2018年03月02日 (金)高梨選手涙の意味は?インタビュー取材は90秒 その舞台裏


※2018年2月13日にNHK News Up に掲載されました。

ピョンチャンオリンピック、スキージャンプ女子で銅メダルを獲得した高梨沙羅選手は、競技のあとのインタビューで涙が止まりませんでした。アスリートたちが発する言葉の中でも、競技が終わった直後のインタビューほど胸の内をストレートに表すものはありません。ただし、取材者に与えられた時間はわずか90秒。その舞台裏です。

ネットワーク報道部記者 佐藤滋

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<取材記者も感極まった高梨選手の涙>
12日夜、競技を終えて取材エリアに現れた高梨選手。NHKのジャンプの担当記者から「2回目のオリンピックを終えた今の気持ち」を聞かれ、その答えの途中に、言葉を詰まらせました。

int180213.2.jpg「何より最後のジャンプを飛んだあとに日本チームのみんなが下で待っていてくれたので、それがホッとしました」。
その後もスキーの板で顔を隠しながら、涙が止まりません。
「本当にこの4年間、やってきたことが最後のジャンプで形になったなと思いました」。

1年半前から担当となり、去年の夏からオリンピック直前まで密着取材を続けてきたこの記者も「感極まった」瞬間でした。


<インタビューのルールは90秒>
このインタビューを聞いたのが、競技の直後に選手たちに話を聞くことが出来るいわゆる「ミックスゾーン」と呼ばれる場所。柵で仕切られたメディア用の取材ブースで競技を終えた選手たちは、この前を通ることになっています。

int180213.3.jpgその気になれば柵越しにインタビューに応じてもいいし、嫌なら素通りすればよいという場所ですが、最大の魅力は競技の熱気がまだ選手に宿っている中で聞けること。
落ち着いた後に行われる記者会見や単独インタビューと違ってミックスゾーンのインタビューではこれまで数多くの名言や名場面が生まれています。

ただこの取材、ふだんの大会とは、大きく異なるルールがあります。それは「1社・90秒」のルール。世界各国から集まる報道陣が広く取材のチャンスを得られるようにするため、極めて短い時間に限定されているのです。


<頭を悩ます何をどう聞くのか>
私がこのルールの洗礼を受けたのが4年前のソチオリンピック。90秒のルールを守らせるため会場のスタッフが、私たちの取材に目を光らせます。

「なんとかもう少し言葉を聞き出すことが出来ないか」と質問を繰り出そうとすると「巻いて、巻いて」と手を回す、「トントン」と腕をたたく、「ストップ」と視線を送る。いずれも私がスタッフから受けた「そろそろインタビューを終えて」という意味の合図です。
中には、ストップウォッチを持って厳密に時間をカウントしている人もいたほどでした。

それよりも頭を悩ませるのはわずか90秒で何をどう聞くか、考えに考えなくてはなりません。勝負どころでの心境は?勝因、敗因は?聞きたいことは、たくさんあります。オリンピック後の進退が注目される選手であれば「今後」について、ずばり聞かなくてはなりません。

競技中も対象となる選手の動きから常に目を離さず、何が質問のポイントになるか考え続けています。


<忘れられないインタビュー>
その中で忘れられない90秒のインタビューがあります。4年前に取材したソチオリンピック。私の担当は、高梨選手でした。

ワールドカップで勝利を重ねていた高梨選手は絶対的とも言える金メダル候補。当時17歳の高梨選手は日本中の注目と期待を一身に集めていましたが、みずからの力を出し切れず、表彰台にも上れませんでした。

int180213.4.jpg私も悔しい思いがこみ上げましたが、取材者としてはこのあとに訪れるミックスゾーンでのインタビューに全神経を集中させなければいけません。高すぎた周囲の期待と現実との落差をどう質問で埋めればいいのか、私は「結果が出ない要因をみずからどう分析しているか」を聞こうと考えていました。

int180213.5.jpgところがミックスゾーンに現れた高梨選手は、見たことのないような真っ赤な目をしていました。高梨選手はふだん、感情をあまり表に出しません。その強い精神力と秘めた思いこそが強さなのですがミックスゾーンに現れた高梨選手は涙を包み隠すことはありませんでした。

私は、その涙の意味をストレートに聞きました。

「優勝した人、表彰された人におめでとうという気持ちと、感極まったいろいろな気持ちがごちゃごちゃになって出た涙です」。「悔しさという意味の涙ではないのか」と重ねて聞くと「すごく悔しいんですけど、そう思うくらいならもっともっとレベルアップしてこのオリンピックに帰ってきたいと思います」と答えてくれました。


<4年前とは違う涙>
int180213.6.jpgそして4年後のピョンチャン。冒頭で紹介したミックスゾーンでのNHKの担当記者のインタビュー。

最後の質問は「ソチからの4年間はどんな4年間だったか」というものでした。

「きょうもそうなんですけど、本当にたくさんの人たちが応援してくださったので、それを力にここまで頑張ってこれました。たくさんの人たちが応援してくれたので…金メダルを取れなくて残念だったんですけど、また次に向けて頑張っていきたいと思います」。

答えの途中に90秒をすぎていましたが、高梨選手が涙を流し続けながら感謝の言葉を繰り返す様子に、そばに立つスタッフが答えを遮ることはありませんでした。

今回、私はこのインタビューを遠巻きに見つめていました。言葉はよく聞こえませんでしたがはっきりとわかったのは高梨選手がソチとは違う意味の涙を流しているということでした。

4年に一度の大舞台オリンピック。その熱気がさめやらない中で行われる90秒のインタビューには、語り尽くせないほどの思いがこもっています。選手の言葉一つ一つをじっくり味わってもらうためにもきょうも質問を考えます。

投稿者:佐藤滋 | 投稿時間:17時32分

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