2018年03月07日 (水)ピョンチャンは「初のロボット五輪」と言えるのか


※2018年2月19日にNHK News Up に掲載されました。

世界で最もロボットの導入が進む国はどこか。IFR=国際ロボット連盟が2月7日に発表した「ロボット密度※」を調べた調査があります。3位のドイツ2位のシンガポールを大きく引き離して1位となったのは韓国。現在行われているピョンチャンオリンピックで、韓国はその高いロボット技術を世界にアピールしたい考えです。記者がその現場を見て回りました。
(※製造業で従業員1万人あたりに導入されている産業ロボットの数)

ネットワーク報道部記者 佐伯敏

pyo180219.1.jpg

<ロボットのスキー大会>
高梨、高木、原、3選手のメダルラッシュに日本が沸いた今月12日、ピョンチャンから車で1時間ほど離れたフェンソンのスキー場では、オリンピックとは別の熱戦が繰り広げられていました。

ロボットのスキー大会「ロボット・スキー・チャレンジ」には韓国の企業や大学、研究機関が開発した8体のロボットが出場し技を競っていました。

高さ50センチ以上、2本の足で立ち、膝などが曲げられる関節を備えていること、そして当然ですが、スキー板とポールを使うことなどが出場条件です。

「ロボットに赤と青の旗が絡まってしまいました! 太極旗のようです! なんと愛国的なロボットなのでしょうかー!」

ダンスミュージックの重低音とともに軽妙な実況がゲレンデに鳴り響く中、ロボットはさっそうとポールとポールの間を滑走していきます。備え付けられたセンサーでポールの旗の色を認識し、器用に右、左とコースをとります。

すべてのロボットがうまく滑ることができたわけではなく、コースの最後までたどり着いたのはむしろわずか。うまく方向を変えることができず、会場を囲むネットに突っ込んでしまうロボットもあれば、スタートのブザーが鳴ったものの、いっこうに動かないロボットもありました。

pyo180219.2.jpgロボットの調整作業
この日の現場の気温はマイナス13度。強い風も吹き付けます。ちょうど同じ頃、スキーアルペンの女子大回転は強風のため延期されていました。ロボットにとっても過酷な環境に変わりはなかったようです。

そんな中でも訪れた人たちはロボットの決めるターンに大きな歓声を上げ、転倒すれば落胆のため息をつき、会場は盛り上がりを見せていました。

大会を主催した韓国ロボット産業振興院のキム・ドンウクさんはNHKの取材に胸を張りました。
「ヒューマノイド(人型ロボット)を自律走行させるのは非常に高い技術を要します。今後、韓国のこうした技術を世界と共有していければと考えています」

pyo180219.3.jpgキム・ドンウクさん


<ロボットを前面に打ち出す韓国>
韓国はピョンチャンオリンピックを「初のロボット・オリンピック」とすることに力を入れてきました。

12月に行われた聖火リレーでは3体のロボットを登場させ、その映像は開会式にも使われました。
今回の大会では、オリンピックの競技会場や選手やメディア関係者の宿泊施設などに11種類のロボット85体を配置しています。そのいくつかをご紹介しましょう。

これは人型案内ロボット「フューロ」。メディア関係者の宿泊施設のフロントにいました。顔は、ピョンチャンオリンピックのマスコットキャラクター「スホラン」で、笑ったり、愛想を振りまいたり、さまざまな感情表現をします。

pyo180219.4.jpg言語設定で日本語を選べば、「この近くでおすすめのレストランは?」と質問すると地元カンヌンの名物の料理を出す店を紹介してくれますし、「アイスホッケーの会場はどこですか?」と聞けば会場の場所を教えてくれます。

このほか、記念写真を一緒に撮影できたり、「フォローミー」というと私の後ろをついてくる機能もあります。競技会場などにも配置されていて、観戦に訪れた人の人気を呼んでいました。
メディア用の作業ルームで仕事をしていると、おもむろに何かが近づいてくる気配が。それが「飲み物運搬ロボット」です。

pyo180219.5.jpg自らオフィス内を移動し、記者たちが作業している机と机の間で止まると前面の扉が開き、中にある飲み物を取り出すことができます。部屋の床には記者たちが持ち込んだカメラやかばんが置かれていますが、センサーで感知し、よけながら走行します。ただ、繰り返しやってくるので、こちらは仕事に集中できません。

このほか、すでに家庭で普及しているお掃除ロボットや、最新の競技情報などを床に投影しながら走行するロボット、観賞用の魚型ロボットなどが、いずれも私たちメディアの目につきやすい場所に配置されていました。

pyo180219.6.jpgただ、充電中だったり、故障中だったりするケースもあり、「ロボットがオリンピックのさまざまな場面で活躍」というには、まだほど遠いという印象です。どちらかと言えば物珍しさが先に立ち、今回の大会はあくまでも「ロボット展示会」の域を超えていないように感じました。


<ロボットと五輪これからどうなる>
私はロボットの導入の指揮をとった人物に話を聞くため、韓国中部のテジョン市にあるロボット研究室を訪ねました。
pyo180219.7.jpg研究室の搭乗型ロボット
この研究室はKAIST=韓国科学技術院にあり、ロボット開発の分野で韓国最高峰とされています。研究室には聖火リレーでも使われた搭乗型ロボットなどが置かれており、14人の学生が所属しているそうです。

この研究室の代表、オ・ジュンホ教授に話を伺いました。

(記者)
今回のオリンピックで教授はどのような役割を担ったのでしょうか。
(オ教授)
ロボットをオリンピックに導入したいと要請がありました。私の役割は、ロボットに高いレベルのサービスを求める期待と、実際にロボットが持っている能力を調整し、オリンピックで役割を果たせるようにすることでした。

pyo180219.8.jpgオ・ジュンホ教授
(記者)
ロボットがオリンピックで前面に打ち出されるのは今回が初めてです。これは韓国のロボット開発においてどのような意味を持つのでしょうか?
(オ教授)
ロボットはテレビのドキュメンタリー番組や展示会にはたくさん登場しますが、われわれの生活で接するロボットは実際には多くありません。そのため、限られた範囲ではありますが、「ロボットが実際にこのように利用される」ということを見せるモデル事業のようなものだと言えます。
(記者)
2年後、東京でオリンピックが開かれますが、その時、ロボットはさらに大きな役割を担うようになるでしょうか?
(オ教授)
私の知る限りでは2020年の東京大会もロボットの役割を非常に重要だと認識しているし、さまざまな準備をしていると直接、間接的に感じています。(今回の)冬季五輪にはすでにロボットが参加していますが、技術的に完成度が高いとは言えません。いくつかの分野で簡単な例としてお見せしているだけです。東京五輪では今回に比べてさらに多くの分野でロボットが導入され、五輪期間中の関連イベントにも登場すると聞きました。私自身も期待していますし、成功を願っています。


<2年後東京は何を提示するのか> 
インタビューのあと、オ教授は「威勢のいい話ができなくてごめんなさい」と話していました。ロボットに対する社会の期待の大きさと、常に安定して稼働させることとの間にまだまだ大きなギャップがあることが伺える言葉でした。

ハイテクのイメージが定着し、実際にヒューマノイドロボットの分野で世界をリードしてきた日本。東京オリンピックでは世界から大きな期待の目で見られることは間違いありません。

今回の韓国の経験を学び、2年後、日本が世界に何を提示できるかが問われそうです。

投稿者:佐伯 敏 | 投稿時間:17時24分

トラックバック

■この記事へのトラックバック一覧

※トラックバックはありません

コメント

※コメントはありません

コメントの投稿

ページの一番上へ▲