洗わなければならない」とか、「会場に行くためのバスが時間通りに来ず、氷点下の中1時間以上待たされた」といったボランティアたちの告発がネットで相次ぎ、2400人が辞める事態も発生。

それでも開会後に現地で3週間取材した記者(佐伯)は、彼らの存在なしに大会は成り立たないと痛感しました。

私たちメディアの宿泊施設のフロント係はボランティア。部屋のベッドのシーツやタオルを替えたり、ゴミを捨てたりするのもボランティア。コインランドリーに待機して、洗濯機や乾燥機の説明をしてくれるのもボランティア。仕事のあまりの地味さに後悔しているのではないかと思いました。でも氷点下の中、メイン会場の最寄り駅でシャトルバスの案内をしていたボランティアの大学生は、「さっき案内したスウェーデン人も、ピョンチャンのほうが寒いって言ってました」とどこか誇らしげでした。

yar180329.5.jpg観客からも「ボランティアは素晴らしかった」という声が聞かれました。オリンピックという華やかな大会を支え、決して楽ではない活動を担うのがボランティアの現実の姿。東京オリンピックの募集でもきちんと説明する必要があるのではないかと感じました。


<専門家が指摘する課題は>
専門家は今回の募集要項案をどう見ているのか。大東文化大学スポーツ科学科の工藤保子准教授は、過去の大会と比べても妥当なものだとしたうえで、実際に参加するとなると、課題もあるといいます。
1つは仕事や学校との兼ね合い。そもそも1日8時間程度の活動で10日以上も参加できるかです。ボランティアで中心となるような、体力もやる気もある若い世代が参加をするには、仕事や学校を休まなければならないケースも多そうです。

専門家の間では「期間の条件は、夏休みの平日5日間と前後の土日を使って9日間とした方がいい、会社員にとって1日の違いは非常に大きい」という指摘も多かったそうです。
次に宿泊施設です。ここのところの訪日観光客の増加もあって、都内などでは、すでに、宿泊施設の予約が取りにくかったり、料金が高騰していたりするところも出ています。大会期間中ともなると、ボランティアが自前で確保するのは難しくなると予想されます。そのため、ピョンチャンなど一部の冬の大会で行われた、ボランティア村を用意したり、公共施設を活用したりすることも考えるべきだと指摘します。

工藤准教授は「主催者はボランティアを安い労働力だと考えるのではなくリスペクトの気持ちを忘れてはいけないし、ボランティアに参加する人たちも協力してやっているという意識をなくして臨んでほしい」と話しています。


<ボランティアを支援する制度>

yar180329.6.jpgボランティア活動を理由に休暇が取得できる「ボランティア休暇」の制度を導入している企業も増えています。

東京・千代田区にある機械部品メーカーの栃木屋も、去年10月に年間3日のボランティア休暇の制度を設けました。

これまでも有休を取って東日本大震災などの被災地にボランティアに行く社員がいたほか、東京オリンピック・パラリンピックに向けてできることはないかと検討した結果だということです。

ただ、10日以上という今回の募集要項案についてたずねると、担当者は「10日は長いですね…」とつぶやきつつも、「3日以上は有給を取ることになってしまいますが、ボランティアに参加したいという社員がいれば積極的に後押ししたいと思います」と話していました。

yar180329.7.jpg東京商工会議所が去年10月に行った調査では、回答したおよそ1200社のうちボランティア休暇があるのはわずか6%。10日以上のボランティア休暇があると答えたのは23社でした。
今回、公表された募集要項案。組織委員会はことし7月下旬までに最終的な内容を決め、9月中旬から12月上旬にホームページ内の応募ページでボランティアを募集することにしています。

ボランティアを希望する人たちが積極的に声をあげ、より参加しやすい環境を整えていくことが必要だと感じました。

投稿者:飯田 暁子 | 投稿時間:15時01分

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