2018年03月05日 (月)ピョンチャンでおなかがすいたら


※2018年2月14日にNHK News Up に掲載されました。

東京からピョンチャンに出張して1週間余り。長期の海外出張では毎日の食事が悩みの種ですが、そこは比較的なじみのある韓国料理。これまでのところ、おいしくいただいています。そんなピョンチャンオリンピックの「食」事情、取材してきました。

ネットワーク報道部記者 佐伯敏

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<巨大フードコート>
「焦るんじゃない。佐伯は腹が減っているだけなんだ」

この日、午後3時まで氷点下13度のスキー場で取材し、昼食を食べそびれた私は、グルメマンガのセリフを思い出しながらピョンチャンの町を歩いていました。
「そうだ!フードコートがあったか」

pyo180214.2.jpg私が向かったのは、オリンピックにあわせてオープンしたピョンチャン・フェスティバルパーク。地元、カンウォン道(江原道)の郷土料理などを一堂に集めた巨大なフードコートがあることを思い出したのです。


<桃プルコギって何だ>
フードコートには食事からデザートまで26種類の韓国料理の店が並びます。メニューを眺めながら歩くだけでも楽しい場所。

「イカとサムギョプサルのプルコギ…こりゃあいかにもって色してるな」
「ふぐスープ!そういうのもあるのか」

そんなセリフが頭の中をかけめぐります。

迷ったあげく、「桃プルコギ丼」と「もち米入りイカスンデ」を注文。

pyo180214.3.jpg「桃プルコギ」はカンウォン道南部の町、ウォンジュの知る人ぞ知る名物で、食べると後から桃の甘酸っぱさが口いっぱいに広がり、プルコギの肉づくしの中、すっごくさわやかな味わいが舌に残ります。

pyo180214.4.jpg一方の「イカスンデ」について韓国人のリサーチャーが教えてくれました。
「朝鮮戦争の際、北朝鮮から逃れてきた人たちが腸詰めで使う豚の腸の代わりにイカを使って作った料理です」
韓国版「イカめし」と言ったところでしょうか。チゲやチヂミだけではない、韓国の食文化の奥深さを知ることができました。


<KーFOODを売り込め>

pyo180214.5.jpgフードコートの隣には、「KーFOODプラザ」と銘打った大きな施設が併設されています。
日本でもよく知られている辛いカップめんやゆず茶など韓国製の食品をPRするコーナー、韓国の伝統的な食事のスタイルを紹介する展示、マッコリ作りを体験できるキッチンなどがあります。いわば韓国の食の博物館です。

pyo180214.6.jpg寒さが厳しいピョンチャン。屋内施設ということも手伝ってか、プラザには大勢の外国人が訪れていました。韓国のお酒の試飲をしていたドイツ人のグループです。

「非常にいい施設だと思います。韓国の食の歴史もわかるし、食品があれだけ多様なことに驚かされました」。

それぞれの食品には、どのように「体にいい」のか、韓国語と英語で書かれています。

pyo180214.7.jpg例えば、韓国の辛みそ、コチュジャン。
「栄養価の高いソースです。赤唐辛子のビタミンAに大豆のレシチン、アミノ酸…」などと書いてあります。展示棚のコチュジャンは、英語のラベルに「ヴィーガン・グルテンフリー」と書かれ、女性用のシャンプーと見まがうような洗練されたパッケージです。アメリカで人気なんだとか。
韓国政府は2012年から農水産物や加工食品を「KーFOOD」という名前でPRし、「健康志向」を前面に出して輸出に力を入れています。2017年の食品の輸出額は92億ドル。2年連続で5%以上の伸びをみせているそうです。

日本向けには「高麗人参」や「レトルトのサムゲタン(参鶏湯)」、東南アジアにはイチゴなどの農産物、ヨーロッパ向けには「エリンギ」などのキノコ類。地域によって人気の食材は異なるそうです。

韓国は今回、競技会場があるピョンチャンとカンヌンにKーFOODをPRする施設をオープン。世界中から集まった人たちに食文化をPRしようとしています。

pyo180214.8.jpgゆずをかぶって記念写真も撮れます


<多様な食にどう応える>
さてオリンピックでは、世界から集まるあらゆる外国人に対応した食事の提供も求められます。以前、中東のエルサレムに駐在していた私は、子どもの誕生日会を開くたびに、ユダヤ教の友達と、イスラム教の友達とどちらでも同じように楽しめる食事を出さなければならず、妻と頭を抱えていました。

みんなが満足できるメニューを提供するのは実に神経を使うものです。


<イスラム教徒が少ない韓国>
今回の大会で、食への配慮はどうなっているのか。参加国を見るとトルコ、モロッコ、パキスタン、イランなどイスラム教徒の多い国の名前も並び、韓国メディアは参加する選手の5%がイスラム教徒だと伝えています。

しかし韓国は日本と同様に、イスラム教人口の非常に少ない国です。韓国イスラム教中央会によるとその人口は15万人ほど。イスラム教の戒律にのっとった食材が提供されるハラルレストランは20か所にも満たず、そのほとんどが首都ソウルに集中しているそうです。競技が行われるピョンチャンやカンヌンにはありません。

pyo180214.9.jpgソウルのハラルレストラン


<マレーシアの会社とタッグ>
こうした中、オリンピックの会場で食事の提供を担当する韓国の「新世界フード」はマレーシアの食品会社「マミー・ダブルデッカー」の協力を得て選手村の食堂で提供するハラルメニューの開発にあたりました。

pyo180214.10.jpg選手村の食堂のハラルコーナー 「新世界フード」提供
マレーシアの企業の協力を得ることについて、新世界フードは取材に対して次のように答えました。

「外国人がキムチの作り方を学んでも完璧には再現できないのと同じです。新世界フードのメニュー開発チームもハラルフードの研究を進めてきましたが、ムスリムの食文化を完璧に理解することができず、マレーシアの会社の協力を得ることになりました」

「ハラル認証された食材のみを使い、保管場所、調理スペース、洗浄室、食器類も徹底的に場所を分けて使用しています」

新世界フードは、今回の協力関係をきっかけに、今後、ハラルのインスタントラーメンやスナック、ソースなどを開発し、マレーシアへの販路拡大につなげたいと話していました。


<東京オリンピックに向けて>
とはいえ、こうしたハラルフードが提供されるのは選手村やメディアの宿泊施設のみ。競技を見に訪れる一般のイスラム教徒の観光客は何を食べて良いかわからず、不便な思いをしているかもしれません。

2年後にオリンピックを開催する東京はどうか。ハラルフードを提供するレストランも増えていますし、大都市での開催なので事情は異なります。それでも、どこにハラルフードのレストランがあるのか、わかりやすい情報提供は欠かせないでしょう。

そしてハラルだけではありません。ユダヤ教徒にも食の戒律・コシェルがあり、ベジタリアンやグルテンフリーなど食の在り方は年々多様化しています。きめ細やかな対応ができるような準備が今から必要になりそうです。

投稿者:佐伯 敏 | 投稿時間:16時35分

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